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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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不思議だった。
ずっと重石を飲み込んだように苦しく沈んでいた気分が、泣き終わる頃にはすっと軽くなっていた。

母さんが死んでから人前で泣いたことがなかったのに――泣いてはいけないと気を張り詰めていたこともあったのだろうけど――堂本の前では、止める事すらできなくて。
恥ずかしいやら情けないやらで何とか我慢しようとしたけど無理をするなと諭され、オレは暫く嗚咽を上げ続けた。

「…ごめん、収まった…」
「…そうか」

ひっく、としゃくり上げながら肘で涙を拭うと、堂本はさり気無くタオルを貸してくれた。
こんなところまでスマートだな…と少々感心しつつ、借りて目元を拭いた。

「あ、悪い、シャツ…!」
ふと目をやると、堂本の肩口はぐっしょりと濡れていた。
どんだけ泣いてしまったんだと恥ずかしくて、タオルで急いで拭う。

「洗って返すから…!」
「ああ…いいって、こんなん」
「でも…」
「それより、オレとしては補習をサボらず受けてもらうほうが嬉しいな」
「う…でもオレ、夢も目標もないし…」
勉強したって…と続けようとしたオレの頭を、堂本の手がぐしゃぐしゃと撫でる。
暖かいその感触に顔を上げると、優しい黒檀の瞳がこちらを見ていた。

「…それじゃあ、同じ高校行こうぜ」
「へっ?」
きっとオレは相当に間抜けな顔をしていたんだろうと思う。
だってクラスでも最低に近い成績のオレと、トップクラスの堂本が一緒に行ける高校なんて。

「え、いいよ、お前にランク下げてもらうなんて悪いし…」
流石にそこまでは…と思って断ろうとすると、例の恐いくらいの笑みが待っていた。

「誰が落とすなんていったよ?」
「へ…」
「お前が、上げればいいだろ?」
「……。無理無理無理っ!!」

何を言ってんだコイツは!
そんなのペンギンに空を飛べと言ってるようなもんだろ!

「大丈夫。…これからオレが、嫌になるくらいに扱いてやるからな」
ぶんぶんと首が取れそうなくらい横に振っても、堂本は一歩も、半歩すら譲ってはくれなかった。
こいつ、もしかして鬼かもしんない…


「目標は高く持ったほうがいいだろ?」
「いや、高すぎじゃね…?」
「やる前から諦めんなよ。…オレは、あの事件以来父さんにちゃんと顔向け出来る様に生きようって決めたんだ」
「…堂本」
急に真面目なトーンに変わり、オレも言葉に詰まる。
こういう顔をされてしまうと…とても困るというか…

「だからお前も、先ずは頑張ってみないか?諦めるのは後からだって出来るんだし。…な?」
「……」
「それに、お前のことはオレがちゃんと見張っててやるから。高校に入ってからもな」
ダメ押しのようにそう言われ、オレは腹を括ることにした。

確かに、いつか母さんにちゃんと生きてるよって自信を持って報告したい。
そのためには、まず己に出来ることから始めるべきなんじゃないかとも…思うから。
オレは小さく頷くと、わざとぶっきらぼうに言った。

「……分かった。その代わり、ちゃんと約束守れよな?」
「当たり前だろ」

オレの返事を聞いて、堂本は本当に嬉しそうに笑った。



「…うう…頭が痛い…」

あのあと一時間ほど補習をやって、大量のプリントを抱えた身体は重たかった。
引きずるようにして、自宅へと戻ってくる。
あんなに勉強したのは初めてかもしれない。
ちゃんと聞いてみると堂本の教え方はとても上手くて、言った台詞が嘘ではないことは十二分に理解したのだけれど……

(それにしたって…スパルタすぎる…)

家計を楽にする為に中卒で働くか専門学校に行こうと適当に考えていたオレにとって、堂本の志望校・広海高校は雲の上に存在しているようなところだ。
今は本当にいけるのかすら怪しいところだけど…でも特別悪いのは数学・英語だけだから、頑張ればこれからの内申点と当日の成績次第で合格できる、というのが堂本の説だった。
先ずはこれからのテストに向けてみっちり鍛えてやるよ、という有り難いお言葉を聞いたときは、気が遠くなったが…こうなったらやるしかない。

(でも…あいつ、本当にいい奴だよな…)

自分ですら自身を見限っていたのに、堂本が救ってくれたんだ。
オレの為にここまでしてくれる奴がいるなんて、信じられなかった。
嬉しさと気恥ずかしさがごちゃまぜになってついつい顔がにやけてしまうが、こんなに気分が楽なのは久しぶりだった。


気持ちよくアパートの階段を登っていくと、オレの家の前に誰かが立っていた。
足音に気付いてこちらを振り返ったその人に、一気に顔が強張る。

「…聖人」
「……アンタは…」


父方の祖母とそして見知らぬ男が、そこにいた。
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