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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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睨まれている。それも、物凄い数の人に。
よく気絶しないな、と自分の精神状態を褒めてやりながら(それでも膝は笑っていたが)、壁際で追い詰められた小動物の如く縮こまっていた。

「はいはーい、離れろー!お前らの顔が恐いから直クン固まっちゃったデショーが!」
そんなオレ達の間に入ってきたのは前園先輩だ。
眼前の不良の皆さんをいとも簡単に押しやる。凄い。

「あ、すんませんっ!」
「オレ達そんなつもりじゃなかったンスけど…っ」
不良の皆さんは途端に焦ったようにぺこぺこと頭を下げると、オレと距離を取ってくれた。
…よ、漸く呼吸が出来る…

Red Scorpion。
ここ丘野町に住んでいる人間でその名を知らないものはモグリだ。
特に学生は固有名詞を聞いただけで震え上がる。
この地域トップの不良グループだからだ。
まあ、一般の生徒には手を出さないという掟が堅く守られているらしく、オレ達に直接の被害が出たという話を聞いたことはないけれど。
それでもやっぱり、恐いものだ。

大通りから一本裏路地に入ったところにバー「Dark Night」はある。
Red Scorpionのアジトになっている店らしく、ここにはずらりと揃う不良以外に客はいない。
にこにこと、こんな状況なのに愉快そうに笑みを浮かべたマスターがカウンターでグラスを磨いている。
(あの人も元不良だったりするんだろうか…)

「はーい、それじゃあ総長から一言どうぞー!」
ちら、とそちらに視線をやっていると、前園先輩が声をあげた。
え、総長って。
誰ですか、という疑問は口の中で消えた。
ぽん、と肩に置かれた左手の人差し指に、ここ数日ですっかり見慣れたシルバーの指輪が光っていた。


「――こいつは山田直。オレの唯一だ。…その意味、判るよな?」

はい、と一斉に威勢のいい返事がある。
けれどそんなことより、オレはこの事実に蒼白となった。

「…そ」

総長って、嘉堵川先輩なんだ……

いや、薄々そんな気はしていたけれども!
だって先輩の噂を聞いたら決して弱いとは思えないし、学校の中でも後輩の不良とかが頭を下げて道が出来るというし。
もしかしたらそれなりに有名なのかもしれない…と覚悟はしていたんだ。
…してはいたけど…


「ふふ…凄い、ですね」
くらくらしていると、小さな呟きが聞こえた。
いつの間にかオレの傍に、ブレザーを着用した学生が立っていた。
桜橋先輩より少しばかり背が低いが、オレよりは遙かに身長があり、栗毛色のさらさらの髪を襟足で揃えている。
「え、ええっと…」
「ああ、これは申し遅れました」

明らかに他の不良達とは雰囲気が違う。というより、場違いな感じさえする。
どちらかというとオレと同じ一般人ではないのだろうか。
疑問がありありと顔に出ていたのだろう。
彼はレンズ越しの爽やかな眼差しを向け、にこり、と笑った。

「僕は二階堂真。Red Scorpionのまあ…参謀、といったところでしょうか」
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先輩達3人が一様に唖然としている。
彼らにこんな顔をさせるのはひょっとしたらオレだけなんじゃないだろうか。
どぎまぎしながら、何とか言葉を紡ぐ。

「あ、あの…折角だから、皆さんで…と思って…」
視線の先には大きなバスケット。流石にこれを持ち歩く男子高校生など他にいないので通行人にはちらちら見られて大変恥ずかしかったが、これしかなかったので仕方ない。
(順平にもピクニックにでも行くのかとか言われたけどさ…)
しかし今は入れ物が問題なのではない。その中身だ。

「これ…直クンが作ったの?」
「え?はい」
だって前園先輩が作ってきてって、頼んだじゃないか…と思って、オレははたと青ざめる。
(あれ、夢とかじゃないよね?それとも冗談だったとか…?)
だとしたら大変気まずい。
こんなに気合い入れて…お弁当を作ってきてしまった。

