オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
- 10/09 【お知らせ】コメント欄について。
- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
This is new entry
中間テストの返却も終わってしまえば、生徒達の間には早くも夏の開放感が訪れる。
長い夏休み明けまで、次のテストはないからだ。
そして文武両道をモットーにしている広海高校では、この時期体育祭とは別のスポーツイベントが待っている。
それが球技大会だ。
男女混合の10人のチームを作り、サッカー、バスケ、ドッチボール、バレーボールの4種目を競う。
ただでさえ体育祭が憂鬱な僕にしてみれば、追い討ち以外の何者でもないのだけれど…テスト勉強で疲れていた大多数の生徒にしてみればいい息抜きになるのだろう。
クラス編成後大きなイベントということもあって、日々の練習で生徒達もまとまりが出来つつあった。
それに夏休み前に修学旅行もあるから、ここで仲良くなって欲しいという先生方の配慮もあるのだろう。
…なんてつらつら考えてみたけれど…個人的には早く過ぎ去ってくれないかな、と願わずにはいられないのだった。
今日も今日とて球技大会の練習で体育の時間を費やし、男子更衣室と化している教室で学生服に着替える。
背も低いのに人数合わせでバスケにされてしまった僕は嫌で仕方なくて、やっと終わったことに安堵の溜息が漏れる。
しかし、隣にいる彼は鼻歌交じりで実に上機嫌だ。
「聖人くん、楽しそうだねえ…」
「お?そりゃ勿論!オレ勉強より身体動かしてるほうが断然好きだし!」
屈託のない笑顔が眩しい。
その言葉の通り、聖人くんは練習というのにとても生き生きとしていた。
他クラスとのチームバランスも考慮し、バスケ部の選手はチームに2人までとされている。
そのなかで貴重な戦力ともいえる彼は今日も絶好調で、一人で何点も入れていた。
「はあ…羨ましいよ。僕にも同じだけの身体能力があればなあ…」
「いいんだって、こんなのは個人で得意不得意があんだからさ!オレは頼まれたって科学部には入りたくないし」
先日僕が科学部に正式に入部したことを思い出したのか、途端に渋い顔になる聖人くんに笑う。
励ましてくれている、その優しさにほっこりした。
中学のときの話を聞いてしまったと謝罪したときも、僕だからいいよと笑って赦してくれた。
勿論僕も他言するつもりはない。信頼しているからこそ、教えてくれたのだから。
他の生徒達は各々喋っていて、誰もこちらを気にしてはいない。
素早く辺りを確認した僕は、そっと音量を下げて話題を切り替えた。
「あの…ちょっと変なこと聞いてもいい?」
「ん?なになに?」
「聖人くんにとっての翼って…どんなイメージ?」
「え?翼?」
あまりに飛んだ話題に、ブラウンの瞳が大きく見開かれる。
彼が日直で後片付けのためまだ来ていないからこそ聞いてみたのだけれど、やっぱり急すぎたかな、と内心冷や汗を掻く。
翼から二人の過去の話を訊いてから、ずっと確かめてみたいことが、あったんだ。
「んーそうだな~」
シャツのボタンを締め終ってから、聖人くんは首を捻りながら答えてくれた。
「一言で言うなら…鬼だな」
「へっ?」
「スパルタの鬼。もうな、怒るとすっげえ恐えんだから」
「……ぷっ」
そんな回答が出てくるとは予想外で、つい噴出してしまった。
確かに二人のやり取りは名物だけれど…思わず思い出してしまった。
僕につられて笑みを浮かべながら、でも、と聖人くんが続ける。
ふと真顔になれば、そこにはいつもの聖人くんはいなかった。
「オレに真正面でぶつかってきてくれたのはあいつだけだから……厳しいとこもあるけど、ちゃんと受け止めなきゃって思えるんだ」
