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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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あの頃、世の中の全てがモノクロに染まっていた。
呼吸しているのか止まっているのか、それすら曖昧に感じて。
このまま露と消えてしまっても構わない――否、そうなればいいと思っていた。

だって、誰も悲しまないから。
オレを愛してくれる人は、この世界にはもう…いないから。


中学2年生の秋、オレは最後の家族だった母を失った。
裕福な家庭に生まれた所謂お嬢様の母さんと、貧乏ながらも猛勉強の末弁護士になった父さん。
2人は格差なんて関係なく恋に落ちたけれど、両家からは強固に反対された。
そんな彼らは駆落ち同然で結婚したから、オレは祖母達の顔も知らずに育った。
けれども両親の仲は円満で、優しくて、暖かくて。
毎日が、とても幸せだった。

けれど、それは突然終りを告げる。

オレが小学校低学年のとき、父さんが重たい病気に掛かり治療の甲斐なく死んでしまった。
それからは母さんとオレ、2人だけの暮らしが始まった。
仕事をしたことがなかった母さんはそれでも昼夜問わず懸命に働いて、オレが中学生になるまで育ててくれた。
でもそのせいで白魚のように綺麗だった手はぼろぼろになり、疲れから身体も崩しがちになってしまって。

そして、あの日……


カーテンからの眩しい光に、オレは顔を顰めた。
どんな心持でいるかは関係なく、朝は訪れる。
漆黒の闇の中にいるオレにとっては鬱陶しいだけで、うんざりしながら身体を起こした。

小さなアパートの部屋は、それでもオレ一人だとがらんとしていた。

見遣ると、オレは制服のままだった。
昨日の告別式の後、ベッドに転がっていたら寝てしまったらしい。
(母さんがいたら、怒られただろうな…)

もう、と肩を上げながら可愛く怒ってみせるその表情が容易に思い出されて、小さく笑う。
しかしそれは直ぐに涙声に変わり、オレは膝を抱いて嗚咽をあげる。

母さんは死んだ。
オレのせいで。

オレが、殺してしまったから。
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チャイムの音ががらんとした室内に響いて、ハッと我に返った。
人気のない図書室は夢中で読書をするには最適すぎて、ついつい長居をしてしまったようだ。
最終下校時刻を告げるそれに慌てて鞄を掴み、読みかけだった本を借りようと受付へ急ぐ。
当番の生徒もさっさと帰りたいのか手早く済ませてくれ、数分もしないうちに外へ出ることができた。

(随分日が長くなったんだなあ…)

少し前まではこの時間ではもう暗くなっていた筈なのに。
夕陽が眩しくて目を細めながら歩き出す。

聖人くんや西園寺くんはそろそろ部活を終えた時刻だろうか。
2年生で転入したということもあり、部に入るタイミングを逃した僕にとっては2人が楽しそうに部活動に勤しんでいる姿は羨ましいものがあった。
尤も、運動神経の欠片もない僕だから、彼らと同じスポーツが出来るわけでもないのだけど。
それでも放課後は図書室へ寄るくらいしかやることがないので、何かしらやればよかったかな、とも思う。

(文科系ならいいかな。科学部とかいいかも…)

担任の先生が理系ということもあり、いつでも見学に来ていいと言われていた。
(聖人くんはオレなら絶対無理、って言ってたよね)
行くとしたら、でその部の名前を出したとき、理系の苦手な聖人くんが盛大に渋い顔をしていたことを思い出す。
くすり、と笑みを溢しながら昇降口の前を通りかかったとき、視界の端に動くものがあった。


誰だろうと振り返った先に、鼓動の速度を速めてしまうひとが、いた。


「翼!」
殆ど反射のように、大きな音量で声を掛ける。
それに顔を上げた生徒会長が、僕を見とめて、にこりと微笑んだ。
「俊」

形のいい唇から発せられる、名前。
何度も聞いている筈なのに、きゅうと胸が苦しくなった。

「生徒会?大変だね」
「ああ。テスト中に仕事が出来なかった分、色々溜まっちまってさ」
肩を竦めるその動作さえカッコいい。

何度か一緒に帰ったことはあるけれど、2人きりというのは初めてのことで。
自然並ぶ形になって歩き出したけれど、心はどうしたって舞い上がってしまう。

短いようで長く感じた、テストが漸く終った。
再開された部活動に勤しむ生徒達は、まるで水を得た魚のようだ。
御多分に漏れず、そのなかに己も含まれているのだが。

久しぶりに満足のいく練習を終えたのは、大分長くなってきた日も傾きかけた、6時過ぎだった。


「じゃーなー!」
「おー!」

部室棟の壁に寄りかかりながら、待ち続ける。
俺の前を通り過ぎていく中に探している顔がないことを見届け、時計を何度か確認して。
そしてやがて聞こえてきた声の中に、ひとりを見つけた。

