オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。

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- 04/16 [PR]
- 10/21 初夏の嵐(1)
- 09/30 ひかり(キリリク№13,500・篤直)
- 06/24 2人の距離(キリリク№,9,500・篤直)
- 04/29 日常(キリリク№.6000・篤直)
- 03/10 山田君の災難。(30)最終回
Title list of Liebeシリーズ
平凡なことだけが取り柄のオレ、山田直が、不良でしかも総長な嘉堵川篤也先輩と付き合うようになって、一ヶ月が経ちました。
他の先輩達も、グループの皆さんも良くしてくれるし、先輩はとても優しくて。
こんな幸せでいいのかな、と思ってしまうくらい、何ごともなく平穏な毎日…
でした…あの日までは。
街路樹の緑も濃くなり、陽気も少しずつ夏の色を纏い始める。
薄くなった制服でも汗ばむ程の空気にふうと溜息を吐いたのは、ホームルーム終了のチャイムが鳴り終わるのと同時だった。
「直~帰れるか?」
教科書を鞄に詰めているところに話しかけてきたのは親友の森永順平だった。
「うん、今日は大丈夫」
オレも頷きながら、鞄を肩に掛ける。
先程携帯を確認したけれど、何の新着も知らせてはいなかった。
きっとまだ終わっていないんだろうな…と恋人を思う。
まさか顔に出ていた訳ではないだろうけれど、タイミング良く順平が尋ねた。
「そいや、今日先輩は?」
「今日お休みなんだ。なんでも、グループの集会だって」
それを聞いた途端、彼の口端が引くついた。色々想像したらしい。
「へ、へえ…」
「行くか、とは聞かれたんだけどね…」
オレの言葉尻に含める気持ちは推して知るべし、といったところで。
ぶる、と身震いをした順平が、首を真横に振った。
「…それは、丁重にお断りだよな…」
…その通り。
グループの皆さんは話してみると存外に優しい人達ばかりで(まあオレが総長の恋人だからというのもあるんだろうけれど)、幾分か打ち解けることが出来ている、と思う。
けれどやっぱり、そういう場にオレが居たら気絶してしまいそうな気がするのだ。
「じゃ、今日はどっか寄って行こうぜ!」
最近先輩と一緒に登下校していたし、順平もサッカー部で忙しくなかなか時間も合わなかった。
先輩との時間も勿論大切にしたいけれど、友達同士の繋がりも疎かにしたくない。
だからその提案には大賛成で、オレもいつもの寄り道候補を脳裏に描く。
「先ずはファーストフードでなんか食べて、本屋でも行こうか」
「お、いいな!あとちょっと服みたいんだよな~」
夏服買わないとなあ、と思案する順平の視線が、ふと前方に泳いで止まった。
なんだろうとその先を追うと、オレ達と同じように帰宅しようと昇降口から出ていた生徒達が前方で立ち止まっている。
わらわらと人が群がっているため、ここからでは奥を窺うことが出来ない。
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他の先輩達も、グループの皆さんも良くしてくれるし、先輩はとても優しくて。
こんな幸せでいいのかな、と思ってしまうくらい、何ごともなく平穏な毎日…
でした…あの日までは。
街路樹の緑も濃くなり、陽気も少しずつ夏の色を纏い始める。
薄くなった制服でも汗ばむ程の空気にふうと溜息を吐いたのは、ホームルーム終了のチャイムが鳴り終わるのと同時だった。
「直~帰れるか?」
教科書を鞄に詰めているところに話しかけてきたのは親友の森永順平だった。