「聖人くん…」
(やっぱり…)
内心である想いが確信へと変わる。
堂本翼という人の印象と聞くと、多くの人が優しくて勉強も出来て…とまさに模範的な優等生だというだろう。
けれど、聖人くんだけは違う。
僕達が雲の上のような存在に思っている彼のことを、友達として…否、大切な親友として、本来の姿を見つめているんだ。
だから――彼らの間には、他の誰も踏み込めない絆が、あるのだろう。
「それにほら、あいつってお節介だし」
急に恥ずかしくなったのか早口になる聖人くんに対し、僕も何か言わなきゃと思って口を開きかけると、そこへ被せるように当人の声が聞こえた。
長い夏休み明けまで、次のテストはないからだ。
そして文武両道をモットーにしている広海高校では、この時期体育祭とは別のスポーツイベントが待っている。
それが球技大会だ。
男女混合の10人のチームを作り、サッカー、バスケ、ドッチボール、バレーボールの4種目を競う。
ただでさえ体育祭が憂鬱な僕にしてみれば、追い討ち以外の何者でもないのだけれど…テスト勉強で疲れていた大多数の生徒にしてみればいい息抜きになるのだろう。
クラス編成後大きなイベントということもあって、日々の練習で生徒達もまとまりが出来つつあった。
それに夏休み前に修学旅行もあるから、ここで仲良くなって欲しいという先生方の配慮もあるのだろう。
…なんてつらつら考えてみたけれど…個人的には早く過ぎ去ってくれないかな、と願わずにはいられないのだった。
今日も今日とて球技大会の練習で体育の時間を費やし、男子更衣室と化している教室で学生服に着替える。
背も低いのに人数合わせでバスケにされてしまった僕は嫌で仕方なくて、やっと終わったことに安堵の溜息が漏れる。
しかし、隣にいる彼は鼻歌交じりで実に上機嫌だ。
「聖人くん、楽しそうだねえ…」
「お?そりゃ勿論!オレ勉強より身体動かしてるほうが断然好きだし!」
屈託のない笑顔が眩しい。
その言葉の通り、聖人くんは練習というのにとても生き生きとしていた。
他クラスとのチームバランスも考慮し、バスケ部の選手はチームに2人までとされている。
そのなかで貴重な戦力ともいえる彼は今日も絶好調で、一人で何点も入れていた。
「はあ…羨ましいよ。僕にも同じだけの身体能力があればなあ…」
「いいんだって、こんなのは個人で得意不得意があんだからさ!オレは頼まれたって科学部には入りたくないし」
先日僕が科学部に正式に入部したことを思い出したのか、途端に渋い顔になる聖人くんに笑う。
励ましてくれている、その優しさにほっこりした。
中学のときの話を聞いてしまったと謝罪したときも、僕だからいいよと笑って赦してくれた。
勿論僕も他言するつもりはない。信頼しているからこそ、教えてくれたのだから。
他の生徒達は各々喋っていて、誰もこちらを気にしてはいない。
素早く辺りを確認した僕は、そっと音量を下げて話題を切り替えた。
「あの…ちょっと変なこと聞いてもいい?」
「ん?なになに?」
「聖人くんにとっての翼って…どんなイメージ?」
「え?翼?」
あまりに飛んだ話題に、ブラウンの瞳が大きく見開かれる。
彼が日直で後片付けのためまだ来ていないからこそ聞いてみたのだけれど、やっぱり急すぎたかな、と内心冷や汗を掻く。
翼から二人の過去の話を訊いてから、ずっと確かめてみたいことが、あったんだ。
「んーそうだな~」
シャツのボタンを締め終ってから、聖人くんは首を捻りながら答えてくれた。
「一言で言うなら…鬼だな」
「へっ?」
「スパルタの鬼。もうな、怒るとすっげえ恐えんだから」
「……ぷっ」
そんな回答が出てくるとは予想外で、つい噴出してしまった。
確かに二人のやり取りは名物だけれど…思わず思い出してしまった。
僕につられて笑みを浮かべながら、でも、と聖人くんが続ける。