なんでもない風を装って、声を掛ける喉はやや掠れていた。


「聖人」

その声に犬の耳があったらピンと立ったことだろう、きょろきょろと辺りを見渡して、俺を見つけた聖人が顔を綻ばせる。
「巧!」
その一連の仕草にはなんの計算もなくて、だから余計に心が締め付けられる。

「よかったら、その…」
「おう、一緒に帰ろうぜ!」

言いたい言葉の最後を掬い、聖人が当たり前のように隣へ並んでくれた。


一週間のテスト期間の最中には一度も会えなかったから、久しぶりの距離感は気分を浮つかせる。
歩くたびに少しだけ触れる、肩。
劣情のままに引き寄せてしまいたい。
何度も衝動に駆られながら、表情はいつもの通りに繕う。

こんな浅ましい自分を知ったら、どう思うだろうか。
考えると恐怖心が芽生えるのに、こいつなら否定しないでいてくれるはずだ、なんて実に楽観的な答えを期待してしまう。


「あーひっさしぶりに動いたから疲れた~」
「たった1週間だろう?それにお前のことだから、走りこみ位はしていたと思うが」
「まーなー。これで本当になんにもしてなかったら、それこそシバっちにどやされるって」
「それでもレギュラーか!ってさ~」と顧問の真似をしてみせながら、聖人が笑う。
少し似ていたそれに、つられて小さく笑った。
(…大人気なかったか)

頂点に上った太陽が照らす、帰り道。
隣でいつものように色んな話をする聖人を横目に、オレは少し反省していた。
帰ってしまうコイツを見た途端、頭で考えるよりも先に声を掛けていた。

テストが始まってから、ろくに話もしていなかった。
それが思った以上にオレの中でストレスになっていたようで、テスト中も殆ど集中出来ない始末だった。
まあ点の方は心配は無いが、それよりも大事なのはこいつのことで。

聖人が、オレと距離を取るんじゃないか。
そう考えただけで、堪らなかった。
どうやらこいつの存在は、オレの考えるよりもずっとずっと――心の深くに根付いているらしい。

これが他の誰かだったなら、きっと何にも思わない。
オレは結構酷い奴だから、近付いてくる人間にも関心がないし、離れていく人間は追いかけたりしない。

(俊にも、フォローしとかないとな…)

2人で帰るとはっきり言ってしまったから、怪訝に思ったことだろう。
俊はいい奴だから傷つけるのは本位ではなし、明日適当に誤魔化しておこう。


「お」

ぐるり、と思考が一周したところで、一通り話し終えた聖人が声をあげた。
何事かと思ってみれば、こいつが好きでよく利用している駅前のコンビニが見えていた。
と、なれば。次に言うことは決まっている。

聖人はこちらを向くと、まるでおやつを待っている子犬のようにきらきらした眼差しで続けた。

「なあ翼、オレアイス食べたい!」


ほら、やっぱりだ。
「聖人!」

その声に、びくりと肩が揺れた。
まさか呼び止められるとは思っていなかったからだ。


テストが終わって帰ろうとちらりと翼を見たら、俊と楽しげに会話を交わしていた。
あの日…テスト勉強を一人でやろうと思ってから、どことなくあの2人の仲に入ることが戸惑われていた。
友達同士でこんなことを考えるのは可笑しいのだと、分かってはいる…んだけど。
今の頭の中がぐちゃぐちゃになってるオレが、彼らと一緒にいるのは悪いような気がして…どうしても距離を取ってしまう自分が居た。

(…なんて、言い訳か)

上手く笑える気がしない。
いつものオレでいられる自信が、ないんだ。


傍にいた友人と適当な会話を交わして、オレはもう帰ってしまおうと鞄を肩に掛けなおした。
横目で2人を映しながら、こちらに背を向けている翼は気付かないだろうと思いながら――

(さっさと帰って明日のテスト勉強しよ…)


ぼんやりそう思ったときだった。
翼がオレの名前を呼んだかと思うと、傍まで足早にやってきた。
「な、なに」
「何じゃねえよ。なんで一人で帰ろうとしてんだ」
「なんでって…オレだって早く帰って勉強したいし」

下手な言い訳だと思いつつ、他に上手い言葉も見つからない。
翼はじっと、真っ直ぐな黒檀の瞳をオレに向ける。

昔からこういうときに目が合うと、必ずボロが出る。
だから直視出来なくて僅かに視線を下げると、翼が溜息を吐いた。
きっとその癖すら見抜かれているんだろう。


「…じゃあ、一緒に帰ろうぜ」
「へ?」
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