「直クンすげー!もうちょー大好き!」
そんな不安を一掃したのは前園先輩の歓声だった。
いきなりガバッと抱きしめられ、ちょっと苦しい。
「キミならいいお嫁さんになれるよ!!」
「お、お嫁さん…!?」
「…離れろ」
喜ぶには微妙すぎる誉め言葉に目を白黒させていると、そんな前園先輩の背中を嘉堵川先輩が踏みつけた。
心なしか大変機嫌が悪い。

酷い扱いにもめげた様子もなく、前園先輩はハイハイと拘束を解いた。
「ちえー篤也怖ーい」
「自業自得だよ」
拗ねてみせる先輩に、桜橋先輩が肩を竦める。
それからオレに振り向き、柔らかく笑いかけてくれる。
「僕らの分まで有り難う、直君」
「い、いえ…!」
ちょっと慌てつつ応えれば、桜橋先輩はにこにこしながらオレの頭を撫でた。


「…あの、先輩?」
2人の先輩は喜んでくれたけれど、この人からはまだリアクションがない。
心配になって、おずおずと顔を窺う。
「…悪かったな」
不意に、嘉堵川先輩が呟いた。
ひたすら黙って歩き続けたオレの一メートルほど前で、呆れたように溜息が落ちる。
「…なんで、落ち込んでんだよ」

露骨に態度に出てしまっていたのだろう、先輩は僅かに苛立っているようだ。
勿論恐いし、そんなことないですよと誤魔化してしまえばいいのだけれど…どうにも胸に重い石のようなものが乗っかったまますっきりしない。
逡巡のあと、勇気を振り絞ってオレはそれをぶつけることにした。

「…あの、さっきの女の人って…」
「あ?ああ…覚えてねえ。何回かヤッたのかも知んねえけど、女の顔なんて見ねえし」
先輩はそこで一度区切ると、小首を傾げた。
「それが、何」
「…な、何って…」

なんて、さらっと言うのだろう。
先輩にとっては、本当にどうでもいいことなんだ。
あの女の人の目を見れば、第三者のオレだって分かるのに…


「…そういうの、良くないと思います」

気がついたら、オレは本心を口にしていた。
はっと遅れてそれに気付き、急いで手を振る。
「あ、あの、ごめんなさい。オレなんかが差し出がましく…」
「…もう、しねえよ」

え?
ハッとして顔を上げると、真摯な瞳とかち合った。


「他の奴なんてどうでもいい。――…お前がいれば、何もいらねえ」


オレは今度こそ、言葉にならなかった。
一点の曇りも無く、迷いも無く、なんでそんなことを、言うのだろう。
頬が、かあっと熱くなった。

「…ほら、帰んぞ」
「わっ…」
そんなオレに微笑った先輩が、右手を掴んで歩き出す。
先程よりも距離が縮まった2人の間。
繋がれた手を振り解くこともできずに、オレはぼんやりと大きな背中を見遣った。

(…嘉堵川先輩は……)

嘉堵川先輩は、どうしてそこまでオレのことを想ってくれるのだろう?
こんな平凡だし、いいところなんてひとつもないのに…


考えたところで答えなんて出る筈もなくて、包まれた手はいつまでも熱を帯びていた。
「……」
「……」

ここまで気まずい沈黙が今まであっただろうか。
そう尋ねられたら、オレは全力で首を横に振るだろう。

放課後、まあ大方の予想を裏切ることなく、先輩が迎えに来て。
こうして嘉堵川先輩と2人、帰路についているのだけれど。
(か、会話がない……)

前園先輩達がいてくれたら――勿論恐いのだけれど――違ったのかもしれないが、折角なので2人きりでごゆっくり、と有り難くもない気遣いをされてしまった。

オレはちら、と横目で先輩を見遣る。
黙々と歩く先輩は、怒っているのかつまらないのか、読み取れない。

(ど、どうしよう…)
なにをすべきかも判らないけれどずっとこのままなのか、と辛くなってきたときだった。
にゃあ、という、とても可愛い鳴き声がオレの耳に飛び込んできたのは。