「うん、今日は大丈夫」
オレも頷きながら、鞄を肩に掛ける。
先程携帯を確認したけれど、何の新着も知らせてはいなかった。
きっとまだ終わっていないんだろうな…と恋人を思う。
まさか顔に出ていた訳ではないだろうけれど、タイミング良く順平が尋ねた。
「そいや、今日先輩は?」
「今日お休みなんだ。なんでも、グループの集会だって」
それを聞いた途端、彼の口端が引くついた。色々想像したらしい。
「へ、へえ…」
「行くか、とは聞かれたんだけどね…」
オレの言葉尻に含める気持ちは推して知るべし、といったところで。
ぶる、と身震いをした順平が、首を真横に振った。
「…それは、丁重にお断りだよな…」
…その通り。
グループの皆さんは話してみると存外に優しい人達ばかりで(まあオレが総長の恋人だからというのもあるんだろうけれど)、幾分か打ち解けることが出来ている、と思う。
けれどやっぱり、そういう場にオレが居たら気絶してしまいそうな気がするのだ。
「じゃ、今日はどっか寄って行こうぜ!」
最近先輩と一緒に登下校していたし、順平もサッカー部で忙しくなかなか時間も合わなかった。
先輩との時間も勿論大切にしたいけれど、友達同士の繋がりも疎かにしたくない。
だからその提案には大賛成で、オレもいつもの寄り道候補を脳裏に描く。
「先ずはファーストフードでなんか食べて、本屋でも行こうか」
「お、いいな!あとちょっと服みたいんだよな~」
夏服買わないとなあ、と思案する順平の視線が、ふと前方に泳いで止まった。
なんだろうとその先を追うと、オレ達と同じように帰宅しようと昇降口から出ていた生徒達が前方で立ち止まっている。
わらわらと人が群がっているため、ここからでは奥を窺うことが出来ない。
VIP専用ルームは、幹部だけが踏み入れることが出来る領域だ。
ここではいつも他のグループの動向やら、オレ達に喧嘩を吹っ掛けてきた奴らの詳細やらが伝えられる。
Red Scorpionの幹部…龍人や優士、真とする”話”は、大抵が愉快なものとは程遠い。
毎日が暴力と血で塗られた汚い世界だ。
元々オレ自身、このグループで頂点を目指そうという気持ちは微塵もなかった。
ただ絡んでくる奴らを倒していたら、必然的にこの地位までのし上がってしまっただけだ。
しかし、オレ達を…オレを倒すことで名実ともにNO,1になろうと尽きることの無い欲を持つ奴らは、吐いて捨てるほどいる。
少し前までのオレなら、挑んでくる奴らをただ厭い、殴って気を紛らわし、高まった熱を適当な女で発散させていた。
それしか他に知らなくて、益々酷くなる渇きに苛立ちだけが募って。
本当に殴りたいのは誰でもなく己自身だと気付いていながら、もがき苦しんでいた。
――だが、今は違う。
護りたいものができた。
それは、オレの人生を変えるには十分過ぎるほど。
「わあ、流石ッスね!!」
真の理路整然とした説明が済み、話し合いは終了した。
と、VIPルームを一歩出たところで、大きな歓声が飛び込んできた。
何事かと思い見渡すと、主因はすぐに判明した。
うちの不良連中が囲んでいるその中心には、照れくさそうに笑う恋人がいたからだ。
「これで又着れます!俺これすっげえ気に入ってたんで、マジで助かりました!」
「あ、あの!次オレも頼んじまってもいいですか?」
「あ、はい。オレでよければ」
あいつらが手に持っているのは自分達の洋服で、そして彼が持っているのは針と糸。
オレが考えるよりも先に、横に居た優士が微笑んだ。
「ああ…また直くんに破れた服を縫ってもらってたんだね」
「いーな!オレも今度やってもらっていいー?」
それを聞いた龍人がすかさず手を上げて直に頼む。
「はい、勿論いいですよ」
