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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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視線が、オレを捉える。
途端、無表情だった顔が綻び、色が生まれる。
まるで陶磁器のような、どこか芸術品に似た美しさの近寄りがたい空気から一転、いい意味で隙のあるそれに周囲の生徒達がざわめき出す。

(ああ…もう…)
予想していた通りの一連の騒ぎに、オレは軽く眩暈がしていた。
引力のようなオーラを生まれながらにしてもつ人間は、やはりいるもので。
こういうのをカリスマというのだろうか…生憎自分には、とても縁遠い話だけれど。

ついつい皮肉めいた愚痴を脳内で溢しているうちに、男性は真っ直ぐにこちらへと歩みを進める。

「お、おい、直。なんかこっち来るけど…」
それはそうだろう。
しかしここで迂闊なことを言えば一気に注目を集めそうで嫌なのだ…もう遅いかもしれないけれど。

まるでモーゼの十戒のようにサッと分かれた群衆の間を抜け、ついに彼は目の前に立った。
影になってしまうほどの、いやになるくらいの身長差。
見上げると天に登った夏の太陽が眩しくて、オレは目を細めた。


と、彼が動く。
視界一杯に、近付いて。


「直~!!」


大声でそう叫びながら、オレを力強く抱き締めた。

一気に黙り込んでいた生徒達が色めき出す。先ほどとは違った意味で。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる力がこの人の気持ちを表しているのだろう。
そう思うと強く反発も出来なくて、オレはとりあえず呼吸だけは確保しようと頭だけ動かした。

「久しぶりだなあ、直!オレはもう淋しくて淋しくてっ…!」
ああ、だからそういう言い方は誤解を招くんだって!
オレの不安通り、皆は「どういう関係?」とヒソヒソ話している。
隣に立っていた順平は、すっかり固まってしまった。

それでもはた、と我に返ったようで、慌てて彼に声を上げた。
「って…!アンタ、いきなりなんなんです!?」
「ん?」
「そ、そうだよ…っ」

順平に気を取られ腕の力が緩んだところで、オレもハアと大きく息を吸って抗議する。
もうこんなぐちゃぐちゃになった状況では誤魔化すことは不可能だろうから、オレも腹を括る。
「そうだよ、吃驚したよっ!」

きっとこの場が固まるであろう――オレ達2人にとっては当たり前の、その言葉を音に乗せる。


「兄さん!」


「はは、悪い」とからりと笑うその表情からは本気は窺えなくて、もう…と拗ねたくなってくる。
「…って、え…?」
そんなオレ達のやり取りにすっかり置いていかれた順平達が、唖然としている。

「ま、待て待て…えっと、直…その人は…?」
「その…兄、です」
「どうも、いつも直がお世話になっております」
オレがぎこちない笑みを浮かべるのと、兄が微笑むのと、順平達皆が叫ぶのはほぼ同時だった。


「ええっ、兄弟!?」


左ハンドルの高級車は否応なしに注目を集める。
まるで所有者そのものだな、とオレは隣で運転しているその人を眺める。
と、ちら、と横目で見られて、うっかり見惚れていたことがバレてしまう。
けれどそんなことを言ったら益々喜ばせるだけなので、オレはワザと怒ったフリを続けた。

「兄さん目立ちすぎ!大勢の人に見られたじゃんっ」
「直~悪かったって…機嫌直してくれよ~」
情けない声を出すその横顔は、さっきまでとは違う家族だけに見せるそれで。
どこか他人に見えていたから、少し安堵もしていた。

「そういえば、家に帰ったら逢えるのにどうしたの?わざわざ迎えなんて」
「そりゃ勿論」
兄が帰ってくることは母さんから聞いていたので知っていたけれど…と思いながら尋ねれば、兄が女性なら卒倒しかねないほどの優しげな笑みを浮かべ、続けた。

「直に早く逢いたかったに決まってるだろ?」


「そ、そうですか…」
こんなイケメンに爽やかに微笑まれると、流石に兄弟でも照れてしまう。
つい赤くなってしまった頬を誤魔化すように、オレは曖昧な笑みで応えるしかなかった。


そう。信じられないことに、この人はオレの兄――山田湊、25歳。
9歳離れた兄は学生時代、成績は常に学年トップ、バスケ部エースで生徒会長もこなす――正に、完璧を絵に描いたような人だった。
おまけに街でスカウトされてからは、人気雑誌のモデルもやっていたのだ。

そのまま芸能界入りを強く薦められたものの、未練は全くなかったらしい兄はあっさりと断わると、米国の大学へと進学した。
そして、今は向こうに支社を持つ一流企業に務め、米国で一人暮らしている。

(うーん…考えれば考えるほど、凄すぎる…)
こんな平凡なオレとは、とても同じ血とは思えない。
ここまで兄が出来ると、弟が嫉妬したりやさぐれたりしてしまうのが世の常だろう。

けれど、オレ達は今までケンカすらした事がない。
あまりにも差がありすぎて、ということも、あるのだけど。
多分、その一番ともいえる、大きな要因は…

「そういえば、今日は直が料理当番だって?母さんからメールがあったよ」
「あ、うん」
頷くと、兄は本当の嬉しそうな、満面の笑みを向けた。

「そうか、直の手料理は世界一だからな。楽しみにしてる」


…この、大の弟馬鹿――故だと思う。
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