オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
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- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
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チャイムの音ががらんとした室内に響いて、ハッと我に返った。
人気のない図書室は夢中で読書をするには最適すぎて、ついつい長居をしてしまったようだ。
最終下校時刻を告げるそれに慌てて鞄を掴み、読みかけだった本を借りようと受付へ急ぐ。
当番の生徒もさっさと帰りたいのか手早く済ませてくれ、数分もしないうちに外へ出ることができた。
(随分日が長くなったんだなあ…)
少し前まではこの時間ではもう暗くなっていた筈なのに。
夕陽が眩しくて目を細めながら歩き出す。
聖人くんや西園寺くんはそろそろ部活を終えた時刻だろうか。
2年生で転入したということもあり、部に入るタイミングを逃した僕にとっては2人が楽しそうに部活動に勤しんでいる姿は羨ましいものがあった。
尤も、運動神経の欠片もない僕だから、彼らと同じスポーツが出来るわけでもないのだけど。
それでも放課後は図書室へ寄るくらいしかやることがないので、何かしらやればよかったかな、とも思う。
(文科系ならいいかな。科学部とかいいかも…)
担任の先生が理系ということもあり、いつでも見学に来ていいと言われていた。
(聖人くんはオレなら絶対無理、って言ってたよね)
行くとしたら、でその部の名前を出したとき、理系の苦手な聖人くんが盛大に渋い顔をしていたことを思い出す。
くすり、と笑みを溢しながら昇降口の前を通りかかったとき、視界の端に動くものがあった。
誰だろうと振り返った先に、鼓動の速度を速めてしまうひとが、いた。
「翼!」
殆ど反射のように、大きな音量で声を掛ける。
それに顔を上げた生徒会長が、僕を見とめて、にこりと微笑んだ。
「俊」
形のいい唇から発せられる、名前。
何度も聞いている筈なのに、きゅうと胸が苦しくなった。
「生徒会?大変だね」
「ああ。テスト中に仕事が出来なかった分、色々溜まっちまってさ」
肩を竦めるその動作さえカッコいい。
何度か一緒に帰ったことはあるけれど、2人きりというのは初めてのことで。
自然並ぶ形になって歩き出したけれど、心はどうしたって舞い上がってしまう。
人気のない図書室は夢中で読書をするには最適すぎて、ついつい長居をしてしまったようだ。
最終下校時刻を告げるそれに慌てて鞄を掴み、読みかけだった本を借りようと受付へ急ぐ。
当番の生徒もさっさと帰りたいのか手早く済ませてくれ、数分もしないうちに外へ出ることができた。
(随分日が長くなったんだなあ…)
少し前まではこの時間ではもう暗くなっていた筈なのに。
夕陽が眩しくて目を細めながら歩き出す。
聖人くんや西園寺くんはそろそろ部活を終えた時刻だろうか。
2年生で転入したということもあり、部に入るタイミングを逃した僕にとっては2人が楽しそうに部活動に勤しんでいる姿は羨ましいものがあった。
尤も、運動神経の欠片もない僕だから、彼らと同じスポーツが出来るわけでもないのだけど。
それでも放課後は図書室へ寄るくらいしかやることがないので、何かしらやればよかったかな、とも思う。
(文科系ならいいかな。科学部とかいいかも…)
担任の先生が理系ということもあり、いつでも見学に来ていいと言われていた。
(聖人くんはオレなら絶対無理、って言ってたよね)
行くとしたら、でその部の名前を出したとき、理系の苦手な聖人くんが盛大に渋い顔をしていたことを思い出す。
くすり、と笑みを溢しながら昇降口の前を通りかかったとき、視界の端に動くものがあった。
誰だろうと振り返った先に、鼓動の速度を速めてしまうひとが、いた。
「翼!」
殆ど反射のように、大きな音量で声を掛ける。
それに顔を上げた生徒会長が、僕を見とめて、にこりと微笑んだ。
「俊」
形のいい唇から発せられる、名前。
何度も聞いている筈なのに、きゅうと胸が苦しくなった。
「生徒会?大変だね」
「ああ。テスト中に仕事が出来なかった分、色々溜まっちまってさ」
肩を竦めるその動作さえカッコいい。
何度か一緒に帰ったことはあるけれど、2人きりというのは初めてのことで。
自然並ぶ形になって歩き出したけれど、心はどうしたって舞い上がってしまう。
「そ、そういえば、テストって明日から返されるのかな?折角解放されたのにちょっと憂鬱かも」
「確かに、もう少し余韻に浸っていたいよなあ」
苦手科目の現代文や歴史を思い出しながらそう呟くと、隣で同意を示す笑い声があがる。
本当は翼のことだから、いつテストが返却されたところで予想を裏切る結果なんてことにはならないだろう。
それなのに嫌味もなくあわせてくれるところに、この人の優しさを知る。
ちら、と見上げた翼の横顔が夕陽に照らされる。
すっと通った鼻梁に、涼しげな目元。
いつ見ても完璧なその容姿に見惚れているのは、僕だけではない。
擦れ違う他校の女子生徒からも幾つも視線を集め、感嘆の声が囁かれる。
本人はそれに気付かないはずはないだろうに、至っていつも通りだ。
これだけ人気を集めてしまうと、もう慣れてしまうのかもしれない。
と、翼が不意に表情を崩した。
無表情のときはモデルのように少しの近寄りがたさがあるのに、笑むと雰囲気はがらりと変わる。
その唇が動いて。
「聖人なんか、一番嫌がりそうだよな」
「……」
彼から、当たり前のようにその名前が飛び出る。
それを聞いた途端、すっと急に僕の心が冷たくなった。
極当たり前に彼から紡がれる名前なのに、今だけは…2人きりのときには、聞きたく無かった。
けれど、彼が無防備な表情になるのは、いつだってあのひとの話題のときで。
僕はぎゅうぎゅうと締め付けてくる胸の痛みを堪えながら、今まで触れられないでいたその話題を口にすることにした。
こんなことを聞いたら、もっと辛くなるのはわかっているけれど…でもやっぱり、このままでいたら彼の心は見えてこないから。
「あの、翼」
「ん?」
「聖人くんとは凄く仲がいいみたい、だけど…どうやって知り合ったの…?」
翼の瞳が見開かれる。
拒絶されるだろうか。
いつか見たあの仄暗い瞳を思い出し、僕はどきどきと反応を待った。
暫く、翼は迷っていた。
しかし――ややあって、苦い笑みを交えながらの答えが返ってくる。
「…うん…俊なら、言ってもいいかな」
「え、」
「…あいつも、そう言うだろうし」
そこで区切ると、翼は今まで見たことも無いような、全てを達観したような眼差しを僕に向けた。
否、僕に…ではなかった。
ここではない、ここにいない――何かに、向けられていた。
戸惑う僕を余所に、翼がゆっくりと、なにかを確かめるように…話し始めた。
「オレ達が、知り合ったのは……」
あれは確か、中学2年の秋、だった。
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