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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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彼が放ったボールが、まるで引き寄せられているようにリングの輪の中を通る。
周囲の落胆とは正反対に、俺はその光景に感嘆の溜息を吐いた。

綺麗なフォームはひとつの絵画のようで、彼が投げるときには時間が止まってしまったような感覚に陥る。
そんな俺の時間を動かすかのように、試合終了のブザーが鳴り響いた。

ふっと彼の真剣な表情が緩み、次には駆け寄ってきたチームメイト達と笑顔でハイタッチを交わしていた。
クラスメート達が諦めてぞろぞろと離れていく中――俺は輪の中心で輝いているそんな唯一人からずっと、視線が放せなかった。

じっと見つめていたからだろうか。
同じチームだった城ヶ崎と2、3言会話を交わしたあと、彼の視線がこちらへと動いた。

「巧っ!」
「お疲れ、聖人」
俺を見つけるなり、こちらへと駆け寄ってきてくれた。
試合後ということもあり薄っすら掻いている汗の色香に、どきりとする。


「へへ、観たかー今の…って、やば」
しかし傍に居たクラスメートに気付いたのだろう、途端にしまったというように口を押さえた。
聖人が気にするのも無理はない。
彼の対戦チームはうちのクラスだったのだ。

だが俺は首を振り、周りの奴らに聞こえないように小声で続けた。

「気にしなくていい。…実は俺は、クラスよりお前達を応援していたからな」
「…巧…お前っていいやつ…!」
本当に感動したらしい彼のリアクションは大袈裟だったが、それがらしくて口元が緩む。

「今の聞いた、俊!」
「うん、有難う。西園寺くん」
隣に来ていた城ヶ崎が控えめに微笑む。
接点の少ない彼にとっては、まだ自分は恐い印象なのだろう。
頭の端で漠然と思いつつ、聖人と会話を続ける。

「大差だったな」
「いやーちょっと動きすぎたかも。もう体力残ってないや」
謙遜してみせる聖人だが、息が切れている様子はない。
今回の球技大会の種目である、バスケ部やサッカー部等の部員達は判る様にユニフォームを着るのが決まりになっているから当然なのだが、素肌を晒すその格好についつい目線がいってしまう。


「あ、そうだ!今ちょうど翼がサッカーやってんだ!皆で観に行こうぜ!」
「……ああ」
「うん!」

悶々としている俺に気付かない聖人が、突然思い出したように声を上げた。
途端に不機嫌そうなそれが出たのは、仕方の無いことだろう。
勢いよく返事をしてから、城ヶ崎が困ったように眉を下げた。

「あ…と、ごめん聖人くん。僕お手洗いに寄りたいから、先に行っててくれる?直ぐに追いつくね」
「ほーい、了解!じゃ、行こっか」
「ああ」
手を振る城ヶ崎と別れ、首にタオルを掛けただけの聖人と二人、体育館を出る。

「あーやっぱ外の方が涼しいわ」
「……」
「って巧?何固まってんだ?」
「……気にするな」
体育館は風がないから、と言いながらユニフォームの襟を掴んで仰ぐような仕草をする。
わざとらしい咳払いをして誤魔化すが、ちらりと覗いた胸元は大変目に毒だ。


聖人が信頼している友達に対して無防備だということは、以前聞いた過去の話からも察することはできる。
だからだと理解はしているのだが…そこに希望を持ってしまう自分は、やはり浮かれすぎなのだろうか。

「お、やってるやってる!」

グラウンドに出ると、まさに試合の真っ最中だった。
校舎より下にあるグラウンドの脇には傾斜があり、芝生が広がっている。
今は観戦席と化しているそこへ、俺達も腰を降ろす。

すでに試合は後半に差し掛かっており、点数をみるとすでに3-0と聖人達のクラスが圧倒的に勝っている状況だった。
対戦相手のクラスにはサッカー部員もいるというのに、どうしてここまで点差が開いてしまったのだろうか。

その謎は直ぐに解ける。


翼がセンターラインでボールを受け取ると、一直線に駆け上がる。
「お、翼取ったぜ」

彼は敵チームの選手を鮮やかなドリブルで交わしたかと思うと、ものの十数秒であっという間にゴールを決めてしまった。

「うわ…っスゲー!」
じっと食い入るように眺めた聖人が堪らず、といった歓声があがる。
それは彼だけではない。味方は勿論、他のクラスの生徒も観客となり夢中になっていた。
大方翼目当てなのだろう。何をしてもいちいちサマになる奴だ。

こんなに点差がつけられては最早戦意喪失だろう。
相手の動きがのろのろと鈍く完全に諦めムードになったところでホイッスルが鳴り、試合は圧勝のうちに幕を閉じた。
「おっし!勝った!」
「…ああ、よかったな」
ガッツポーズをしたまま、聖人は未だに興奮冷めやらぬといった様子で、先程のシュートについて熱く語る。

「しかし、あの角度から曲がるか?フツー!あいつ何でも出来過ぎだよな!」
「…そうだな」
「大体さあ、翼が部活やってないのが不思議なくらいなんだよ!アイツ中学のときも引く手数多で」
「聖人」
これ以上聞きたく無くて、不自然に遮る。


「…それ以上は、やめてくれ」
「…へ…?巧…?」

怪訝そうな彼と至近距離で視線が交じる。

(…ああ、駄目だ)

近頃――俺はいよいよを持って、我慢が効かなくなっていた。
聖人の話を聞いた後から、好意と同時に――嫉妬心さえも、深まる一方だ。


俺だけを頼って欲しい。
翼じゃなく、俺を。

なのに聖人が口にするのは翼のことばかりで、正直言って、かなり堪らない。
だからつい、邪魔をしてしまった。
慎重に接していたつもりなのに、と唇を噛むが今更だ。
こんな空気の中では誤魔化しようもなくて…俺は腹を括り、口を開いた。


「…お前の口から、翼のことは聞きたくないんだ」
「…ど、どうして?お前ら喧嘩でもしてんのか…?」
「…そうじゃない。そうじゃなく、ただ…」
「ただ…?」

当然だが困惑している聖人の手を、そっと握る。
芝生の上に投げ出されていたそれは触れるとまだ余韻のせいか熱いくらいで、それさえも愛しく思えてくる。

びくり、と肩が揺れた彼が――透明な瞳で何故と問い掛けるようにこちらを見つめた。


これを告げてしまったなら、もう二度と戻れない。
この信頼関係も。この無邪気な笑顔も。
それでもいいのか。
このままでなくても、踏み入れてしまっても。

ぐるぐると思考は何回転もして――結局いつも同じ答えに、辿り着く。


その危険を冒しても欲しいのだ。
彼にとって、唯一人となるその座を。
特等席を。

「俺は」

俺は指を絡めて距離を縮めながら、その目に映りこむ自分を見つめた。



「お前のことが、好きなんだ」





なにかがこわれる、音がした。
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