オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
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- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
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初日は逃げられたことがショックだった。
やはり自分に心を開いてくれてなどいないのだと思い知らされたような気がして、所有者の居ない席を呆然と見つめていた。
次の日は悲しさよりも悔しさが込み上げてきた。
数十分でもいいから補習させようと常に見張っていたつもりだったのに、自分が教師に呼ばれた一瞬の隙を突いて帰られてしまった。
そして今日。
オレは完全にキレていた。
(いい度胸じゃねえか…)
ここまで綺麗に無視されると、逆に何が何でも受けさせてやろうと意地になってくる。
ふつふつと怒りが込み上げながら、朝(取り合えず冷静に)進藤に釘を刺しておいたが…彼はきっと全く気にもしていないだろう。
何事も無いまま残る時間はホームルームだけとなり…そこでふと、嫌な予感がした。
生徒達も授業が終わり、解放的な気分になっている。
今なら人目に付かずに帰ることが可能だろう。
しかもオレはタイミング悪くクラスメートから話しかけられてしまった。
仕方が無いので適当に返事をしながら、神経のアンテナは常にそちらへと向けていた。
だから、不審な動きでドアに近付いた彼を見逃しはしなかった。
慌てた進藤は猛ダッシュで走っていったが、オレもバカではない。
体力で勝てなくても、こちらにはある作戦があったからだ。
かくして、三日目にして進藤の捕獲に成功したのだった。
逃がさぬようにと、腕を掴んだままずるずると校舎内を移動する。
ホームルームが終りこぞって出てきた生徒達からは奇妙なものでも見るような視線が向けられるが、そんなの知ったことか。
進藤もそれどころではないのか、引きずられながら呻るように溢す。
「うう…くそ、不覚」
「散々逃げておいてよく言うぜ。今度逃げたら承知しないからな?」
にっこりと笑っていってやったのに、何故か進藤はひく、と口端を引きつらせる。
「…な、なんか堂本…キャラ違くない?」
「いや?どちらかというと、こっちが素」
(人前に出すなんて随分久しぶりだけど、な)
続く言葉は飲み込んでおく。
人前で本性を晒すなんて面倒なことはしない主義だ。
体良く生きたほうが楽だし都合もいい。
だが、この生徒の前ではそれも無駄な気がした。
やはり自分に心を開いてくれてなどいないのだと思い知らされたような気がして、所有者の居ない席を呆然と見つめていた。
次の日は悲しさよりも悔しさが込み上げてきた。
数十分でもいいから補習させようと常に見張っていたつもりだったのに、自分が教師に呼ばれた一瞬の隙を突いて帰られてしまった。
そして今日。
オレは完全にキレていた。
(いい度胸じゃねえか…)
ここまで綺麗に無視されると、逆に何が何でも受けさせてやろうと意地になってくる。
ふつふつと怒りが込み上げながら、朝(取り合えず冷静に)進藤に釘を刺しておいたが…彼はきっと全く気にもしていないだろう。
何事も無いまま残る時間はホームルームだけとなり…そこでふと、嫌な予感がした。
生徒達も授業が終わり、解放的な気分になっている。
今なら人目に付かずに帰ることが可能だろう。
しかもオレはタイミング悪くクラスメートから話しかけられてしまった。
仕方が無いので適当に返事をしながら、神経のアンテナは常にそちらへと向けていた。
だから、不審な動きでドアに近付いた彼を見逃しはしなかった。
慌てた進藤は猛ダッシュで走っていったが、オレもバカではない。
体力で勝てなくても、こちらにはある作戦があったからだ。
かくして、三日目にして進藤の捕獲に成功したのだった。
逃がさぬようにと、腕を掴んだままずるずると校舎内を移動する。
ホームルームが終りこぞって出てきた生徒達からは奇妙なものでも見るような視線が向けられるが、そんなの知ったことか。
進藤もそれどころではないのか、引きずられながら呻るように溢す。
「うう…くそ、不覚」
「散々逃げておいてよく言うぜ。今度逃げたら承知しないからな?」
にっこりと笑っていってやったのに、何故か進藤はひく、と口端を引きつらせる。
「…な、なんか堂本…キャラ違くない?」
「いや?どちらかというと、こっちが素」
(人前に出すなんて随分久しぶりだけど、な)
続く言葉は飲み込んでおく。
人前で本性を晒すなんて面倒なことはしない主義だ。
体良く生きたほうが楽だし都合もいい。
だが、この生徒の前ではそれも無駄な気がした。
数学準備室へ進藤を入れると、後ろ手で鍵を閉める。
その音に、彼は捕まった兎の如く敏感に反応した。
「え、なに!」
「お前、どうせまた逃げるだろ。ちなみに鍵はオレが持ってるから、諦めな」
鍵を眼前にチラつかせると、少しは企んでいたらしい進藤は明らかに落胆の色を見せた。
「ぐ……わーっかったよ、やりますやればいいんだろやらせていただきます!」
言うなり薄っぺらい鞄を床に放り、椅子の上にどかりと座る。
遂に腹を括ったらしい。
感情を露にしている姿を見るのは初めてで、オレは苦笑しながらも内心喜んでいた。
(こういう顔も、出来んじゃねえか)
我慢して気持ちに蓋をしているよりも、こちらの方がずっといい。
向かいの椅子を引きながら、オレは教師から託されていたプリントを進藤の前に出した。
「じゃ、やるか」
時間にして小一時間…いや、30分も経っていないかもしれない。
オレの想像よりもずっと早く、進藤は音を上げた。
「だーっ!もう無理!入んないっ!」
「…冗談…でもなさそうだな…」
進藤が回答した答案を見て、言葉に詰まる。
2年生の内容で必須である問題を悉く…落としていたのだ。
(これじゃ先生が心配するわけだな…)
補習を提案した男性教師に同情しつつ、シャーペンの頭でがりがりとこめかみを掻いた。
基本問題は正解している。…ごく簡単な部分だけだが。
しかし応用、発展となると全滅で、これでは受験どころの話ではない。
「お前、このままだと来年マズイぞ…」
紙面に視線を落としながら呟くと、夕焼けをぼんやり見ていた進藤がふいにこちらを見た。
先ほどまでの大騒ぎから一転、酷く醒めた色とぶつかる。
「いいんだよ、別に」
「…何、言ってんだよ」
薄く微笑った顔に、ぞくりとした。
まただ。
また、進藤の心が見えなくなる。
今度はもっと…殻どころではない。
深い深い濃霧のなかに、いるようで。
オレはもどかしさと歯痒さを感じながら、ゆっくりと立ち上がる進藤を見つめていた。
こちらに背を向け、進藤は窓へと近付く。
近付く夕闇に溶けてしまいそうな線の細さに、儚さを覚える。
「オレなんて……どうなったって、いいんだ」
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