オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
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- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
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あんなところでは悪目立ちするからと、オレは仕方なく二人を家に上げた。
一人対二人、テーブルを挟んで向かいあう。
「……」
「……」
雰囲気は恐ろしく最悪だ。
それもそうだろう。
幾ら先ほどのことで力が抜けたとはいえ、オレにとってはまだ顔も見たくない存在だった。
父さんの母は、確か遠い地方でスナックやらの店をやっているらしい。
白髪交じりの茶髪と年に似合わない派手な赤い口紅のその人は、葬式で会った時よりも随分憔悴している様子だ。
その右隣に座っているのは、銀縁のフレームの眼鏡を掛けたいかにもやり手、といった中年の男性だった。
と、その胸元のバッチに自然と目いく。
(…あれ、この向日葵の形って…確か父さんと同じ…)
「…突然押しかけてきて、驚かせてしまいましたね」
写真とおぼろげな記憶から引っ張ってこようと頭の端で懸命に考えていると、沈黙を破るように男性が口を切った。
「私は柳生と言います。君のお父さんと同じ弁護士で、一緒の事務所に勤めていました」
「父さんの…?」
道理で雰囲気が知的だと思ったわけだ。
納得していると、柳生さんは祖母の背中に手をあて、続けた。
「今回、君がお父さんに続きお母さんまでも亡くされたことをおばあさんから聞いて…心配になってやってきました」
「弁護士さんに立ち会って貰ったほうがいいと思ったんだよ。…お前のこれからのことでね」
「!」
それはつまり…
(オレ…養護施設に入れられるのか…?)
身を硬くしたオレの様子に、考えていることが分かったのだろう。
柳生さんは微笑して、首を横に振った。
「大丈夫。君はこれからも、ここで暮らせますよ」
「えっ…!?」
「私がね…保証人になろうと思うんだ」
「…アンタが…?」
急な展開に頭が付いていかない。
葬式ではあんなに嫌がっていたじゃないか。
「…なんで、急に?」
オレの至極真っ当であろうその質問に、祖母の身体が動いた。
そのままの姿勢で後ろにずり下がり、勢い良く頭を下げる。
「本当に…ごめんなさい…!!」
「…!」
一人対二人、テーブルを挟んで向かいあう。
「……」
「……」
雰囲気は恐ろしく最悪だ。
それもそうだろう。
幾ら先ほどのことで力が抜けたとはいえ、オレにとってはまだ顔も見たくない存在だった。
父さんの母は、確か遠い地方でスナックやらの店をやっているらしい。
白髪交じりの茶髪と年に似合わない派手な赤い口紅のその人は、葬式で会った時よりも随分憔悴している様子だ。
その右隣に座っているのは、銀縁のフレームの眼鏡を掛けたいかにもやり手、といった中年の男性だった。
と、その胸元のバッチに自然と目いく。
(…あれ、この向日葵の形って…確か父さんと同じ…)
「…突然押しかけてきて、驚かせてしまいましたね」
写真とおぼろげな記憶から引っ張ってこようと頭の端で懸命に考えていると、沈黙を破るように男性が口を切った。
「私は柳生と言います。君のお父さんと同じ弁護士で、一緒の事務所に勤めていました」
「父さんの…?」
道理で雰囲気が知的だと思ったわけだ。
納得していると、柳生さんは祖母の背中に手をあて、続けた。
「今回、君がお父さんに続きお母さんまでも亡くされたことをおばあさんから聞いて…心配になってやってきました」
「弁護士さんに立ち会って貰ったほうがいいと思ったんだよ。…お前のこれからのことでね」
「!」
それはつまり…
(オレ…養護施設に入れられるのか…?)
身を硬くしたオレの様子に、考えていることが分かったのだろう。
柳生さんは微笑して、首を横に振った。
「大丈夫。君はこれからも、ここで暮らせますよ」
「えっ…!?」
「私がね…保証人になろうと思うんだ」
「…アンタが…?」
急な展開に頭が付いていかない。
葬式ではあんなに嫌がっていたじゃないか。
「…なんで、急に?」
オレの至極真っ当であろうその質問に、祖母の身体が動いた。
そのままの姿勢で後ろにずり下がり、勢い良く頭を下げる。
「本当に…ごめんなさい…!!」
「…!」
まさか…謝罪の言葉が飛び出るとは思わなかった。
吃驚しているオレには当然気付かないのだろう、土下座の姿勢のまま、彼女は話し始めた。
「…何を今更、と思うだろうね…私もそう思うよ」
言葉もないオレに自嘲気味に笑みを浮かべて、ゆるゆると頭を振る。
「今頃になってのこのこ来てるんだ、許して欲しいなんて言わない…でもね、少しでもいい、話を聞いて欲しいんだ…」
「……」
搾り出すように懇願され、オレは小さく頷いた。
祖母は僅かに表情を緩め、ぽつぽつと話し始めた。
――数年前。
父さんが亡くなったとき、母さんから連絡があったらしい。
けれど勘当同然で出て行った息子だ。
ショックは受けども意固地になっていたため、葬式にも行かなかった。
…いや、行けなかったというほうが正しい。
二度とうちの敷居を跨ぐなと追い出してしまった自分を責める気持ちと、一方で母さんを認めたくない気持ちがごちゃ混ぜになっていたからだ。
そして…実はその知らせを聞く前に、自分宛に父さんからの手紙が届いていた。
けれど父さんが死んだあともやはり開ける事が出来なくて、箪笥の奥深くにしまいこんだまま、ずっと放置していた。
それを開いたのは、オレが親族を前に一人で生きていく、と言い切った夜だった。
孫に其処まで言わせてしまった罪悪感を抱えながら、息子の最期の手紙を読み――涙が止まらなかった、という。
そこには駆落ちを詫びる言葉と、自分達家族の近況と、楽しそうに笑い合っている三人の写真と――
「そこにね…『俺はもう長くありません。…自分勝手なのは重々承知しています。…ですが、どうか…百合子と聖人を宜しくお願いします』…と、書いてあってね…」
「……父さん…」
「……病床で書いていたんだろうね…忠孝の字は震えていたよ…それを私は…つまらない意地を張ったばかりに…今までずっと放ったらかしにして…っ」
思い出したらまた涙が込み上げてきたのだろう、祖母はハンカチを目元に押しあてた。
「百合子さんにも散々冷たく当たってしまった…それを謝ることも出来ずに……だから、だからせめて、聖人の役に、立たせてもらいたいんだ…」
「…聖人君、君は大人達を許せないでしょう。それは当然のことです。でも…ほんの少しでもいいんです。……お祖母さんの償いたいという想いを…汲んであげることは、出来ないでしょうか?」
「………」
二人の言葉を、じっくりと頭の中で反芻する。
オレにとって家族は父さんと母さんだけで、他には誰も居ない。
それでいいのだと、親族達なんていらないからと…孤独を、受け入れるつもりだった。
けど、小さく蹲っている祖母は悔いていて、それを赦して上げられるのはもう――この世に自分ひとりで。
オレは深呼吸をして、立ち上がった。
びくり、とこちらを見上げる泣き腫らした彼女の、荒れた皺だらけの手を握り締めた。
これ以上憎しみを重ねることは…あの二人も…きっと――望んでいない。
だから、もう…
「…もう、いいんだ。だから、泣かないで……おばあちゃん」
ゆっくりとそう微笑みかけると、祖母の頬からまたひとつ、雫が伝った。
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