ふと真顔になれば、そこにはいつもの聖人くんはいなかった。
「オレに真正面でぶつかってきてくれたのはあいつだけだから……厳しいとこもあるけど、ちゃんと受け止めなきゃって思えるんだ」
「聖人くん…」
(やっぱり…)
内心である想いが確信へと変わる。
堂本翼という人の印象と聞くと、多くの人が優しくて勉強も出来て…とまさに模範的な優等生だというだろう。
けれど、聖人くんだけは違う。
僕達が雲の上のような存在に思っている彼のことを、友達として…否、大切な親友として、本来の姿を見つめているんだ。
だから――彼らの間には、他の誰も踏み込めない絆が、あるのだろう。
「それにほら、あいつってお節介だし」
急に恥ずかしくなったのか早口になる聖人くんに対し、僕も何か言わなきゃと思って口を開きかけると、そこへ被せるように当人の声が聞こえた。
「ほう、悪かったな鬼でお節介で」
「んげ、翼!」
いつの間にか僕らの背後に立っていた翼は、大変意地悪そうな顔をしていた。
「き、聞いてました?」
「聞いてました。そんじゃ、お節介ついでにこの前のテストの復習をだな…」
「あ!オレ今日バスケ部のランチミーティングだった!急いで行かなきゃ!じゃあな俊!」
「ったく、本当にすばしっこい奴め…!」
「へへーん!じゃな~俊!あとついでに翼も!」
「オレはついでか!」
「あははっ」
一連のやり取りに、僕だけでなく周囲からも笑いが起きる。
やっぱり明るくていいなあ、と彼の後姿を見送っていると、後方であるクラスメートが口を切った。
「進藤って悩みとかなさそうでいいよな~」
もう一人の生徒がそれに同調する。
「そうそう。人生楽しくて仕方ありませんって感じ?」
軽く侮蔑さえ含んだその調子に、思わず振り返った。
(酷い…)
いくら知らないとは言え、彼の過去を聞いた後だと、とても許せない発言だった。
「あいつってマジになることあんのかね?いつもへらへらしてばっかだよな」
「どうだか…オレなんて悩み事ばっかなのにさ~本当代わって欲しいくらいだぜ」
「ちょっと…!」
これ以上は聞くに耐えない、と口を開きかけた僕の隣から、静かな声が発せられた。
「――勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
――翼だ。
凍るような眼差しはあの時と同じもので、ぞくりと背中に冷たい波が起こる。
一度見たことのある僕でさえ恐怖を覚えるのだから、初めてだろうクラスメート達はしん、と静まり返った。
「そいつが何を抱えて何に悩んでるかなんて、目に見えないだろ?イメージだけで判断して傷付けるようなことを言うなよ」
「…っ」
いつに無い翼の強い調子に、2人はすっかり竦んでしまったようだ。
彼らだけではない。
クラスにいた全員が雰囲気に呑まれてしまったように、動けずにいる。
「それに今のは…あいつの友人として、絶対に許せない」
暫く時間が止まったかのような静寂があったが、やがて他の生徒からも翼に同調するような声が上がり始める。
四面楚歌だと悟ったのか、二人は萎縮しながら頭を下げた。
「…っ、わ、悪かったよ…」
「そんなつもりじゃなくて…」
じゃあ一体どういうつもりなんだとか、僕達じゃなく本人に謝るべきだとも言いたくもなったが、これ以上関わることさえ馬鹿らしくて僕は溜息を吐く。
彼らは一同の冷たい視線から逃れるように、そそくさと出て行った。
再び元のようにざわつきだした教室内。
ふうと、長い長い息を吐き出して、翼が前髪をやや乱暴気味に掻き揚げる。
彼からゆっくりと憤怒の気配が消えていくのを感じ、僕は顔を上げた。
いつもの冷静さを取り戻した黒檀の瞳は、やや気まずそうだ。
「…今の」
「……うん、分かってるよ」
あんなつまらない戯言を耳に入れて、素敵な笑顔を曇らせることなんてしない。