正直言って面白くは無いが、直が本当に明るい顔で頷くから文句は口の中だけで消えた。
直がここにやってきて、雰囲気が一変した。
最初彼は強面の連中にかなりビビッていたようだが、数週間もしないうちに大分打ち解けたようだ。
そして不良連中もすっかり気に入ったらしい。最近では直がこのバーにやってくるや否や、皆して声を掛けようとしている。
ここではいつも他のグループの動向やら、オレ達に喧嘩を吹っ掛けてきた奴らの詳細やらが伝えられる。
Red Scorpionの幹部…龍人や優士、真とする”話”は、大抵が愉快なものとは程遠い。
毎日が暴力と血で塗られた汚い世界だ。
元々オレ自身、このグループで頂点を目指そうという気持ちは微塵もなかった。
ただ絡んでくる奴らを倒していたら、必然的にこの地位までのし上がってしまっただけだ。
しかし、オレ達を…オレを倒すことで名実ともにNO,1になろうと尽きることの無い欲を持つ奴らは、吐いて捨てるほどいる。
少し前までのオレなら、挑んでくる奴らをただ厭い、殴って気を紛らわし、高まった熱を適当な女で発散させていた。
それしか他に知らなくて、益々酷くなる渇きに苛立ちだけが募って。
本当に殴りたいのは誰でもなく己自身だと気付いていながら、もがき苦しんでいた。
――だが、今は違う。
護りたいものができた。
それは、オレの人生を変えるには十分過ぎるほど。
「わあ、流石ッスね!!」
真の理路整然とした説明が済み、話し合いは終了した。
と、VIPルームを一歩出たところで、大きな歓声が飛び込んできた。
何事かと思い見渡すと、主因はすぐに判明した。
うちの不良連中が囲んでいるその中心には、照れくさそうに笑う恋人がいたからだ。
「これで又着れます!俺これすっげえ気に入ってたんで、マジで助かりました!」
「あ、あの!次オレも頼んじまってもいいですか?」
「あ、はい。オレでよければ」
あいつらが手に持っているのは自分達の洋服で、そして彼が持っているのは針と糸。
オレが考えるよりも先に、横に居た優士が微笑んだ。
「ああ…また直くんに破れた服を縫ってもらってたんだね」
「いーな!オレも今度やってもらっていいー?」
それを聞いた龍人がすかさず手を上げて直に頼む。
「はい、勿論いいですよ」
正直言って面白くは無いが、直が本当に明るい顔で頷くから文句は口の中だけで消えた。
直がここにやってきて、雰囲気が一変した。
最初彼は強面の連中にかなりビビッていたようだが、数週間もしないうちに大分打ち解けたようだ。
そして不良連中もすっかり気に入ったらしい。最近では直がこのバーにやってくるや否や、皆して声を掛けようとしている。
※これはキリリク作品で、「山田くんの~」の後日談です。
オレが扉を開けた途端、殆ど全ての人の視線が集中した。
先ほどまで友人達と雑談に花を咲かせていた生徒の凍りついたその表情に、どう思われているのか容易に想像がつく。
(…まあ…無理もない、よね…)
平凡代表の看板を背負って歩いているようなオレの頬には、昨日までなかったガーゼが当てられて。
その後ろに、この学校…いやこの地域トップと称される不良グループの総長が立っているのだから。
「じゃあ、また昼迎えに来る」
「あ、はい。有難う御座います」
しかし篤也先輩はそんな彼らの視線など慣れたものなのか、気にも留めずオレに話しかける。
頷いたオレの頭を撫で満足そうに口端を緩めた先輩は、そのまま廊下を歩いていった。
先輩の背中を見送ってから、オレも教室に一歩足を踏み入れる。
…正直こんな空気の中に入りたくは無かったけれど、致し方ない。
「な、ななな、直!」
と、途端に金縛りが解けた様に駆け寄ってきたのは、親友の順平だった。すっかり顔面蒼白だ。
