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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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『今日は迎えに行けなくて悪かった。こっちは今、終わったところだ』
相変わらず短くて絵文字もない文章だけど、そこには不器用な先輩の優しさが詰まっている。
メールを見て思わずにやけていたところに突如声を掛けられ、身体が跳ねた。


「えっ、あ、ああ!ぶ、部活の先輩だよ!ちょっと連絡網が回ってきてさ!」

横目でこちらを窺う兄さんに、オレはなんとか詰まりながらも適当に嘘を紡いでいた。
ここでするりと言葉が出たのは我ながら上出来だと思う。
というのも、大事なことを思い出したからだ。

兄さんはずっとアメリカにいて、連絡を取り合っていたときだって、話題にしたことはない。
誰のことかって、勿論そう――篤也先輩のことだ。


(…ま、まずい…)

品行方正を絵に描いたような兄さんは、(オレがよく絡まれていたこともあるのだろうが)昔から不良達が大嫌いだった。
だから、ただでさえブラコンな兄さんと総長で恋人の篤也先輩が出会ったら…
(仲良くなったり…なんてことは…)

無理。絶対無理だ。
想像しようとしたけれど、無言で睨みあう構図しか浮かばない。
早くもきりきりと胃まで痛くなってきた。

(兎に角先輩のことは、兄さんにバレないようにしないと…!)


『気にしないでください。今はちょっと立て込んでいるので、夜にまたメールします』
愛想も無い素っ気無い文章だが、長々と連絡しているのも怪しまれるかもしれない。
先輩にはあとで謝ろうと思いつつメールを打っていたオレは、その横顔を兄さんがじっと見つめていたことなんて気付くはずもないのだった。



オレ達は帰る前に、地元の中型スーパーへ立ち寄ることにした。
今日の夕飯の材料を買うためだ。

「何作るんだ?」
「兄さんの好きなものにするよ?」
「じゃあ、鯖の味噌煮で!」
「うん、了解」
久しぶりの日本食にうきうきと嬉しそうな兄さんに笑いながら、オレは待ち受け画面のままの携帯に視線を落す。
(さっきのメール、ちょっとよそよそしかったかなあ…)

いくら急いでいたからといっても、もう少しなにか加えればよかったかも。
最後の語尾に絵文字の汗をつけたところで変わらないよなあ…などと考えたらキリがない。
先輩がそんなことで怒るような人でないことは十分判ってはいるのだ。
(判ってはいるのだけど…)

返事の無い携帯に、ふと不安に駆られてしまう。


「おーい、直?魚はこっちだろ?」
「へ?あ…ごめん!」
気付くと曲がるはずの通路を通り過ぎていた。

(駄目だ、今はこっちに集中しないと…っ)

こちらにも鋭い人がいるのだ。
迂闊にボロを出さないようにしないと、と顔を引き締め、オレは踵を返した。


気を取り直して、鮮魚コーナーを覗く。
今日は父さんが出張でいないけれど、鯖の切り身を4枚買えば先輩へ作ってあげられるかな、と頭の中で計算する。
先輩はオレの料理が一番美味しいと言ってくれるから、最近はたまに夕飯も届けるようになっていた。
今日は兄さんもいることだし、渡す時間があるかはまだわからないけれど…迷いつつ、2パックを手に、兄さんの下へ戻ることにした。
「兄さん、おまたせ…」

カートと一緒に待っているその姿を探したオレは、その光景に目を見張った。
兄さんをぐるりと、数人の女性が囲んでいたのだ。


(何時の間に…)

「ちょっと、今そこにモデルのミナトがいるって!」
「嘘、マジ!?」
興奮しながらオレの横を通り抜けていく女性達。
それを聞いて、そうか、と思い出す。

兄さんはアメリカの大学へ留学した後も、帰国するたびに頼まれてモデルを続けていた。
人気絶頂の最中で辞めてしまったこともあり、熱望するファンが多かったらしい。
だから今でも兄さんのことを知っている人は多いのだ。

「すみません。オレ今はモデルも辞めてるし、それに今日は弟と来てるんで…」
サインや写真を強請る女性陣に眉を下げながらも、兄さんはやんわりと断る。
だが彼女達はそのフレーズに反応してしまった。

「え、弟さん?」
「もしかして、同じ美形じゃ…!?」
(う)

そこに注目しないで欲しかった…
勝手に盛り上がっている雰囲気に足がぴたりと止まる。
こんな状況下で出て行けるほど、オレは強心臓の持ち主ではない。

と、その中の一人がちらりとこちらを見遣った。
「…ねえ、あの子じゃないわよね…?」
「ええ?まさか!」
(うう…)

そのまさかなんです。
ひそひそと囁く声ほど、いやでも聞こえてしまうものだ。
「有り得ないって!似て無さすぎだし」
「なんていうか、平凡顔だよね」
「あんなんじゃ隣歩けないでしょー」
「…っ」

オレは俯き、ぐっと唇を噛み締めた。
小さい頃からだから散々言われ慣れているし、自分でも十分判ってはいるのだけど…ここまで真正面きって言われてしまうと流石に傷つく。
(この平凡顔で不満なんてないし、いいんだけどさ…!)


せめて心の中だけでも強がっていると、突然ドン、という大きな音がした。

その場の全員がシン、と黙り込む。
スーパーの柱を殴ったのは、兄さんだった。


「彼がオレの大事な弟ですが、なにか?」

にっこりと微笑を浮かべてはいるが…その顔は、怒りに満ちていた。

「い、いえ…」
紙面での蕩けるような笑顔しか知らない女性陣は、雰囲気にすっかり萎縮してしまったようだ。
かくいうオレもそんな兄さんは数度しか見たことがないので、息を呑む。


兄さんは女性達の輪から抜け出すと、オレの腕を掴んで歩き出した。
「行こう」
「え、あ、うん…」


引かれながら、後ろを振り返る。
流石にあんな顔を見せられて、誰かが付いてくることはなかった。
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