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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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あんなところでは悪目立ちするからと、オレは仕方なく二人を家に上げた。
一人対二人、テーブルを挟んで向かいあう。

「……」
「……」
雰囲気は恐ろしく最悪だ。
それもそうだろう。
幾ら先ほどのことで力が抜けたとはいえ、オレにとってはまだ顔も見たくない存在だった。

父さんの母は、確か遠い地方でスナックやらの店をやっているらしい。
白髪交じりの茶髪と年に似合わない派手な赤い口紅のその人は、葬式で会った時よりも随分憔悴している様子だ。
その右隣に座っているのは、銀縁のフレームの眼鏡を掛けたいかにもやり手、といった中年の男性だった。
と、その胸元のバッチに自然と目いく。
(…あれ、この向日葵の形って…確か父さんと同じ…)

「…突然押しかけてきて、驚かせてしまいましたね」
写真とおぼろげな記憶から引っ張ってこようと頭の端で懸命に考えていると、沈黙を破るように男性が口を切った。


「私は柳生と言います。君のお父さんと同じ弁護士で、一緒の事務所に勤めていました」
「父さんの…?」

道理で雰囲気が知的だと思ったわけだ。
納得していると、柳生さんは祖母の背中に手をあて、続けた。

「今回、君がお父さんに続きお母さんまでも亡くされたことをおばあさんから聞いて…心配になってやってきました」
「弁護士さんに立ち会って貰ったほうがいいと思ったんだよ。…お前のこれからのことでね」
「!」


それはつまり…

(オレ…養護施設に入れられるのか…?)



身を硬くしたオレの様子に、考えていることが分かったのだろう。
柳生さんは微笑して、首を横に振った。

「大丈夫。君はこれからも、ここで暮らせますよ」
「えっ…!?」
「私がね…保証人になろうと思うんだ」
「…アンタが…?」

急な展開に頭が付いていかない。
葬式ではあんなに嫌がっていたじゃないか。

「…なんで、急に?」

オレの至極真っ当であろうその質問に、祖母の身体が動いた。
そのままの姿勢で後ろにずり下がり、勢い良く頭を下げる。


「本当に…ごめんなさい…!!」
「…!」

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不思議だった。
ずっと重石を飲み込んだように苦しく沈んでいた気分が、泣き終わる頃にはすっと軽くなっていた。

母さんが死んでから人前で泣いたことがなかったのに――泣いてはいけないと気を張り詰めていたこともあったのだろうけど――堂本の前では、止める事すらできなくて。
恥ずかしいやら情けないやらで何とか我慢しようとしたけど無理をするなと諭され、オレは暫く嗚咽を上げ続けた。

「…ごめん、収まった…」
「…そうか」

ひっく、としゃくり上げながら肘で涙を拭うと、堂本はさり気無くタオルを貸してくれた。
こんなところまでスマートだな…と少々感心しつつ、借りて目元を拭いた。

「あ、悪い、シャツ…!」
ふと目をやると、堂本の肩口はぐっしょりと濡れていた。
どんだけ泣いてしまったんだと恥ずかしくて、タオルで急いで拭う。

「洗って返すから…!」
「ああ…いいって、こんなん」
「でも…」
「それより、オレとしては補習をサボらず受けてもらうほうが嬉しいな」
「う…でもオレ、夢も目標もないし…」
勉強したって…と続けようとしたオレの頭を、堂本の手がぐしゃぐしゃと撫でる。
暖かいその感触に顔を上げると、優しい黒檀の瞳がこちらを見ていた。

「…それじゃあ、同じ高校行こうぜ」
「へっ?」
きっとオレは相当に間抜けな顔をしていたんだろうと思う。
だってクラスでも最低に近い成績のオレと、トップクラスの堂本が一緒に行ける高校なんて。

「え、いいよ、お前にランク下げてもらうなんて悪いし…」
流石にそこまでは…と思って断ろうとすると、例の恐いくらいの笑みが待っていた。

「誰が落とすなんていったよ?」
「へ…」
「お前が、上げればいいだろ?」
「……。無理無理無理っ!!」

何を言ってんだコイツは!
そんなのペンギンに空を飛べと言ってるようなもんだろ!

「大丈夫。…これからオレが、嫌になるくらいに扱いてやるからな」
ぶんぶんと首が取れそうなくらい横に振っても、堂本は一歩も、半歩すら譲ってはくれなかった。
こいつ、もしかして鬼かもしんない…
進藤から聞かされる生々しい事故の話に、オレは言葉も出てこなかった。
彼の肩が戦慄いて、小さく見える。

「救急車が来るまで、オレはずっと母さんの手を握ってた。段々体温がなくなっていくのを、懸命に温めようと擦るけど駄目なんだ」
「……」
「あのときオレがちゃんと逃げてれば…ううん、オレが轢かれればよかったのに」
「…もういい、進藤」
「…葬式で親族には会ったけど、みーんなオレが邪魔そうだった…そうだよな、母さん殺して自分だけのうのうと生きてるんだから」
「もういいからっ…!」