「お、お前」
「ま、待って!これは先輩に殴られたんじゃないから!」
皆まで言うな、と手で制しながら取り敢えず最大の誤解を解いておく。
ロードに時間がかかったようで、順平は暫く固まっていた。
そしてゆっくりと数回、瞬きをした。
「…え、違うの?」
それから短い休み時間をいくつか使って、なんとか昨日までのあらまし全てを説明することが出来た。
Red Scorpionに対立するグループに拉致されたこと。
そこには先輩のことを好きな女性もいて、知らない間に恨みを買ってしまっていたこと。
襲われそうになりピンチのところを、間一髪で先輩達に助けてもらったこと。
そして何より――オレ自身の気持ちに気づくことが出来て、先輩と正式な恋人同士になれた、こと。
全てを話し終える頃には、順平もすっかり安心したようだ。
そっか、としきりに何度も相槌を打って聞いていた。
「オレさ、結構心配してたんだよ。直ってさ、自分の気持ち中々口に出せないだろ?」
「うん…そう、かな」
思い当たる節は沢山ある、と思いながら同意を示すと、順平が大きな手でがしがしと頭を撫でた。
先輩のそれとは違って友人同士の気安いそれに、思わず笑みが浮かぶ。
「ちょっと順平、髪ぐしゃぐしゃに…」
「…直が幸せそうで、よかった」
「…え」
急に変わったトーンに彼を見る。
凪のような穏やかな瞳には本当に心配してくれていたんだと窺える優しさが滲んでいて、微かに息を呑んだ。
こんな彼の顔は、初めて見たかもしれない。
「自覚ないかもしんないけど…篤也先輩の話するとき、お前すっげえいい顔してるよ」
「…そう、かな?」
「ああ。…ちゃんと恋人、なんだな」
「…順平…」
改めて第三者から「恋人」と言われると、本当にそう思ってもらえるのだと…思ってもいいのだと、知る。
順平はとても頼もしい笑顔で、応援するからな、と言ってくれた。
オレが扉を開けた途端、殆ど全ての人の視線が集中した。
先ほどまで友人達と雑談に花を咲かせていた生徒の凍りついたその表情に、どう思われているのか容易に想像がつく。
(…まあ…無理もない、よね…)
平凡代表の看板を背負って歩いているようなオレの頬には、昨日までなかったガーゼが当てられて。
その後ろに、この学校…いやこの地域トップと称される不良グループの総長が立っているのだから。
「じゃあ、また昼迎えに来る」
「あ、はい。有難う御座います」
しかし篤也先輩はそんな彼らの視線など慣れたものなのか、気にも留めずオレに話しかける。
頷いたオレの頭を撫で満足そうに口端を緩めた先輩は、そのまま廊下を歩いていった。
先輩の背中を見送ってから、オレも教室に一歩足を踏み入れる。
…正直こんな空気の中に入りたくは無かったけれど、致し方ない。
「な、ななな、直!」
と、途端に金縛りが解けた様に駆け寄ってきたのは、親友の順平だった。すっかり顔面蒼白だ。
「お、お前」
「ま、待って!これは先輩に殴られたんじゃないから!」
皆まで言うな、と手で制しながら取り敢えず最大の誤解を解いておく。
ロードに時間がかかったようで、順平は暫く固まっていた。
そしてゆっくりと数回、瞬きをした。
「…え、違うの?」
それから短い休み時間をいくつか使って、なんとか昨日までのあらまし全てを説明することが出来た。
Red Scorpionに対立するグループに拉致されたこと。
そこには先輩のことを好きな女性もいて、知らない間に恨みを買ってしまっていたこと。
襲われそうになりピンチのところを、間一髪で先輩達に助けてもらったこと。
そして何より――オレ自身の気持ちに気づくことが出来て、先輩と正式な恋人同士になれた、こと。
