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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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先輩の独白を、オレは驚きと…同時に、悲しい気持ちで受け止めていた。
時折見せる陰のある表情が気になっていたのだけれど…友人どころか、両親にも愛されていなかった、なんて。

(そんなの…辛すぎる…)
そして自分の境遇を省みる。
平々凡々で特筆すべきところはなにもないと思っていたけれど、家庭は円満だし気の置けない友人もいる。
それがどれだけ恵まれていたことなのだろうと、改めて思い知った。

先輩が傷つけたのは、周囲だけじゃない。
それ以上に自身に痛みを刻んで――深く傷ついていた。

でもそうしてしまうのは、このひとが優しいから。
本当に優しくない人なら、もうとっくに心が壊れている。

こうやって、泣きそうな顔なんて、しない。


そう思うとオレは堪らなくなって、先輩の手をそっと自分の頬にやった。
(こんなオレでも、役に立てるのかな)

自問して、応えるように強く願う。

(ううん…役に立ちたい)

「…ほら、こんなに温かい」

体温を感じて、にっこりと微笑んでみせる。
先輩が救われたと言ってくれた笑顔なら、沢山あげるから。

だから、だからどうか。

ほんの少しでもいい。
オレがいることで、この人が幸せになれたなら――


先輩がひゅ、と息を呑んだ。
それからぴくりともしなかった手が意思を持って、オレの頬を撫でる。

「……本当に、お前は……」


「え…?」

聞き返そうと思ってあげると、頭上に影が差した。
出そうとした言葉は途切れてしまう。

少し動いただけの唇は――暖かいそれに、塞がれていた。
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オレはそのままアジトへと戻ると、今回得た情報を真に伝えた。
参謀は薄いフレームの眼鏡を中指で押し上げると、自慢の手製パソコンのキーボードを素早く叩き始めた。
そして数秒もしないうちに、口元に笑みを浮かべる。

『…総長、解りましたよ』

そう言って、彼がパソコンの画面をこちらへと向ける。
オレはそこに映っていた人物に、息を呑んだ。

大きな瞳、ソバカス、幼さの残る輪郭。
紛れもなく、本人そのものだった。

『山田直――月峰高校1年6組、ですね』

真がすらすらとその名前を告げると、両隣の彼らがそれぞれ反応を示した。
『ひゃー…相変わらずスゴイねー真のデーターベースはー…一体どうなってんの?』
『そこはまあ、企業秘密、ということで』
『へえ…可愛い子じゃないか、篤也』
軽口を叩き合う真と龍人を余所に、優士がオレの肩越しから覗き込みながら、そう話しかけてくる。


しかしオレはそれに応える余裕もないくらい、画面に魅入っていた。

データ元は恐らく、学校側の生徒の名簿なのだろう。
学生証用で多少緊張気味の写真の横に、名前が書かれている。
直。山田直。
その名前を何度も反芻する。

渾名かもしれないと思っていたが、本名そのままだったのか。
名が体を現すというのは本当のことのようだ。
素直で真っ直ぐ…あいつを表現するのに、これ以上ぴったりくる表現もないだろう。

(……逢える…やっと、逢える)


言いようの無い喜びに震えながら、オレはそっと画面を指でなぞった。
一刻も早く、逢いたい。
待ちきれなかった。


(明日、逢いに行こう…)
裏通りから一本出ると、学校帰りの学生が多く平日の午後というのに人でごった返していた。
辟易しながら足早に歩きだす。

『あ、篤也じゃん!』
『うっそ、マジ!?』
雑踏の中、甲高い声に名前を呼ばれたかと思うと、2人の女子高生が近寄ってきた。
相手は知っているようだが、一向に覚えがなかった。
尤も他人に興味を持つことが殆どないから、顔を見て見当が付くはずがないのだが。


『ねえ、篤也ー私とデートしようよ』
『えーずるい!私としてよ~篤也』
女共は馴れ馴れしく腕を絡ませると、大きく開いた胸元を寄せてくる。
それらの行為と咽返るほどの香水の匂いに、刻んだ眉間の皺が深くなった。

『うぜえ…近寄ンな』
『えーひっどーい!』
吐き捨てるように言っても本気だと思っていないのか、一笑して去る様子もない。

(めんどくせえな…)
イラついて怒鳴ろうと口を開きかけたときだ。


『順平、お待たせー』
『!』

男にしては高めの、柔らかな音。
あの声、だった。


勢い良く顔を上げ、顔を確かめる。
数メートル先、スーパーの入り口から出てきたのは、紛れもなくあの時の少年だった。
(いた…!)