彼の口が紡ぐ自虐的な言葉に耐え切れなくて、その腕を掴んでこちらに向かせる。
オレを見つめる瞳からは、堪えきれなくなった雫が次から次へと零れていく。

ああ、そうだ。そうだったんだ。
こいつは隠し通そうとしていたんじゃない。
吐き出す場所を探し続けて、疲れきってしまったんだ。
自責の念と絶望感を抱えながら、苦しくても誰にも頼れなくて、言えなくて。
14歳の少年が背負うには余りにも酷な現実に、眩暈がしそうだった。


「だから、いいんだ、オレなんて…生きてる価値もない…っ」
「もうやめろ!!」
嗚咽交じりの言葉を遮るように、強く抱きしめた。
身長はさほど変わらないのに、細い身体は頼りなく壊れてしまいそうだ。

「お願いだから、これ以上自分自身を責めるのはやめてくれ…」
「…どう、もと…?」
「…お前は何にも悪くないんだ。悪くないんだよ……」
「……っ」

ふ、と進藤が肩越しに息を吐いたのが聞こえた。
ずっと我慢していたのだろう。肩に、じんわりと涙が染み込んでいく。


「どうしよ…オレ…もう…ひとりだ…」
「…一人なんかじゃ、ないだろ…」
「え…?」

そんな悲しいことを思って欲しくない。
身体を離し、近距離から覗き込む。

冷え切ってしまった心にどうか届いてくれと、祈りながら続ける。


初めてだった。
本心から、誰かの力になりたいと思ったのは。思えたのは。
部活の声がかすかに聞こえる、夕方の教室。
自暴自棄になって呟くオレに、動揺したのか彼の呼吸がひとつ乱れた。

「……なに、言ってんだよ」

僅かな焦燥感を孕んだような、堂本の声。
それを背中で聞きながら、オレは薄く口を開いた。
ずっと脳内で繰り返している、あの日の悪夢。
犯してしまった、罪。

誰にも言わなかった…言えなかった気持ちを――堂本にだけは、話してもいいかもしれない。
彼はしつこいくらいにオレに構ってきて…遠巻きにただ見守ったり、厄介者扱いして触れようともしないような奴らとは、違うから。

ゆっくりと、噛み締めるように、思い出すように。
オレは振り向かないまま、切り出した。


「堂本も、聞いてるだろ?この前、オレの母さんが亡くなったってこと」
急な話題変換に戸惑ったのか、言い辛そうに堂本は言葉を濁す。

「あ、ああ…事故だったって…」
オレが自分からこの話を切り出すとは思わなかったのだろう。
堂本は慎重に様子を窺っているようだ。
オレはその言葉に自虐的に口端を上げて、また窓に視線を移す。

真っ赤な夕陽がビル群に飲み込まれていく。
あのときと同じ色に、恐怖がぶり返す。


「事故…か。あれは……殆ど、オレが殺してしまったようなもんなんだ」
「……」
「オレのせいで……母さんは…」

キリキリと鋭く痛み出す胸をシャツの上から強く掴みながら、オレは堪えるように目を強く瞑った。



あの日――よく晴れた、日曜日だった。
初日は逃げられたことがショックだった。
やはり自分に心を開いてくれてなどいないのだと思い知らされたような気がして、所有者の居ない席を呆然と見つめていた。

次の日は悲しさよりも悔しさが込み上げてきた。
数十分でもいいから補習させようと常に見張っていたつもりだったのに、自分が教師に呼ばれた一瞬の隙を突いて帰られてしまった。

そして今日。
オレは完全にキレていた。
(いい度胸じゃねえか…)
ここまで綺麗に無視されると、逆に何が何でも受けさせてやろうと意地になってくる。
ふつふつと怒りが込み上げながら、朝(取り合えず冷静に)進藤に釘を刺しておいたが…彼はきっと全く気にもしていないだろう。

何事も無いまま残る時間はホームルームだけとなり…そこでふと、嫌な予感がした。
生徒達も授業が終わり、解放的な気分になっている。
今なら人目に付かずに帰ることが可能だろう。

しかもオレはタイミング悪くクラスメートから話しかけられてしまった。
仕方が無いので適当に返事をしながら、神経のアンテナは常にそちらへと向けていた。

だから、不審な動きでドアに近付いた彼を見逃しはしなかった。
慌てた進藤は猛ダッシュで走っていったが、オレもバカではない。
体力で勝てなくても、こちらにはある作戦があったからだ。

かくして、三日目にして進藤の捕獲に成功したのだった。


逃がさぬようにと、腕を掴んだままずるずると校舎内を移動する。
ホームルームが終りこぞって出てきた生徒達からは奇妙なものでも見るような視線が向けられるが、そんなの知ったことか。
進藤もそれどころではないのか、引きずられながら呻るように溢す。
「うう…くそ、不覚」
「散々逃げておいてよく言うぜ。今度逃げたら承知しないからな?」

にっこりと笑っていってやったのに、何故か進藤はひく、と口端を引きつらせる。
「…な、なんか堂本…キャラ違くない?」
「いや?どちらかというと、こっちが素」
(人前に出すなんて随分久しぶりだけど、な)

続く言葉は飲み込んでおく。
人前で本性を晒すなんて面倒なことはしない主義だ。
体良く生きたほうが楽だし都合もいい。

だが、この生徒の前ではそれも無駄な気がした。
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