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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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息が止まるかと思った。

嬉しい。
嬉しくて、泣けてしまう。
そう思っているうちにみるみる先輩の顔が滲んでくる。

オレの目尻に優しくキスを落として、先輩が耳元で続ける。

「愛してる、直」
「…っ」

こんなに幸せな言葉って、あるだろうか。
オレも先輩が好きで、先輩もオレのことを、好きだと言ってくれて。

同じように言いたいのに嗚咽が出てしまいそうで、オレは先輩の手を握り返すことしか出来ない。
でもそれだけで伝わったようだ。先輩が、目をそっと細める。

ああ、こんな顔、するんだ。
いつも夜の海のように冷たかった瞳が、春の日差しのような優しさを宿して。
そしてそこに、オレを映してくれる。


愛撫は喉、鎖骨とゆっくり降りてくる。
「ひゃっ…!」
と同時に右手がシャツの下から素肌に触れて、吃驚して変な声が出てしまう。
も、もしかしなくても、これって…

「直…いいか?」
「…っ」

考えていると、先輩が確かめるように尋ねる。
短い言葉のなかにも滲む、切羽詰った声色。
理性で必死に抑えようとしているのは明白だった。

オレの迷いなど、一瞬だった。

嫌なんかじゃない。
だから、だから…


こくん、と一つ頷くと、先輩は唾を飲み込んだ。
そして、壊れ物を扱うようにそっと、長い指がシャツのボタンへと伸びる。

魅力的でもない、平凡で貧相な身体だけど。
先輩の手が触れてくれるだけで、こんなオレでもいいんだって、思えるから。


だから。
先輩に、抱いてほしい。

覚悟を決めて、ぎゅっと目を瞑る。

…と、なにやら、ドアの向こうから数人の話し声のようなものが聞こえてきた。

『ちょ、お前ら…っ!押すなって…っ』
『だって見えないんスよ!』
(…ん…?)

ひそひそと小さな声だが、却ってよく拾ってしまうもので。
なにやら前園先輩と他の人達が何か言っているらしい…けど、何が見えないんだろう。
なんてことを、オレは熱情に揉まれながらぼんやりと頭の端っこで考えていた…そのときだ。

突然雪崩のように人が飛び込んできた、のは。

「……」
「……」

どさどさっと人がVIPルームに転がり込んで、それから不気味なくらい沈黙が続いた。
脳が理解するのが遅いからか、ただ何を言っていいか判らないからか…
それを破ったのは、やっと思考回路が繋がったオレだった。

「ま、前園先輩…っ!?」
一緒に居るのは当たり前だけど同じチームの人達で…まあ要するに、覗かれていたということ、だった。
カッと耳まで羞恥に染まったのがよく判って、慌ててシャツの前を握り締めたけど遅いだろう。
あの会話の様子だと、ナニをしようとしていたかはばっちり見られていただろうから。

(は、恥ずかしすぎる…!!)
穴があったら入りたい。そのまま住んでしまいたい。

あわあわとそれきり言葉が出ないオレに、へらりとした笑いを貼り付けて前園先輩が頭を掻く。
「い、いやあ…オレ達も直クンの様子が気になったっつーかなんつーか…ねえ?」
いや、ねえ?と疑問符をつけられても。
それよりオレは…先ほどから微塵も動かない篤也先輩の様子のほうが気がかりだ。

「ほーんの出来心だからさー…許して篤也」
てへ。
そんな感じでかるーく放たれた謝罪の台詞に、先輩のこめかみがひくついたのが…よく見えた。

「…それで…」
先輩がゆらりと立ち上がる。
先ほどの険相とは又違った種類の…けれどもとても恐ろしい、オーラを纏っている。
それに気づいたその他のチームの皆さんは、小さく悲鳴をあげた。

「オレが許すと思ってんのか、ああ!?」

「わああ!総長がキレた!」
「捕まったら殺されんぞ!!」
「ひいいい、逃げろーっ!!」
大噴火を合図に、蜘蛛の子を散らしたかのように一斉に逃げていく。
先輩がそれを物凄い勢いで追いかけていき、VIPルームには動けないオレ一人が残された。

「ちょ、優士、真!助けろって!!」
「嫌だね」
「嫌です」
逃げ回りながら前園先輩は傍観者2人に助けを求めるが、呆れと軽蔑の眼差しを向けられるだけだった。

(……な、なんか…力抜けた…)
オレはへなへなと座り込みながら、震える指でボタンを締めなおす。
熱はすっかり収まってしまったけれど、動悸は煩いままだ。
(…ちょっと…残念だったりして…)
そう確かに思ってしまうのも事実で、胸の位置でぎゅうと制服を握りしめた。

「ちょっとなんで、オレだけ!」
「うるせえ!お前が首謀者だろうが!!」
先輩の標的はいつの間にか前園先輩一人に絞られていた。
が、逃亡者は小回りよく立ち回り、バーの出入り口から外に飛び出してしまう。
「テメエ…!」
「ごめんって言ったじゃーん!篤也のケチー!」
「言ってねえだろうが!!」
あ、確かに…
先輩の的確なツッコミも虚しく、前園先輩は逃げるが勝ちと夜の街に紛れてしまったようだ。
軽く肩で息をしながら戻ってきた先輩は、マジで許さねえ…と尚も悔しそうだ。

「先輩…」
「直…悪い」
やっと起き上がれたオレが近付くと、怒りから180度、申し訳なさそうに柳眉が下がる。
それがまた愛しくて、オレは思い切り先輩に抱きついた。
「直?」

(…なんて、焦らなくてもいいんだよ、ね)


先輩のコロンの匂いを胸一杯に吸い込んでから、顔を上げた。
オレを覗き込む、愛しいひとがそこにいた。


「篤也先輩…オレ…先輩が大好きですっ」

突然のオレの告白に、先輩が大きく目を見開く。
そしてそれから――嬉しそうに、満面の笑みを浮かべてくれた。


そう、焦らなくてもいいんだ。
だって、オレ達の時間はこれから沢山、あるのだから。





…ちなみに、後日前園先輩の頭には沢山タンコブが出来たそうです…。


FIN


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
不良×平凡シリーズ第一弾「山田君の災難。」はこれにて終了です。
お付き合いくださり有難う御座いました!!
そして篤直カップルの今後はこれからも続きますので、よろしくお願いします!
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