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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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一緒に帰らないか、と言うつもりだった。


「進…」
「じゃあな、堂本」

けれどオレの言葉は空回りする。
終業のチャイムが鳴ると同時に立ち上がった進藤が、一度も振り返ることなく教室を出て行ったから、だ。

「……」

言葉は軽いがそこに強い拒絶の響きを感じて、追いかけることも引き止めることも出来なくて。
ただただ、オレはもどかしい思いでその後姿を見送っていた。


進藤の様子が可笑しくなったのは3日前…好物の食べ方の癖を指摘した翌日だった。
図星で顔を真っ赤にする彼に、オレの中で無性にある衝動が沸き起こっていた。
しかしそれをおくびにも出さず、声帯はするりと驚くほど滑らかに言葉を紡いでいた。

『いいんじゃないか?オレは嬉しいけどな、お前のクセとか知れて』
『…は、』

彼の瞳がこれ以上無いくらいに大きく見開いて、オレを凝視する。
さり気無い仕草で視線を外すと、なんてことの無いように立ち上がった。
『さーてと、オレちょっとトイレ行ってくるかな』


教室の扉を閉めたところで、オレは堪えきれなくなって口元を手で覆っていた。

(うわ…何なんだよ、今のは)

判ってる。正常な判断能力はあるつもりだ。
だから――流石にない、と首を振る。
先程のオレの言い方は、まるで――…恋人に囁くかのように、甘い声色だった。

(どうかしてる)

戒めてみても、動揺は隠せない。
オレはヨロヨロと歩きながら、早く冷静さを取り戻そうと努力するしかなかった。

けれどオレが一番困っているのは、今の行為に嫌悪感を抱けない自分がいることで。
他人には深入りするなんて面倒なことはしたくない、そう訴える理性とは対照的に…もっと彼のことを知りたいと思う本能が疼く。

だから、オレは一晩迷い抜いた挙句――下校の際に彼を誘うことを、決めたのだった。



けれど彼はその翌日、昼休みももう終りだという時間に現われた。
クラスメートに適当な挨拶を交わすとのろのろとした歩みで自席へと着く。

そしてオレの顔を見ると、へらりと笑った。

『おはよー…って、もうこんにちは、か』
『…今日は随分遅いんだな』
『あー実は目覚ましに気付かなくってさあ~参っちゃうよなあ』
『……』

そんな言い訳が嘘だという事くらい、目を見れば直ぐに分かった。
だがオレは遅刻の理由よりも、それの原因の方が気にかかっていた。

やっと素の表情を引き出せたと喜んでいたのに、出鼻を挫かれた思いだった。
否、それどころか――進藤は感情を更に奥に仕舞いこんで、閉じ込めてしまっている。
処世術のように張り付いた笑顔が前よりも完璧すぎて、それだから余計に痛々しい。

進藤はこれ以上の会話を拒否するように、自分の席へ付くと腕を枕代わりに机へうつ伏せになった。
だから、唯一の繋がりである弁当のことを話すタイミングを完全に失う。
約束していたわけでも、当然義務でもなんでもない。

でも進藤の急な余所余所しさは、オレにショックを与えるには十分過ぎた。


それから数日、彼は以前のように遅刻を繰り返すようになった。
クラスメート達はやっぱり、というように思っているのか関わりたくないのか、当たり障りの無い会話しかしない。
元に戻ってしまったクラスの雰囲気はぎくしゃくしていた。


歯痒い。その言葉がぐるぐると脳内を回る。
なんとかしたいと思っても、余計に傷つけてしまいそうで踏み出せない自分がいる。

何故オレはこんなに、彼に固執するのだろう。
放っておいたって何の関係も無い。唯の友達――未満かもしれないが――だというのに。
何度もそう言い聞かせているのに、気付くと彼の横顔を見つめてしまう自分がいた。


そんな日が続いたある日、数学の小テストが返却されたときだ。
教師は進藤にテスト用紙を渡すなり、眉間に皺を刻み込んで呻るように言った。
「進藤…お前このままじゃ拙いぞ」
「え~?そうっスか?」

真剣な教師とは違い、進藤に動揺はない。
なんとも投げ遣りな反応に、初老の男性教師も目を細める。

「…お前にはちょっと特別授業が必要のようだな」
「ええ?補習とか勘弁っスよ!」
「オレがやったって真面目に受けないだろう。…そうだな…」

言いながら教師の視線がこちらに向く。
怪訝に思い振り返るが、先にはオレしかいない。

まさか。


「おい、堂本。お前、こいつの家庭教師やってくれ」


「え?」
「はあ!?」


その声は、見事に重なった。
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