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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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「「真っ」」

オレと優士の声が見事にハモった。
真は愛用しているノートパソコンを片手で操作しながら、オレ達の隣に立つ。

「名前は湊。今はサラリーマンですが、学生時代は人気モデルでした」
「へえ…」
肩越しに画面を覗き込むと、モデル時代だろう画像が映っていた。
体型も華奢ではなく引き締まった長身で、涼やかな流し目は色気たっぷりだ。
確かにこの容姿は数多くの女性をノックダウンしたに違いない。

「あのルックスで頭脳明晰、そして人当たりもいい…文句なく男女どちらからでも好かれる人物ですね」
「ってなんでお前がそんなことまで知ってんの?」

真に言ったところで効果はないが、一応突っ込んでおく。
こいつに掛かればプライバシーなんてあってないようなものだ。おお怖。

しかし直クンとは全然似ていない。
兄弟と言われなければ、オレみたいに間違えることだろう。


「…が、ここで重要な点がひとつ」
案の定人の質問をさらりとスルーした真が、眼鏡のブリッジを上げる。

「彼は弟の直くん至上主義。…唯一執着している存在といってもいいでしょうね」
「あーナルホドねー」
「まあ、確かに彼は可愛いからねえ」

それは遠くから見ていても伝わってくる。
車のボンネットを開け、荷物を仕舞おうとしている直クンを手伝う兄さんは終始にこにこと嬉しそうだ。

「…って、ちょい待ち!」

そこでオレはひとつ、重大なことに気付いてしまう。
「なあ真、篤也って兄さんのこと知ってんの?」
「いえ、知らないと思いますよ。お兄さんは高校卒業後すぐにアメリカへ行ってますし…」
「うわー…それじゃあバッタリ会ったりしたらヤバイじゃん!」

直クン至上主義の兄さんと、直クン命の篤也。
同じものが大好きだからって、仲良くなるとは限らない。
寧ろその分反発も大きくなるのが世の常というもので…

(それに自分の知らない間に弟くんに恋人が出来たなんて知ったら…大変なことになりそう)

ぶるり、と震えながらアイスの最後の一口を放りこんだところで、思案顔だった優士がぽつ、と呟いた。

「あれ?そういえば今日篤也、直くんに会いに行くって…」
「……」


「え?」
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「に、兄さん、兄さんってば」

オレはずるずると引きずられながら、後ろを気にしつつ声を掛けた。

「いいの?ファンの人達にあんな…オレなら平気だからさ」
「――平気じゃない」

辞めたとは言っても、兄のこれまでの人気に傷をつけるようなことはしたくない。
そう思って心配していると、すぐさま返された。
くるり、と振り返るその顔は、悔しさを滲ませていた。

「オレは!直をよく知らないくせに直を悪く言う奴が、一番許せないんだよ…!」
「兄さん…」
「だってそうだろ?直はこんなに可愛くて優しくて素直で…!」
ぐぐ、と拳に力を籠めるサマは、さながら選挙演説でもしているかのような熱の入り方だ。
放って置いたらエンドレスなんじゃないかというくらいにオレのことを褒めちぎり、そして最後にはっきりと言い放った。

「自慢の弟なんだからな!」
「……。…ぷっ」

こっちが恥ずかしくなるくらいに断言されて、思わず噴出してしまった。
兄さんが言うほど、よく出来た弟なんかじゃない。
だけど…完璧な兄と比べられてばかりのオレが腐らないでいられたのも、こうしてその兄自身が認めてくれているからなんだって、改めて思えて。

オレはいつの間にかさっきまでの悲しさなんて綺麗に吹き飛んでいて、笑いながら兄さんを見上げた。

「…ありがと兄さん、オレの代わりに怒ってくれて…実は、嬉しかったよ」
「…直…」

兄さんもオレの顔を見て怒りがすっと抜け落ちたようだ。
眉根を下げて、困ったように笑った。


「あーもう、どうしてこんなに可愛いんだっ!!」
「わっ!?」

と思ったのも束の間、いきなり抱きつかれる。
身長差があるせいで視界が埋まるし、なによりかなり苦しい。

(しかもここスーパーの中だから…!!)


周囲から悲鳴やらざわつきが起こっているのは……もう全部聞こえないことにしたい。


『今日は迎えに行けなくて悪かった。こっちは今、終わったところだ』
相変わらず短くて絵文字もない文章だけど、そこには不器用な先輩の優しさが詰まっている。
メールを見て思わずにやけていたところに突如声を掛けられ、身体が跳ねた。


「えっ、あ、ああ!ぶ、部活の先輩だよ!ちょっと連絡網が回ってきてさ!」

横目でこちらを窺う兄さんに、オレはなんとか詰まりながらも適当に嘘を紡いでいた。
ここでするりと言葉が出たのは我ながら上出来だと思う。
というのも、大事なことを思い出したからだ。

兄さんはずっとアメリカにいて、連絡を取り合っていたときだって、話題にしたことはない。
誰のことかって、勿論そう――篤也先輩のことだ。


(…ま、まずい…)

品行方正を絵に描いたような兄さんは、(オレがよく絡まれていたこともあるのだろうが)昔から不良達が大嫌いだった。
だから、ただでさえブラコンな兄さんと総長で恋人の篤也先輩が出会ったら…
(仲良くなったり…なんてことは…)

無理。絶対無理だ。
想像しようとしたけれど、無言で睨みあう構図しか浮かばない。
早くもきりきりと胃まで痛くなってきた。

(兎に角先輩のことは、兄さんにバレないようにしないと…!)