全てを話し終える頃には、順平もすっかり安心したようだ。
そっか、としきりに何度も相槌を打って聞いていた。
「オレさ、結構心配してたんだよ。直ってさ、自分の気持ち中々口に出せないだろ?」
「うん…そう、かな」
思い当たる節は沢山ある、と思いながら同意を示すと、順平が大きな手でがしがしと頭を撫でた。
先輩のそれとは違って友人同士の気安いそれに、思わず笑みが浮かぶ。
「ちょっと順平、髪ぐしゃぐしゃに…」
「…直が幸せそうで、よかった」
「…え」
急に変わったトーンに彼を見る。
凪のような穏やかな瞳には本当に心配してくれていたんだと窺える優しさが滲んでいて、微かに息を呑んだ。
こんな彼の顔は、初めて見たかもしれない。
「自覚ないかもしんないけど…篤也先輩の話するとき、お前すっげえいい顔してるよ」
「…そう、かな?」
「ああ。…ちゃんと恋人、なんだな」
「…順平…」
改めて第三者から「恋人」と言われると、本当にそう思ってもらえるのだと…思ってもいいのだと、知る。
順平はとても頼もしい笑顔で、応援するからな、と言ってくれた。
※これはキリリク作品で、数年後篤直のパラレルです。それでも良い方はどうぞー。
ゆっくりと目を開ける。
そこに映る天井の柄が自分の家ではないことにも大分慣れて、もはや驚くこともなくなった。
まだ静かな朝の始まり。
本当はもうちょっと寝ていたいけれど、そろそろ目覚まし時計がけたたましく騒ぎ出す時刻だ。
うつら、としてしまう目蓋をなんとかこじ開けると、首を捻りそれを確かめる。
カチ、と機械的な音がして、長針が指定した時刻を指す。
その絶妙なタイミングで時計の頭を叩いたおかげで、音はコンマ何秒で防ぐことが出来た。
(よかった…)
自分でセットしておいて、なんだけれど。
折角だから、もう少し寝かせておいてあげたい。
自分ではなくて…隣でぐっすりと寝込んでいる、愛しい人を。
長い腕でオレの腰を抱くようにして眠っているその人は、起きているときとは違ってとても無防備だ。
いつも深く刻まれている眉間の皺が緩んで、形の良い唇が薄く開いている。
その様子につい、うっとりと見惚れてしまう。
テレビで見る芸能人よりもカッコいい、と思ってしまうのは、惚れた欲目だけではないはずだ。
その証拠に、この人と歩くだけで街中の女性の視線を集めてしまうから。
(…っと、いけない…)
いつまでもこうして居たいけれど、そろそろ動き出さないと。
回された腕をそっと解いて、ベッドから抜け出すことにする。
朝御飯とお弁当のためにセットしておいた炊飯器はもう炊けているはずだし、昨日の服が寝室の床に散乱しているから、洗濯機に放り込まないといけない。
(朝御飯はアジの開きを焼いて、あとは卵焼きと…)
献立を組み立てながら身体を起こそうとすると、いきなり視界がぐるん、と回転した。
ゆっくりと目を開ける。
そこに映る天井の柄が自分の家ではないことにも大分慣れて、もはや驚くこともなくなった。
まだ静かな朝の始まり。
本当はもうちょっと寝ていたいけれど、そろそろ目覚まし時計がけたたましく騒ぎ出す時刻だ。
うつら、としてしまう目蓋をなんとかこじ開けると、首を捻りそれを確かめる。
カチ、と機械的な音がして、長針が指定した時刻を指す。
その絶妙なタイミングで時計の頭を叩いたおかげで、音はコンマ何秒で防ぐことが出来た。
(よかった…)
自分でセットしておいて、なんだけれど。
折角だから、もう少し寝かせておいてあげたい。
自分ではなくて…隣でぐっすりと寝込んでいる、愛しい人を。
長い腕でオレの腰を抱くようにして眠っているその人は、起きているときとは違ってとても無防備だ。