みなまで言わなくても、僕も同じ気持ちだから。
噛み締めるように数度頷くと、翼は目を細めてくしゃくしゃ僕の頭を撫でた。
「…ありがと、な」
その言葉はとても優しい響きで、僕の中にじんと沁みる。
嬉しいけれど、僕へと向いていないそれは…同時に僅かな痛みを与えるものだった。
「んげ、翼!」
いつの間にか僕らの背後に立っていた翼は、大変意地悪そうな顔をしていた。
「き、聞いてました?」
「聞いてました。そんじゃ、お節介ついでにこの前のテストの復習をだな…」
「あ!オレ今日バスケ部のランチミーティングだった!急いで行かなきゃ!じゃあな俊!」
言うが早いか、聖人くんは大慌てでドアへ逃げる。
翼が捕まえようと伸ばした手をするりと抜けたものだから、彼は悔しそうに盛大に舌打ちをした。
翼が捕まえようと伸ばした手をするりと抜けたものだから、彼は悔しそうに盛大に舌打ちをした。
「ったく、本当にすばしっこい奴め…!」
「へへーん!じゃな~俊!あとついでに翼も!」
「オレはついでか!」
「あははっ」
一連のやり取りに、僕だけでなく周囲からも笑いが起きる。
やっぱり明るくていいなあ、と彼の後姿を見送っていると、後方であるクラスメートが口を切った。
「進藤って悩みとかなさそうでいいよな~」
もう一人の生徒がそれに同調する。
「そうそう。人生楽しくて仕方ありませんって感じ?」
軽く侮蔑さえ含んだその調子に、思わず振り返った。
(酷い…)
いくら知らないとは言え、彼の過去を聞いた後だと、とても許せない発言だった。
「あいつってマジになることあんのかね?いつもへらへらしてばっかだよな」
「どうだか…オレなんて悩み事ばっかなのにさ~本当代わって欲しいくらいだぜ」
「ちょっと…!」
これ以上は聞くに耐えない、と口を開きかけた僕の隣から、静かな声が発せられた。
「――勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
――翼だ。
凍るような眼差しはあの時と同じもので、ぞくりと背中に冷たい波が起こる。
一度見たことのある僕でさえ恐怖を覚えるのだから、初めてだろうクラスメート達はしん、と静まり返った。
「そいつが何を抱えて何に悩んでるかなんて、目に見えないだろ?イメージだけで判断して傷付けるようなことを言うなよ」
「…っ」
いつに無い翼の強い調子に、2人はすっかり竦んでしまったようだ。
彼らだけではない。
クラスにいた全員が雰囲気に呑まれてしまったように、動けずにいる。
「それに今のは…あいつの友人として、絶対に許せない」
暫く時間が止まったかのような静寂があったが、やがて他の生徒からも翼に同調するような声が上がり始める。
四面楚歌だと悟ったのか、二人は萎縮しながら頭を下げた。
「…っ、わ、悪かったよ…」
「そんなつもりじゃなくて…」
じゃあ一体どういうつもりなんだとか、僕達じゃなく本人に謝るべきだとも言いたくもなったが、これ以上関わることさえ馬鹿らしくて僕は溜息を吐く。
彼らは一同の冷たい視線から逃れるように、そそくさと出て行った。
再び元のようにざわつきだした教室内。
ふうと、長い長い息を吐き出して、翼が前髪をやや乱暴気味に掻き揚げる。
彼からゆっくりと憤怒の気配が消えていくのを感じ、僕は顔を上げた。
いつもの冷静さを取り戻した黒檀の瞳は、やや気まずそうだ。
「…今の」
「……うん、分かってるよ」
あんなつまらない戯言を耳に入れて、素敵な笑顔を曇らせることなんてしない。
みなまで言わなくても、僕も同じ気持ちだから。
噛み締めるように数度頷くと、翼は目を細めてくしゃくしゃ僕の頭を撫でた。
「…ありがと、な」
その言葉はとても優しい響きで、僕の中にじんと沁みる。
嬉しいけれど、僕へと向いていないそれは…同時に僅かな痛みを与えるものだった。
PR