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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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僕はどきどきしながら、そっと隣の彼を見上げた。
数十センチは高い彼の、すっと通った鼻梁とシャープな輪郭が描く整ったその顔。
思わず魅入ってしまった僕に気付き、どうしたと目線で尋ねられたので慌てて口を開く。

「ごめんね、翼…手伝って貰っちゃって…」
「いいんだって、これくらい」
負担にならないように言ってくれるその言葉だけでホッとする。
翼って、こういうところがスマートなんだよね。

今日日直だった僕は、放課後に古文の先生のいる国語科準備室までクラス全員分のノートを運ばなくてはいけなかった。
けれど40冊あるそれはかなりの重さで、どうしようかと悩んでときに翼が手伝いを申し出てくれたのだ。
そのとき、隣には聖人くんもいて。
彼も同じように持ってくれようとしたんだけれど、それを翼が止めたんだ。

『お前は部活あるだろ?ここは2人で大丈夫だから、行って来いよ』
『う…ん。ごめんな、俊』
『そんな…!心配してくれて有難う、聖人くん』
ひょい、とこちらを覗き込みながら謝ってくれる聖人くんに、僕は申し訳なさと喜びがまぜこぜになった顔で笑っていた。

最初は先生をちょっと恨んだけれど、今では感謝したいくらいだ。
(現金だな、僕も)
心の中でこっそり苦笑しながら、僕は両手が塞がっているというのに随分軽い足取りで廊下を歩いていた。


階段を降りて廊下を曲がれば、すぐに目的地へと辿り着く。
もう少し距離があればいいのに、とついつい思ってしまう。

(そうすれば、もう少し2人きりでいられるのにな…)

階段を降り終わり、廊下に差し掛かる。
何か他に話題はないかと、僕は頭を懸命に悩ませた。
いつも3人で教室にいるときは、聖人くんが場を盛り上げてくれて翼がそれに突っ込んで、僕はといえば笑っていることばかりで。
こうして翼と2人きりになるということが殆ど無いから、どうしていいか分からない。


翼は何が好きなのかな。
何を言えば、喜んでくれるのかな。

考えれば考えるほど分からなくなって、上手く言葉も出てこなくて。

(こんなとき聖人くんなら、きっと困ったりなんて…しないんだろうな)


そう思うと、胸がチリ、と妬けた。

「翼は…さ」

脳内が結論をはじき出すよりも早く、口を開いていた。
「ん?」
「翼は…」

どうしよう。
これ、聞いちゃおうかな。
聞いてもいいのかな。

心臓が飛びでてしまいそうなくらいに五月蝿い。
でも、知りたいと思う気持ちの方が勝って――…僕は彼を見上げた。


「その…彼女とか、いるの?」

ずっと、聞きたかったこと。
転校して数ヶ月経ってよく分かったのが、彼がとてもモテるということ。
でもそれも当然だろう。こんなにカッコいいし頭もいいのに全然気取ってなくて、常に友人に囲まれていて。
どこからどうみても――同性の僕から見ても――まるで王子様のような、完璧な人、だから。

翼は僅かに目を見開いて、緩やかに首を振った。

「いや?いないよ」
「そうなんだ…それじゃあ、どういうひとがタイプなの?」

大きく安堵して…でもそれはおくびにも出さずに、質問を重ねる。
翼は顎に人差し指を掛けて(僕の大好きな癖だ)、少し考える仕草をした。
ややあって、ちいさく、口端を緩める。

「…考えたこと、ないな」
「そうなの?」
「…タイプとか、理想とか…そういう理屈じゃ、ないんだよな」
「え…?」

最後の方は殆ど独り言のようだった。

上手く聞き取れなくて首を傾げると、翼がハッと目を見開いた。
その視線は僕を遙かに超えて遠くを捉えていて、何事かと振り返る。


反対側の廊下の向こう…そこには、聖人くんと西園寺くんが歩いていた。
「あ、2人とも部活に行くのかな…?」

と、西園寺くんが聖人くんに何かを言いながら、頭を撫でていた。
彼も笑いながらされるがままになっている。
(西園寺くんて、あんな顔もするんだ…)
仏頂面しか見たことが無かった西園寺くんの、穏やかな微笑みに驚く。

「なに話してたんだろう。ね?翼…」

気になるよね、と言い掛けて僕はそれ以上言葉が出なかった。




ぞくりとするほどに仄暗く冷たい闇が、彼の眼差しの中にあった。

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