オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
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- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
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あいつを一目見たとき、俺と同じだと直ぐに気付いた。
「よ、巧」
後ろから声を掛けられ振り向く。
鞄を肩から掛けた堂本翼が、右手を上げていた。
「…ああ。お前はもう帰るのか?」
「ああ、今日は生徒会も特に用事ないしな。お前は部活だろ?」
大会近いんだってな、と言いながら翼が隣に並んだ。
体育館は昇降口を真っ直ぐ突っ切った奥にあるので、自然2人の向かう先は同じになる。
「どうだ、調子は?」
「いつも通りだ」
「はー流石だな」
感心したように肩を竦めてみせる。
アメリカでの暮らしが長かったという彼の仕草らしい。他の奴なら嫌味になるなと考え、それだけで役得だと思った。
「…でも、驚いたな」
「何がだ?」
「お前が日曜に来たことだよ」
不意に漏れた言葉に、思わず足を止める。
咄嗟に反応ができなかったらしく、数歩分先を歩いた翼が振り返った。
しかし顔には大して驚いたところも見えない。
俺の些細な心の波紋すら恐らく読んでいたのだろう。
(…まあ、そうだろうな)
そうでなければ、わざわざ切り出さない筈だ。
「お前がたこ焼きなんて、食うんだな」
「別に嫌いじゃないからな」
「ふうん?」
どこか探るような声色に僅かに苛立つ。
「…お前の方こそ気前がいいな。聖人に奢ってやるなんて」
静かに彼の名前を紡ぐ。
その単語に、翼に眉が動いたのを俺は見逃さなかった。
そして瞳に宿る、万年氷のような冷たいひかり。
「よ、巧」
後ろから声を掛けられ振り向く。
鞄を肩から掛けた堂本翼が、右手を上げていた。
「…ああ。お前はもう帰るのか?」
「ああ、今日は生徒会も特に用事ないしな。お前は部活だろ?」
大会近いんだってな、と言いながら翼が隣に並んだ。
体育館は昇降口を真っ直ぐ突っ切った奥にあるので、自然2人の向かう先は同じになる。
「どうだ、調子は?」
「いつも通りだ」
「はー流石だな」
感心したように肩を竦めてみせる。
アメリカでの暮らしが長かったという彼の仕草らしい。他の奴なら嫌味になるなと考え、それだけで役得だと思った。
「…でも、驚いたな」
「何がだ?」
「お前が日曜に来たことだよ」
不意に漏れた言葉に、思わず足を止める。
咄嗟に反応ができなかったらしく、数歩分先を歩いた翼が振り返った。
しかし顔には大して驚いたところも見えない。
俺の些細な心の波紋すら恐らく読んでいたのだろう。
(…まあ、そうだろうな)
そうでなければ、わざわざ切り出さない筈だ。
「お前がたこ焼きなんて、食うんだな」
「別に嫌いじゃないからな」
「ふうん?」
どこか探るような声色に僅かに苛立つ。
「…お前の方こそ気前がいいな。聖人に奢ってやるなんて」
静かに彼の名前を紡ぐ。
その単語に、翼に眉が動いたのを俺は見逃さなかった。
そして瞳に宿る、万年氷のような冷たいひかり。
「しょうがねえだろ、アイツとの約束だったんだからな。…悪いな、2人にも奢るほどの金はなくてさ」
2人というのは、俺と城ヶ崎のことを言うのだろう。
わざと論点をずらして、悪いとも思っていない顔で謝罪する翼に、小さく溜息を吐く。
「…奢ってくれとは頼んでいない」
「はは、そっか」
からりと急に空気が変わる。
笑い飛ばして靴箱に手を掛け、革靴を取り出す。
次にこちらへ振り返るその顔は、もういつもの生徒会長だった。
「じゃあな、巧」
「……ああ」
翼と別れ更衣室で着替えているときも、俺は先ほどの顔が頭から離れなかった。
分かってる。あれが、あいつの本当の顔だ。
翼は処世術の上手い人間だ。
帰国子女で成績優秀、そして顔も整っている。
それだけ条件が揃えば周囲から好意や期待を集めることは必然で、本人もそれをよく自覚している。
だから、”演じている”。望まれる、自分を。
だが、しかし。本来のあいつは――
「…あ」
シャツを脱ごうとしたところで、制汗剤のスプレーを教室に忘れてきたことに気付く。
体育のあとに使用し、そのままだった。
部活後の汗を掻いた状態で取りに行くのも面倒だし、今から行けば部活には十分間に合う。
仕方ないと溜息を吐きながら、俺はまたシャツのボタンを締め直した。
(…気のせい、なのか)
俺は隣を歩く聖人を見下ろしながら、そう考えていた。
目的のものを見つけたあと、俺は違うクラスへと向かった。
体育館を出る前、隣のコートではすでにバスケ部が活動を始めようとしていたが、そこにあいつの姿が見えなかったからだ。
教室の机に突っ伏していたコイツは寝ていたんだと言っていたが、一瞬見せた瞳は潤んでいた。
「こらあ、進藤!遅刻だぞ!」
「すんません!!」
体育館に入るなり顧問に怒鳴られ、聖人は大慌てでバスケ部の更衣室へと向かう。
と、俺に振り返り、笑顔で手を振った。
「巧、ほんとありがと!お互い頑張ろうな~!」
「ああ…」
なにか悩んでいるのか?
アイツのことじゃ、ないよな。
そう聞きたかったが、声は口の中だけで消えた。
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