『気にしないでください。今はちょっと立て込んでいるので、夜にまたメールします』
愛想も無い素っ気無い文章だが、長々と連絡しているのも怪しまれるかもしれない。
先輩にはあとで謝ろうと思いつつメールを打っていたオレは、その横顔を兄さんがじっと見つめていたことなんて気付くはずもないのだった。



オレ達は帰る前に、地元の中型スーパーへ立ち寄ることにした。
今日の夕飯の材料を買うためだ。

「何作るんだ?」
「兄さんの好きなものにするよ?」
「じゃあ、鯖の味噌煮で!」
「うん、了解」
久しぶりの日本食にうきうきと嬉しそうな兄さんに笑いながら、オレは待ち受け画面のままの携帯に視線を落す。
(さっきのメール、ちょっとよそよそしかったかなあ…)

いくら急いでいたからといっても、もう少しなにか加えればよかったかも。
最後の語尾に絵文字の汗をつけたところで変わらないよなあ…などと考えたらキリがない。
先輩がそんなことで怒るような人でないことは十分判ってはいるのだ。
(判ってはいるのだけど…)

返事の無い携帯に、ふと不安に駆られてしまう。


「おーい、直?魚はこっちだろ?」
「へ?あ…ごめん!」
気付くと曲がるはずの通路を通り過ぎていた。

(駄目だ、今はこっちに集中しないと…っ)

こちらにも鋭い人がいるのだ。
迂闊にボロを出さないようにしないと、と顔を引き締め、オレは踵を返した。
どうやらずっと弟が欲しかったらしい兄の溺愛っぷりは半端なく、オレは幼い頃から物凄く甘やかされて育ってきた。
両親が止めてくれればよかったのかもしれないけれど…ちょっと天然な母とちょっと存在感の薄い父ではそれもなくて。
(まあ…これで我侭にならずに済んだのは、この平凡顔のおかげかもしれないけど…)
家と世間のギャップといったら…悲しくなるので思い出すのはやめておこう。

(…そういえば、兄さんがアメリカ留学したときも大変だったなあ…)
兄さんは空港で出発直前まで別れを惜しみ、毎日メールするから、休みには必ず帰るから、と繰り返し縋るように言っていた。
その約束に違わず、社会人となり忙しい今でも、兄さんからのメールは頻繁に届く位なのだ。

流れる景色を見ながら当時を思い返していると、ゆっくりと車が止まった。
赤信号だ。

そこでふと、兄さんの近況が知りたくなって顔を上げた。
「そういえば兄さんは?向こうでいい人とか出来た?」
「いや、全然。オレモテないからさ」
ははは、と軽く流すように兄さんがオーバー気味に手を振る。
しかし今の言葉を信じる人はいないだろう。ましてや弟だ。
じと、と自然に呆れるような目になってしまう。

「またそんなこと言って…嫌味にしか聞こえないよー」
直接聞いたことはないけれど、沢山の…それこそ両手両足の指の数を全部足したって足りないくらいに告白をされたことは、兄さんの友人伝てから聞いている。
それに家のポストには毎日のようにファンレターとラブレターが入っていたし、バレンタインのときには家にまで女の子が押しかけてきたことだってあるのだ。
あのときの血走った目をした彼女達は…本当に恐かった。

オレの言葉に、兄さんがふと笑いを引っ込めた。
「んー…まあ、彼女みたいなのは昔から出来るんだけどな…」
「ほらー」
だからアメリカでだってきっとモテているはず。
そう続けようとしたオレの頬を、兄さんの大きな手がそっと触れた。

「でもな」
視線が、オレを捉える。
途端、無表情だった顔が綻び、色が生まれる。
まるで陶磁器のような、どこか芸術品に似た美しさの近寄りがたい空気から一転、いい意味で隙のあるそれに周囲の生徒達がざわめき出す。

(ああ…もう…)
予想していた通りの一連の騒ぎに、オレは軽く眩暈がしていた。
引力のようなオーラを生まれながらにしてもつ人間は、やはりいるもので。
こういうのをカリスマというのだろうか…生憎自分には、とても縁遠い話だけれど。

ついつい皮肉めいた愚痴を脳内で溢しているうちに、男性は真っ直ぐにこちらへと歩みを進める。

「お、おい、直。なんかこっち来るけど…」
それはそうだろう。
しかしここで迂闊なことを言えば一気に注目を集めそうで嫌なのだ…もう遅いかもしれないけれど。

まるでモーゼの十戒のようにサッと分かれた群衆の間を抜け、ついに彼は目の前に立った。
影になってしまうほどの、いやになるくらいの身長差。
見上げると天に登った夏の太陽が眩しくて、オレは目を細めた。


と、彼が動く。
視界一杯に、近付いて。


「直~!!」


大声でそう叫びながら、オレを力強く抱き締めた。

一気に黙り込んでいた生徒達が色めき出す。先ほどとは違った意味で。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる力がこの人の気持ちを表しているのだろう。
そう思うと強く反発も出来なくて、オレはとりあえず呼吸だけは確保しようと頭だけ動かした。

「久しぶりだなあ、直!オレはもう淋しくて淋しくてっ…!」
ああ、だからそういう言い方は誤解を招くんだって!
オレの不安通り、皆は「どういう関係?」とヒソヒソ話している。
隣に立っていた順平は、すっかり固まってしまった。

それでもはた、と我に返ったようで、慌てて彼に声を上げた。
「って…!アンタ、いきなりなんなんです!?」
「ん?」
「そ、そうだよ…っ」

順平に気を取られ腕の力が緩んだところで、オレもハアと大きく息を吸って抗議する。
もうこんなぐちゃぐちゃになった状況では誤魔化すことは不可能だろうから、オレも腹を括る。
「そうだよ、吃驚したよっ!」

きっとこの場が固まるであろう――オレ達2人にとっては当たり前の、その言葉を音に乗せる。


「兄さん!」

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