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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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Side:巧

聖人の話が終わって暫く、俺は言葉も発することが出来なかった。
夕暮れのベンチに、長い陽が射す。
駅前の小さな公園のような広場で腰掛けて聖人が話してくれた過去はあまりにも過酷で、今までの彼の印象をまるきり変えるものだった。

(…いや、違うな)

ふと、心に思った感想を訂正する。
普段の明るい彼からしてみれば、想像がつかない程の悲しい話だ。
だが、時折驚くほど他人の機微に鋭いところも…これらの出来事が関係しているのだとすれば、納得できた。

全て乗り越えて今こうして笑っていられるまでに、どれほどの葛藤があったのだろうか。
推して測ることなど出来ないそれに、どんな台詞も薄っぺらく思えてしまう。

そんな俺に誤解したらしい。
聖人が困ったように、手元のジュースの缶をくるくると両手で回した。

「…ごめん、重かったよな?」
「そうじゃない…悪かったな、こんな話させて…」
「ううん、それはいいんだ。巧になら、話してもいいって思ったし」
「…っ」
本当はこちらが励まさなくてはいけない側なのに、却って気を使われてしまう。

その姿があまりに眩しくて…眩暈がしそうだ。

せめてもと腕を伸ばして、その癖のある髪を撫でた。
ブラウンの瞳に視線を絡めて、本心からの言葉を告げる。

「…お前は、強いな」
「そんな…こと、ないよ。翼にも一杯迷惑掛けちゃったし…」
「いや。強いよ…お前は」

重ねて続けると、瞳が揺らいだ。
泣くかと思ったが堪え、聖人は己の心臓を指して噛み締めるように続ける。

「…今でも母さんのことを思うと、ここが痛いよ。…でも、もう後悔だけを抱えて生きるのはやめたんだ。母さんに胸を張れるように生きようって…そう、決めたから」
そして顔を上げた彼は、笑顔さえ浮かべていた。

「それに、オレ…広海に入ってよかったって思ってる。翼や…巧達が、居てくれるから」
「……聖人…」

ああ。なんて気高いのだろう。
その心根が、言葉が、全てが澄んでいる。

苦難を経験したからこそ感じることの出来るその志の高さに、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

(護りたい)

心の底から、思った。
護りたい。この笑顔を――傍で、見ていたい。


やはり彼が好きなのだと、そう心が叫んでいた。

Side:俊

暫く、僕は黙ったまま足元を見つめていた。
何かを言わなくちゃいけないと思うのに、言葉が喉に張り付いてしまったように出てこない。

そんな僕に構わず、翼は夕暮れの迫る空を仰いだ。

「…凄いだろ、あいつ」
「…そう…だね」
「オレはただ背中を押すことしか出来なかったからさ…ここまで頑張れたあいつには、頭が下がるよ」
最後の方は独り言のように呟いて、コーヒーの缶を仰ぐ。

今まで、ただの悪友だと二人が呼び合うのを鵜呑みにしてきたけれど…彼らの絆はそんな括りでは到底まとめられないものだった。
それに、僕がいかに何不自由なく暮らしていたのかと――改めて身に詰まされる思いだった。
聖人くんの笑顔はいつだってこちらまで明るくなるようなもので、そこにそんな壮絶な過去を乗り越えてきたんだなんて知りもしなかった。

(…駄目だな、僕は)

何も見えていないんだな、と己に嫌気さえ差す。

そして同時に気になったのは…そんな彼を支え続けた、翼の献身的なバックアップだ。
なにもしていない、と謙遜するけれど、僕だったら同じことが出来るだろうか。

それを、どうして翼はそこまで。

「なんて、本人に言うと調子付きそうだから内緒な」
言ってて照れてきたのか、おどけたように肩を竦めてみせる彼の姿は、いやに新鮮に映る。

「聖人くんが…大事なんだね」

ふと、心の声が漏れてしまった。
しまった、と思うが遅く、翼は弾かれたようにこちらを見つめた。
不意に見詰め合ってしまって、思わず心臓が騒いでしまうのが恨めしい。

と、翼の瞳が動いた。
僕ではない誰かを想って、そこに暖かい光が宿る。

「…まあ、な」

(…ああ、やっぱり)

短く、ただ噛み締めるような呟きだったけれど、僕にはそれで充分だった。

思えば、翼はいつも優しかった。
誰にもそれは平等で、僕はずっとそんな彼が好きだった。
今なら解る。
優しい――ただ、それだけなんだ。

真剣に怒ったり屈託もなく笑ったり心の底から心配したり――そういう感情の機微がない。
多分、周りに関心が無いんだろう。

ただ、一人のひとを除いて。


肩が触れるくらいの距離にいるのに、僕達の間にはどこまでも切れない大きなラインがあるのだ。


「さ、そろそろ帰るか。俊が遅くなったらいけないしな」
「…そう、だね」
立ち上がり軽くズボンを叩いた翼が、完璧なまでに笑みを浮かべる。

それが僕には無性に虚しくて――有難う、と言った声は掠れていた。

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