見つけた。
やっと、やっとだ…!

中学生くらいかと思っていたが、着ている学ランの襟章は己の高校のもので。
まさか同じ学校だったとは思いもしなかった。
最近サボっていたことを酷く惜しみながら、その横顔をまじまじと見つめる。

「あ…あのときの…」

案の定、直は黒目がちの瞳を零れんばかりに見開いていた。
予想通りの吃驚した顔がなんだか可愛くて、小さく微笑ってしまう。

ああ、と頷きながら、オレは話を続けた。


「…けれど、お前に見惚れていて、その場では声も掛けられなかった…」


子猫を抱いた直が路地裏から去るまで、オレはただ見送っていた。
そのあとどうやって家に帰ったのかも記憶がない。

ただ、ふわふわとした妙な感覚に襲われていた。
しかしそれは、決して嫌なものではなくて――寧ろ、やっと落ち着くべきところを見つけたような、そんな安心感で。
それは表情にも出ていたらしい。
オレの変化に龍人達は目敏く気がついたようで、翌日直ぐに事の次第は露見することとなった。

ただこいつらは話をしてもいいと思えるほどに信頼していたから、オレは昨日のことを話すことにした。
2人は一様に驚いた様子だったが、話を聞き終わると考え深げに頷いた。

『そっかそっかー。あの篤也が恋しちゃうとはねえー』
『それも真実の恋、ってところかな』
『…恋…?』

言葉にされた単語をぼんやり鸚鵡返しするオレに、龍人が苦笑する。
『え、ちょっと篤也、無自覚だったの?』
『……』
確かに自覚はしていなかった。
が、考えれば確かにこの感覚は、慕情よりも恋情…に近いのかもしれない。

オレはどうしても忘れられないでいる。
否、それどころではない。

あの笑顔が、見たい。傍に居て欲しい。
あれから、それだけを考えるようになっているのだから。
(…なんだ?あのガキ…)

見たところ1、2歳…いや、もっと年下だろうか。
随分と幼い印象を与えるのは、大きな瞳と少年特有の丸い輪郭のせいだろう。
ソバカスのある顔を悲しげに歪めて、そいつは黒猫に話しかけている。

『お前…捨てられたのか?怪我までしてるのに…』
そう呟くと、そいつは荷物を地面に置き――怪我ひとつない綺麗な手で、迷わず抱き上げた。

『ごめんな…っ』
そのまま暖めるように背中をさすってやりながら、堰を切ったように続ける。
声が揺らぐ。
嗚咽を噛み殺しながら、雨に塗れた頬に違う雫が伝った。

『こんなところに捨てられて…痛かったよな?寂しかったよな?…本当に…ごめんな…』
猫を真っ直ぐ見つめ、何度も何度も謝罪の言葉を口にする。


その光景を、オレはぼんやりと見つめていた。
このまま行ってしまえばいいと思うのに、足が動かない。
それだけ、あのガキの行動が不可解に映っているからだろう。

変な奴だ。

自分が捨てた訳でもないし、そもそも関係も無い筈だ。
なのに何故、あそこまで苦しそうな顔をするのだろうか?

可哀想だからと、上っ面の気持ちで手を差し伸べるのならば。
それならば、あんなふうに泣いて謝ったり…するだろうか。


(…分かんねえ)

傘も投げ捨て抱きしめるそいつの身体は、既にズブ濡れだ。
足元も跳ね返るドロのせいで汚れている。
それなのに、一向に構わずに抱きしめ続けている。


こいつは、一体なにをしているのだろう。
オレには理解出来ない。

でも、目が離せなかった。
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