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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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放課後のがらんとした教室。
熱心な野球部の声がずっと遠くから響いて、ここだけ隔離された空間のようだ。

薄っぺらい学生鞄と、机に入れたままの教科書たち。
随分前から帰る準備のまま、オレは動けずにいた。

(あー…部活行かなきゃ…シバっちに怒られる…)

今日は練習試合形式でやるといっていたから、オレが来なくてさぞお怒りだろう。
顧問の姿を思い浮かべて苦笑が漏れるが、それも思うだけで。

どうやらオレはこんなにショックを受けてしまうほど、昨日のことを引きずっているようだ。
放課後になり漸く張り詰めていた糸が切れたようで、どっと感情の波が押し寄せてくる。


昨日の日曜日、翼は約束通りたこ焼きを奢ってくれた。
が、2人だけではない。
そこには、俊と、巧も一緒だった。

『よかったら、俊も来るか?』

あいつが言ったとき、オレは最初言葉の意味が理解出来なかった。
俊もって。だってこれは、オレとの約束で。
2人だけの約束の筈で―――


『本当?うん、僕も行くよ!』

嬉しそうにはしゃぐ俊を前にして、そんなことが言えるだろうか。
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「翼っ」

どこか焦ったような声に呼び戻された。
はた、と顔をあげれば、こちらを不思議そうに窺っている俊と、相変わらずの仏頂面の巧がいた。

…否。相変わらず、というのは語弊がある。
何の感情も浮かべていないようでいて――そこにありありと示しているのは、あからさまな殺気。
尤も、それに気づくのは同種の感情を持ち合わせている者だけだろう。

(…やべ)

オレは今、何をしていた?
伸ばしていた手を間抜けにもゆっくりと目線で追う。
自分の指が、頬に触れていた。
女の子のように白いわけでもない――けれども艶かしいまでに柔らかく誘う、その肌に。

「っ…」

驚いて手を離す。
友人以上の接触を、範囲を超えぬようにしていた筈なのに…自分からあっさりと跨いでしまっていた。
「も、平気だろ…気をつけろよ、な」
視線を外しながら、平静を装う。
心臓は早鐘のように鳴り響いていた。

不審には思われなかっただろうか。悟られなかっただろうか。


「おう、あんがとなー」

それは杞憂だったらしい。
まだちょっと痛いけど、と言って笑う聖人からは何の疑いも感じられなくて、ほ、と息を吐いた。


自分でもよく分かっている、この感情がコントロール出来なくなっていることを。
あまりに無防備なコイツに、幾度となく高ぶりそうになる熱を抑えることに苦労している。
一人で勝手に盛り上がって、一人でブレーキを掛けて…完全に独り相撲だ。

(こんなこと…コイツに知られたら、終りだな)

自分の席に戻り腰を降ろしながら、深い深い溜息を吐く。
聖人は傷つくことだろう。
漸く心を許せる親友が出来たのに、そいつが己のことを恋愛対象としてみているなんて。

(いや…)

そんな生温い言葉では到底片付けられない。
本当は、もっともっと――


「ほんと、火傷には気をつけなきゃだよな~」

この場の微妙な空気に気付かない聖人が、両手でコップを持つと何度も息を吹きかけながら恐る恐るカップに口をつけた。
そしてぽつり、と続ける。


「日曜もさ」
「ここだよ、ここ」

数歩前を歩いていた聖人くんが立ち止まる。
僕は無意識に止めていた息をそっと吐き出した。

放課後ということと、ここが特に一般の生徒も近寄らないということもあって、学校の中でも酷く静かな一角。
ここに掛けられているプレートが、その厳かな雰囲気を醸しだしているのかもしれない。
事実、僕もちょっと緊張しているくらいだ。

けれど、聖人くんは変わらない。
中に居るのが自分の友達だからだろうか、その普段の振る舞いが羨ましく映る。

「んじゃ、入ろっか」

まるで鼻歌でも歌いだしそうな調子で僕にそう声を掛けると、迷うこともなく扉を開けた。


「よーっす!」

その声に、中にいた役員が2人、顔をこちらに向ける。
いつものように無表情な西園寺くんと、そして眼鏡を掛けた…翼だ。


「お前なあ…ノックくらいしたらどうだ」
「あれ?今してなかったっけ?ごめんごめん」
「ったく…もうオレ達しかいないからいいけどな…」
呆れて溜息を吐いた翼が、読んでいた書類を机に置いた。
僕達の登場で集中力が切れたらしい。
休む態勢に入ったのだろう、西園寺くんも立ち上がる。

今日は放課後、生徒会室にいる翼に会いに来た。
尤もそれは聖人くんの用事だったのだけれど、僕も行きたいと我侭を言ったのだ。
彼が快く了承してくれたので、こうして教室以外の、普段では入室できない場所にまで来ている。

「あ、皆帰ったんだ」
「ああ、だから自由に座ってくれ」
「おう!ありがと、巧」
コーヒーの置いてある給湯室へ向かうその背中に声を掛けた聖人くんが、翼の右隣に腰を降ろす。

僕は自然を装い、反対側に座ることにした。
丁度西園寺くんが座っていた席の二つ隣だ。


「あの、ごめんね翼…仕事の邪魔、しちゃったよね」
彼に行くことは伝えてあったとはいえ、困らせてしまったかなと思い翼にそっと声を掛ける。
すると眼鏡を外しながら、彼はにこり、と微笑んだ。

