- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
- 10/09 【お知らせ】コメント欄について。
- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
This is new entry
叫んだのはユキさんだ。
「なんでそこまでして、そのチビを守る訳!?そいつなんて唯のホモでしょ!?」
怒りと戸惑いで青くなった彼女は、長く伸びたネイルで痛そうなくらい拳を強く握っていた。
「ユキの方がずっと、篤也を満足」
「黙れ」
篤也先輩は言い募ろうとする彼女を一言で制した。
先程リーダーの男へ向けたときと同じ、凍てついた眼差しで射抜く。
「これ以上直を傷つけるつもりなら――例え女でも許さねえ」
「あ…篤…」
「…前にも、そう警告した筈だ」
「っ…それは…」
あまりの剣幕に、ユキさんが息を呑む。
そこに自分の言葉が入る一分の隙間も無いことを悟ったのだろう、じり、と後退する。
「何よ、意味わかんない、もういい…っ!!」
ユキさんは目に一杯涙を溜めて叫び、逃げ出していった。
「あ、逃げたー」
「…放っとけ…あれだけ言えばもう馬鹿な真似しねぇだろ」
吐き捨てるように先輩がそう言うと、今度はこちらに顔を向けた。
「…それより…」
その瞳はもう先程の剣呑さはなく、酷く傷ついた色をしている。
「…あ、先ぱ…」
カツカツと近付いてくる先輩に口を開きかけるが、何と声を掛けていいか判らない。
そんなオレを、先輩は覆い被さるように強く、抱きしめてくれた。
そしてとても辛そうに、掠れた声で呟いた。
「――…悪りィ…」
(あ…)
暖かい腕の中で、少なからず混乱していたオレも落ち着いてくる。
大きな手で頭を撫でながら、先輩が続ける。
「オレのせいでお前をこんな目に遭わせちまって……本当に悪かった…」
(先輩…)
篤也先輩が謝ることじゃない。
それなのに、全て自分の罪過のように受け止める言葉が辛くて…オレは何度も首を振った。
「篤也先輩、血が…」
「ああ…大丈夫だ、オレのじゃない」
こともなげに親指で拭い取る。
見たところ先輩はどこも怪我をしている様子もなくて、ホッと胸を撫で下ろした。
と、同時に申し訳なさが胸にせりあがる。
「――オレも…大丈夫ですよ」
ぎゅ、とズボンを強く握り締める。
「それより…先輩に迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい…」
男なのに簡単に攫われて、護られてばかりで…自分自身がとても情けなかった。
「直、それは…」
焦ったような先輩の声。
判っている。こんなことを言っても困らせるだけだ。
だけど、どうしても言わなくては気が済まなかった。
だって、これから放つそれはもっともっと、我侭なものだから。
「…それでも…」
ゆっくりと、顔を上げる。
大きな手がオレの腕を支え、不安げに見遣る瞳がオレだけを映している。
ああ、やっぱり。
この気持ちは、一時の気の迷いなんかじゃない。
「…それでも…先輩の傍に、居たいんです……」
確信を持てたことが嬉しくて、それでも言の葉にするのには少し恐くて…語尾が揺れた。
「…オレ…篤也先輩が、好きです」
先輩の目が大きく見開かれる。
それをじっと見つめながら、乾いた喉を動かした。
「…こんなオレでも恋人でいて…いい…ですか?」
形から始まった恋人関係だった。
けれどそこに意味が宿る。気持ちが篭る。
オレもこのひとが好きなんだって。そう、向き合って言えるから。
時間が融かすように、先輩がゆっくりと瞬きをする。
その瞳があまりにもオレを愛しそうに見つめるから、胸がじわりと熱くなった。
「…ああ……」
先輩の手が伸びる。
頭を引き寄せられて、もう一度ぎゅっと抱きしめられる。
鼻腔を擽るシトラスに、そっと目を閉じた。
他の人には、不釣合いと言われるかもしれない。
でもオレは―――
「当たり前、だろ……」
このひとが、すきなんだ。