いつも深く刻まれている眉間の皺が緩んで、形の良い唇が薄く開いている。
その様子につい、うっとりと見惚れてしまう。
テレビで見る芸能人よりもカッコいい、と思ってしまうのは、惚れた欲目だけではないはずだ。
その証拠に、この人と歩くだけで街中の女性の視線を集めてしまうから。
(…っと、いけない…)
いつまでもこうして居たいけれど、そろそろ動き出さないと。
回された腕をそっと解いて、ベッドから抜け出すことにする。
朝御飯とお弁当のためにセットしておいた炊飯器はもう炊けているはずだし、昨日の服が寝室の床に散乱しているから、洗濯機に放り込まないといけない。
(朝御飯はアジの開きを焼いて、あとは卵焼きと…)
献立を組み立てながら身体を起こそうとすると、いきなり視界がぐるん、と回転した。
息が止まるかと思った。
嬉しい。
嬉しくて、泣けてしまう。
そう思っているうちにみるみる先輩の顔が滲んでくる。
オレの目尻に優しくキスを落として、先輩が耳元で続ける。
「愛してる、直」
「…っ」
こんなに幸せな言葉って、あるだろうか。
オレも先輩が好きで、先輩もオレのことを、好きだと言ってくれて。
同じように言いたいのに嗚咽が出てしまいそうで、オレは先輩の手を握り返すことしか出来ない。
でもそれだけで伝わったようだ。先輩が、目をそっと細める。
ああ、こんな顔、するんだ。
いつも夜の海のように冷たかった瞳が、春の日差しのような優しさを宿して。
そしてそこに、オレを映してくれる。
愛撫は喉、鎖骨とゆっくり降りてくる。
「ひゃっ…!」
と同時に右手がシャツの下から素肌に触れて、吃驚して変な声が出てしまう。
も、もしかしなくても、これって…
「直…いいか?」
「…っ」
考えていると、先輩が確かめるように尋ねる。
短い言葉のなかにも滲む、切羽詰った声色。
理性で必死に抑えようとしているのは明白だった。
オレの迷いなど、一瞬だった。
嫌なんかじゃない。
だから、だから…
こくん、と一つ頷くと、先輩は唾を飲み込んだ。
そして、壊れ物を扱うようにそっと、長い指がシャツのボタンへと伸びる。
魅力的でもない、平凡で貧相な身体だけど。
先輩の手が触れてくれるだけで、こんなオレでもいいんだって、思えるから。
だから。
先輩に、抱いてほしい。
嬉しい。
嬉しくて、泣けてしまう。
そう思っているうちにみるみる先輩の顔が滲んでくる。
オレの目尻に優しくキスを落として、先輩が耳元で続ける。
「愛してる、直」
「…っ」
こんなに幸せな言葉って、あるだろうか。
オレも先輩が好きで、先輩もオレのことを、好きだと言ってくれて。
同じように言いたいのに嗚咽が出てしまいそうで、オレは先輩の手を握り返すことしか出来ない。
でもそれだけで伝わったようだ。先輩が、目をそっと細める。
ああ、こんな顔、するんだ。
いつも夜の海のように冷たかった瞳が、春の日差しのような優しさを宿して。
そしてそこに、オレを映してくれる。
愛撫は喉、鎖骨とゆっくり降りてくる。
「ひゃっ…!」
と同時に右手がシャツの下から素肌に触れて、吃驚して変な声が出てしまう。
も、もしかしなくても、これって…
「直…いいか?」
「…っ」
考えていると、先輩が確かめるように尋ねる。
短い言葉のなかにも滲む、切羽詰った声色。
理性で必死に抑えようとしているのは明白だった。
オレの迷いなど、一瞬だった。
嫌なんかじゃない。
だから、だから…
こくん、と一つ頷くと、先輩は唾を飲み込んだ。
そして、壊れ物を扱うようにそっと、長い指がシャツのボタンへと伸びる。
魅力的でもない、平凡で貧相な身体だけど。
先輩の手が触れてくれるだけで、こんなオレでもいいんだって、思えるから。
だから。
先輩に、抱いてほしい。