「ああ…いいんだ。どうせ、そろそろ休憩しようと思ってたところだから」
「そう、なんだ?」
「ああ。だから俊が気にすることじゃないから、な」
「っ」


笑顔を讃えたまま、翼にそっと頭を撫でられる。
大きなそれに初めて触れられ、どきりと心臓が大きく音を立てた。

(どうしよう、顔真っ赤だよ…)
「つっばさ!」

授業終了を告げるチャイムが鳴り終わる前に、突然背中へ体重が掛かる。
教室を出て行こうとしていた英語の年配女性教師に笑われたのが視界の端に映って、オレはわざと呆れたように溜息を吐いた。
コイツが真っ先にオレに報告しにくるであろうことは予測していたのだが、そんなことはおくびにも出さないでおく。

「聖人、重い」
回された腕や首筋に感じる体温になるべく意識を向けないようにしながら、身体を起こす。
するりと解けたそれに、そうなるようにしたのは自分なのに酷く残念に思う。

「じゃーん!見てみて!この点数!」

ご丁寧に自分で効果音をつけて広げて見せてきたのは、授業開始早々に返却された先週のテストだ。
赤いペンで70点と書かれている文字が少し大きいような気がするのは、先生もこの結果に多少ならずとも感動しているからだろうか。
(そうだろうな…こいつっていつも赤点ギリギリだし)

「おおーよかったな」
本当はテストを受け取った聖人が大げさに喜んでいた時点で大方分かってはいたのだが、初めて知ったように喜んでやる。
そんな簡単なことで、こいつは本当に嬉しそうに笑うから。

オレはなるべく自然を装い、その頭をくしゃくしゃと撫でた。
「へっへー!」
「言ったろ?お前はやれば出来るって」
「おう!」
気持ちよさそうに目を細める仕草は猫のようだ。

オレと数センチしか変わらないのに、もっと撫でて欲しいのか首を傾けてくるから聖人が自然と上目遣いになる。
「なあ、オレって実は天才だったりするかな」
きらきらと光る瞳がこちらを覗くだけで、えも言われぬ劣情がせりあがってくる。

オレは無意識に唾を飲み込んでいた。
耐えろ、と強く念じながら、最後はわざと髪をぐちゃぐちゃに乱してやる。
「…次に直すのはそのすぐ調子に乗るところだな」
「ぐわっ」
急に乱暴になった仕草に聖人がよろける。

(危なかった…)
これで、ぽんぽんといつもの小気味のいいやり取りになったはず、だ。

広海を選んだのは、中学から続けているフェンシングの強豪校だったからだ。

周囲にここへ進学した者はなかったが、もとより友人と呼べる人間も少ない自分にとっては大したことではなかった。
感情が顔に出にくいというのと口下手なのが起因し、同年代の奴らからは一歩引かれていたことは自覚していた。
けれどこれはすでに確立された性格であるし、無理してまで安っぽい友情を築くというのもなんだか馬鹿らしくて。
高校も部活さえ出来ればいいと、友人との思い出なんて期待すらしていなかった。

…そう思っていたのだ、一年前までは。


放課後練習の終了後、部活仲間へと短く挨拶を交わし早足でバスケ部の部室へと急ぐ。
先ほど同じ時間に引き上げていったのを見ているから、きっとまだ居るはずだ。

「あはは、なんだよ、それ!」

あと数歩というところで、大きな笑い声とともに目的の部屋のドアが開く。
中からぞろぞろと出てきたのはあいつの友人であろう一行で、一番最後にその姿を見つけた。
「いやマジなんだって!今度お前も授業のときに見てみろよ!」
「やめろって~そんなこと言われたらオレ、今度からまともにコバセンの顔見れねえって…っ!」

(コバセン…日本史の木場森先生、か)

彼らの会話のキーワードを自分の中で紐解く。
選択していない授業だけに、その会話の意味を理解出来ない(断片しか聞いていないこともあるが)自分がもどかしい。

一行は外に突っ立っている俺の存在に気付き、足を止めた。
「あ、西園寺じゃん」
「え?お、巧~!お前ももう帰るのか?」
ひょい、と後ろから顔を覗かせた聖人がこちらに近寄ってくる。
見上げてくるその瞳を直視できなくて、ややずれた後方の地面を見つめた。

「ああ…お前もこのまま帰るのか?」
「うん、そう…あ、よかったら一緒に帰るか?」
「…そう、だな」
本当はそう切り出したかったのを察してくれたらしい。
俺が頷くと、聖人は二カッと笑い、後ろの友達に振り向いた。

「んじゃ、オレは巧と帰るな~また明日な!」
「おお、じゃあな~」
ひらひらと手を振って見送るバスケ部のメンバーと別れ、聖人が俺の隣に並ぶ。

「あー今日も疲れたな!」
「ああ」
「あ、でもお前はインハイ控えてるからもっと大変だよな」
「そうでもないが…いつも通りにやっていれば、結果は出るからな」
気負いしている訳でもないからこその本心なのだが、こういう言い方は時として反感を招くこともある。
かつて何度かそう取られてしまったことを思い出し、しまった、と後悔するが遅く、俺は不安に駆られながら彼を見た。

しかし聖人は目を輝かせて、本当に感心したように笑った。
「おー流石巧!カッコいい~!」
「いや…」
「本当だって!今の女子が聞いてたら惚れる…っていうか、オレまで惚れちゃうから!」
「…っ」

言葉の綾というのは判っていても、そのフレーズに思わず動揺してしまう。
言った本人は大して気にも留めず、一人うんうんと納得しながら先へ行ってしまった。

(…惚れる…か)


それが本当ならいいのに。
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