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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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予鈴が鳴る数十分も前。
まだ来ない隣の席を見遣りながら、オレはそわそわしていた。

昨日心を開いてくれたことが嬉しくて、まだどこかで夢だったんじゃないかとか色々考えたら眠れなくて…挙句の果てには、こんな時間に登校してきてしまった。
(遠足前の小学生じゃあるまいし…)
そう己にツッコミを入れてみるが、浮かれるのもそれも仕方ないことだろう。

まだクラスに他の生徒は居ない。
今日からはきちんと遅刻もしないと誓ってくれたから心配はしていないが…早く顔が見たくなる。

(…こんなの、完全に友達相手の感情じゃねえよな…)


薄々感付き始めていた、彼への気持ち。
これはもう…


そのときだ。
ガラッと勢い良くドアが開いたかと思うと…そこに、今まさに考えていた人物が息を切らして立っていた。

「あ、よかった~!堂本いた!」
「進藤?お早う、随分早いんだな」
「はよ!そうなんだよ、実は昨日中々寝付けなくてさ…」
「え…」

まさか彼も同じ理由で?

どきりと心臓が跳ねる。
席に荷物を置いた進藤は、椅子に座るなりこちらに身を乗り出した。


「実はさ……」


それから進藤が話してくれたのは――昨日、絶縁状態だった祖母と話ができたこと。
まだ完全に蟠りがなくなったわけではないけれど、保証人となってくれたおかげでアパートにも住み続けられるし、父親の友人である弁護士がこれからも力になってくれると約束してくれたらしい。

己と違う寝付けない理由にほんの少しだけ落胆する気持ちと――それとは比べ物にならないほどに強く感じたのは、彼の前途が開けたことに対する、純粋な喜びで。
よかったな、と心からの言葉を贈ると、進藤は笑みをふと引っ込めて、こう繋げた。


「そのあとばあちゃんと一緒に母さんの遺品整理してたらさ…初めて見る、オレ名義の通帳を見つけたんだ」
両手を組み、人差し指同士を数度当てながら、進藤の瞳はどこか遠くに向けられていた。

「それはさ、どうやら…父さんがオレ達に残してくれていたお金だったみたいで…凄い金額が残ってた。でも母さんは、オレのためにって全く使わずにいたみたいなんだ」
「…凄いな…」
「本当、吃驚だよ。それであんなに目一杯働いてたんだからな…強い人だったんだなって…思う」
「……ああ、そうだな…」

深く頷きながら、澄んだ瞳を見つめた。
潤んでいたそれはオレへ焦点を移すと、小さく首を振った。

「オレはもう大丈夫…決めたんだ。…あの二人の分まで、しっかり生きるって」
「……進藤」

生き生きしているその表情に、覚悟を決めたのだと、嘘ではないのだと知る。
今まで見てきた何よりも美しいそれに――オレは、言葉が上手く出てこなかった。
ただ名前を呼ぶことしかできないでいると、進藤がふっと相好を崩す。

「オレがそう思えるようになったのも、全部お前のおかげだよ。…本当に有難う、堂本」
「そんな…オレはなにもしてないさ」
ただ、背中を押しただけだ。
前に進むことを決めたのは、現実を受け入れる強さを持っているのは、他の誰でもなく。

「だから、さ。これからも迷惑掛けるかもだけど…その、お前さえ良ければ、これからも宜しくお願いします」
「…ああ、勿論」
照れくさそうに頭を下げる進藤に、つい右手が伸びる。くしゃりと髪を撫ぜると、頬を染めた彼がくすぐったそうに微笑んだ。

それを見たとき、オレのなかで弾けるような衝撃が起きた。


(…ああ、やっぱり…)


「…なあ、オレもお前のこと、名前で呼んでいいか?」
「あ、勿論!オレも翼って呼ぶな!」


――それからオレは、聖人に勉強を教え続けた。
その間にも彼はバスケ部へ復帰し、今までのブランクを埋めるように部活にも力を入れた。
他にも一人できちんと生きていけるようにと料理を初めとする家事も少しずつ学び始めた。

生まれ変わったかのように懸命に努力するその姿勢に教師やクラスメート達の誰もが驚いていたようだが、次第に彼に対する態度も変わっていった。
そして卒業する頃には、クラスの中心人物として皆から憧れるまでになっていたのだ。

けれどそんな彼が頼るのは、いつだってオレで。

「なあ翼っ!このまえ教えてもらったおかず作ってみたんだ~あとで味見してくれよ」
「翼、この問題だけ分かんなくてさあ…。教えてくんない?」
「今日部活休みだからさ、一緒に帰ろうぜ!翼っ」


彼が名前を呼ぶたび、甘えるたびに――言い知れぬ優越感と満足感を噛み締めている自分がいた。
他の奴らがどんなに望んだって恐らく手には入れられないであろう、この信頼。この距離。


そして同時に、オレは確信した。
この気持ちはもう、誤魔化しようがなかった。


オレが彼を……進藤聖人を、恋愛感情として好きだということを。
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