「!」
ぴくん、とそれに過剰に反応して、辺りをきょろきょろと見渡す。
するとなんと、ビルの隙間から白い猫がこちらへと近寄ってくるではないか。

「わあっ!」
一瞬にして意識はそちらに向かってしまい、オレはまっしぐらに駆けた。
しゃがんで話しかけても、猫は逃げるどころから擦り寄ってくる。
たまらなく可愛い。文句無く可愛い。
「おお、お前人懐っこいなあ~よしよし、抱っこしちゃうぞー」

一気にオレのテンションは最高潮になり、抱き上げてその柔らかな毛並みを堪能する。
ああ、癒される……

「ふわふわだなーうーん、可愛いー…」
「…猫、好きなのか」
「はい、可愛いですよねっ!!」
力強くそう言いきったオレが振り返ると、そこには無表情の先輩が見下ろしていた。
(…ってうわあ!わわ、忘れてた!オレ今先輩と居たんだ…っ!)

動物を目の前ににすると、つい我を忘れてしまうのが悪い癖だ。
今だって、先輩を放置してしまった。

「ごご、ごめんなさい!オオ、オレ、動物が大好きで、この前も捨てられた猫を放って置けなくて、飼っちゃうくらいで、その…っ」
最早何を言っているのかも良く分からない。
聞かれても居ないことを捲し立てて、オレはなんとか謝罪しようと必死になった。
(はしゃいでてウゼーとか思われたよね、絶対…っ!)

そんなオレを見つめて、先輩はふ、と小さく、口端を持ち上げた。
「…いや…」
そして、オレの腕に抱かれている猫を大きな手で優しく撫でる。


「……知ってる」


「…え…?」
知ってる?
知ってるって…何を?

オレの疑問は言葉にならなかった。
それを遮るかのように、大きな声が飛んできたのだ。

「あーっ、篤也っ!!」

「は、はは…」
(恐い…)
二人の自己紹介だけで大体人となりがわかったような気がして、愛想笑いは酷く乾いていた。

「――ほら、座んぞ」
「わっ」
そんなオレの態度に一向に構うことなく、嘉堵川先輩が腕を引っ張った。
なすがまま後ろに倒れたオレは、ぼすんと何かに包まれる。
(えっ、えっ…えええー!)

嘉堵川先輩に後ろから抱きしめられている、ということに気がついたのは、長い腕が腰まで回されてからだ。
「あああ、あの…!?」
「お前…小せえなあ」
混乱するオレに、先輩はくすり、と耳元で小さく笑う。
決して馬鹿にしているという声色ではなく、どこか優しげなそれで。
赤くなっていいものやら青くなっていいものやら分からなくて硬直していると、オレ達の左右に2人の先輩も腰を降ろした。

(って…このまま食べるのかよ~…!)
叫べるものならそう叫びたかったが、オレ以外の皆さんがさも当たり前のように食事を始めたので黙って従うほかなかった。

不良に後ろから抱きしめられながら食事って…我ながらなんと言う光景だろうか。


諦めつつ弁当箱を開けると、前園先輩が真っ先に歓声を上げた。
「うわっ!直クンのお弁当ちょー美味しそー!」
「本当だ。君のママは料理上手だね」
続いて桜橋先輩まで褒めるので、オレは言おうかどうか迷いながら…自己申告することにした。

「あ、あの…これ、オレが作ったんです」

一瞬間があり、今度はほぼ同時に反応がある。
「うっそ!直クンちょーすごーい!」
「へえ、見事だね」
「い、いえ…うちの両親共働きだから、これぐらいはしないとって…」
まさかこんなに素直に感心されるとは思っても見なかった。
嬉しいやら恥ずかしいやらで、オレは両手を弄りながら謙遜する。

昔から家事を手伝うことは苦ではなかったし、料理を作ったときに家族に褒めてもらうのが嬉しかった。
それが大きくなっても趣味になっており、こうして弁当は毎日作るようになっていたのだ。
自分では当たり前になっていただけに、先輩たちの反応はなんだか新鮮だった。


「…ふーん…」
ずっと黙っていた嘉堵川先輩が、ここでぽつり、と呟いた。
首だけで振り返れば、オレの弁当をじっと見つめている。



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