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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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堂本翼は本当に変な奴だ。

オレにいきなりおかずを食わせた次の日から、毎日弁当を作ってくるようになった。
別に頼んでる訳でもなければ、使ってる訳でもないというのに、だ。
流石にこうも毎日だと周囲の目にも奇妙に映るのだろう、チラチラとぶつけられる無遠慮な視線が煩わしくなってきた。
特に女子のは嫉妬や羨望まで混じるものだから、面倒なことこの上ない。

ただでさえ、オレは浮いてるようなモンなんだ。だからそっとしておいてほしい。
オレのことなんて気にしたところで、堂本にはなんの得もないはずだ。
毎日弁当をくれる前にそう言ってやろうと――勿論いつもの通りの笑顔で、やんわりとだが――決意するのに、あいつをいざ前にすると言葉が出なかった。

(…クソ、何でなんだよ…)


内心そう毒づきながらも、理由は薄々気付いていた。

それで本当に、ぱったりと途絶えてしまったら。向こうが突然オレに興味を無くして、もうやめるからと言われたら。
ほんの僅かに生まれた他人との繋がりなんてものは、ぱったりと途絶えてしまうだろう。
今度こそ本当に、孤立してしまうに違いない。
一人で生きるだなんて息巻いていたのに、少し緩めばその程度の覚悟なのか、なんて…自分自身で気付くのが、怖い。

己の弱さを知るのが堪らなくて、オレは拒絶することも甘えることも出来ず、ただ弁当を受け取っているんだ。



「…何?」

オレは残りのウインナーを口にしながら、我慢出来なくなって視線を上げた。
どんな顔をしたらいいか分からなくてずっと下を向いて食べていたのだけど、先に食べ終えた堂本があまりにじっとこちらを見ているので気になっていた。

いつも食事中に、会話らしい会話はない。
それでもたまに目が合うとにこり、とそこら辺の女子が卒倒しそうな笑みを向けてくるから困る。

オレがこいつを誑かしてるだとか、そんな失礼な噂まで出てるらしい。
それを言うならオレの方だ、とも思ったが、変に刺激したくないので無言を貫いている。

(…ていうか、微笑む相手が間違ってる気がするけど)


頭も顔もいい堂本は、男女問わずあっという間に人気者になった。
絶えず色んな奴らから声を掛けられており、勉強なんかも見てやってるみたいだ。
オレは授業も殆ど聞いてないし勉強する意味もないから、どうでもいいんだけど。

そんな堂本に見つめられたら…そりゃ、居心地も悪くなるってモンだろう。
「ん?いやさ、お前ウインナー好きだよなって思って」
「まあ、好きな方だけど…」

ウインナーだけではなく、最近の弁当はオレの好物ばかりが入っている。
オレってそんなに分かりやすいのか、と小首を傾げていると、堂本は笑みを讃えたまま続けた。
「いつも一番最後に食べるから。進藤て、好物は残しておくタイプだろ?」
「……」

そう言われて、はたと手を止めた。
今まで意識なんてしたことがなかったが、確かにそうかもしれない。

(…うわ、恥ずかし)
子供染みたその仕草にかっと頬が熱くなる。
「べ、別に…そんなんじゃ…」
しどろもどろの言い訳じゃまるきり説得力もない。
堂本は幼子を見るような心持ちでいたのかと情けなくもなるが、それを察したのかすかさずフォローが入る。


「いいんじゃないか?オレは嬉しいけどな、お前のクセとか知れて」
「…は、」
「さーてと、オレちょっとトイレ行ってくるかな」

あまりにもサラリと言われたので、反応が遅れた。
ぼんやりとその背中を見送ってから、羞恥に蹲ることになった。
(もうなんなんだよアイツ…!意味わかんねえ…)

恥ずかしい恥ずかしい。
なんで同じ男にあんなこと言えるんだ。あれがアメリカでは普通なのか?

懸命に怒ってみても、熱くなった耳朶が暫く冷めなかった。



未だに母さん宛にくるダイレクトメールに辟易しながら、オレはメッキの剥がれかけた郵便受けの戸を閉めた。
部活にも行きづらくなって、オレはあんなに好きだったバスケ部を休んでいた。
顧問の先生は何も聞かず頷いてくれたけれど、このままズルズルと引きずる前に辞めるべきなんだろう、と思う。
部活がないと連日ただ直帰するだけだ。
短くなった夕焼けを背負いながら、オレは鉄筋の階段を登ろうと足を掛けた。

「ああ、ちょっと聖人くん」
「はい?」
振り向くと大家が家から出てきたところだった。

白髪交じりのおじさんで、いつもニコニコと笑顔を浮かべている人だ。
なのに今日は気難しいそうに眉を潜めている。なにかあったのだろうかと足を下ろして向き直ると、近寄ってきた大家は辺りを気にするように視線を散らしながら口を切った。


「すまないね…お母さんがあんなことになったばかりで、ちょっと言い辛いんだけど…ここの家のことなんだけどね…」
「はい」
「実は来月には契約が切れるんだが、誰かに保証人になって貰えるかな?」
「え…」

思いも寄らない言葉に、目を見開く。
「君はまだ未成年だからね、誰か保証人がいないと一人で住めないんだよ」
「…そんな」

親も居なくなった自分に、もう家族と呼べる人なんている訳がない。
高速であの大人達の顔が浮かんだが、絶対に世話になんてなりたくなかった。

黙り込んだことで応えを知ったのだろう、大家は本当にすまなそうに眉を下げた。
「少し位なら契約が切れた後も居てくれて構わないから…申し訳ないけど、宜しくね」
「……はい…」


それだけ言うのがやっとで、オレは重い足取りで階段を登った。
自宅のドアを開け、そのまましゃがみこむ。

どうしよう。
ここを追い出されたら、本当に、オレは。


棚の上に置いた母さんの写真を縋るように見つめる。
曇りのない笑顔が今は余計に辛くて、逃れるように膝を抱えた。
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