オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
- 10/09 【お知らせ】コメント欄について。
- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
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転入することへの不安は、初日にすぐ消えた。
朝から痴漢に遭うなんて最悪な始まりだったけれど…それも出会うためだったのならよかったと思ってしまうくらい。
それほどに――このひとに、心の全部を持っていかれたんだ。
「あーっ!もう憂鬱すぎて泣けてくる…」
廊下の向こう側から相変わらず元気の良い声が飛んできて、僕は動かしていた手を止めた。
そして、その次に聞こえるであろう心地よいテノールに、全神経を傾ける。
「全く…だから予習しろって言っただろ?」
呆れたように肩を竦ませてみせる仕草まで目に浮かぶようで、くすりと笑ってしまう。
しかしそう言われた彼は実際に目撃しているからこそ腹が立つのだろう、すぐに噛み付く。
「あーはいはい!もうその話は蒸し返すなよっ!この鬼!」
「だーれーが鬼だってー…?」
「あだだだっ…っごめんなさい!許して翼様!!」
恐らくまたプロレス技でも掛けられているのだろう。
まるでコントのような掛け合いに最初こそ驚いたものだが、今ではすっかりこのクラスの名物といっていいくらいだ。
「あーいてー…この、暴力生徒会長…」
「なんか言ったかな、聖人くん?」
「イエ、ナンデモナイデス」
「…本当調子がいいな、お前は…」
溜息混じりの声とともに、ドアへ手が掛けたのが影で見えた。
来る、と分かっていても鼓動が早まる。
長い足を持て余すかのように窮屈そうに扉をくぐった彼が、教室内を一瞥した。
と、僕に気づき、目を見開く。
「俊、お前もまだ残ってたのか?」
「う、うん。明日の英語のテストの勉強しておこうかなって…」
「うわっ!俊ってば超偉い!」
続いて翼の肩からこちらを覗き込んだのは、頭を擦っている聖人くんだ。
(今日は頭を叩かれたんだね、聖人くん…)
若干気の毒に思いながら、彼の言葉に頷いた。
「そんなことないよ。家に帰ると、どうしても遊んじゃったりするから」
「いや、十分偉いだろ。コイツなんて、家にいてもいなくてもやらないからな」
「ちょっと!そこまで酷くねえっての!」
続けざまに責められて、流石の聖人くんも怒る。
しかし大した効果はないらしく、肩を竦められるだけだ。
「どうだか…中学のときからお前が一人で宿題やってきたことなんて、殆ど記憶ないんだけど」
「それはお前がただ単に忘れてるだけじゃねえの…」
「ふーん、そんなこと言うのか…折角お前に今度の範囲教えてあげようと思ったけど、いいんだな」
悔しさのあまり小さく呟く聖人くん。
しかしそれをことごとく拾ってしまう翼の耳は、もしかしたら地獄のそれかもしれない。
朝から痴漢に遭うなんて最悪な始まりだったけれど…それも出会うためだったのならよかったと思ってしまうくらい。
それほどに――このひとに、心の全部を持っていかれたんだ。
「あーっ!もう憂鬱すぎて泣けてくる…」
廊下の向こう側から相変わらず元気の良い声が飛んできて、僕は動かしていた手を止めた。
そして、その次に聞こえるであろう心地よいテノールに、全神経を傾ける。
「全く…だから予習しろって言っただろ?」
呆れたように肩を竦ませてみせる仕草まで目に浮かぶようで、くすりと笑ってしまう。
しかしそう言われた彼は実際に目撃しているからこそ腹が立つのだろう、すぐに噛み付く。
「あーはいはい!もうその話は蒸し返すなよっ!この鬼!」
「だーれーが鬼だってー…?」
「あだだだっ…っごめんなさい!許して翼様!!」
恐らくまたプロレス技でも掛けられているのだろう。
まるでコントのような掛け合いに最初こそ驚いたものだが、今ではすっかりこのクラスの名物といっていいくらいだ。
「あーいてー…この、暴力生徒会長…」
「なんか言ったかな、聖人くん?」
「イエ、ナンデモナイデス」
「…本当調子がいいな、お前は…」
溜息混じりの声とともに、ドアへ手が掛けたのが影で見えた。
来る、と分かっていても鼓動が早まる。
長い足を持て余すかのように窮屈そうに扉をくぐった彼が、教室内を一瞥した。
と、僕に気づき、目を見開く。
「俊、お前もまだ残ってたのか?」
「う、うん。明日の英語のテストの勉強しておこうかなって…」
「うわっ!俊ってば超偉い!」
続いて翼の肩からこちらを覗き込んだのは、頭を擦っている聖人くんだ。
(今日は頭を叩かれたんだね、聖人くん…)
若干気の毒に思いながら、彼の言葉に頷いた。
「そんなことないよ。家に帰ると、どうしても遊んじゃったりするから」
「いや、十分偉いだろ。コイツなんて、家にいてもいなくてもやらないからな」
「ちょっと!そこまで酷くねえっての!」
続けざまに責められて、流石の聖人くんも怒る。
しかし大した効果はないらしく、肩を竦められるだけだ。
「どうだか…中学のときからお前が一人で宿題やってきたことなんて、殆ど記憶ないんだけど」
「それはお前がただ単に忘れてるだけじゃねえの…」
「ふーん、そんなこと言うのか…折角お前に今度の範囲教えてあげようと思ったけど、いいんだな」
悔しさのあまり小さく呟く聖人くん。
しかしそれをことごとく拾ってしまう翼の耳は、もしかしたら地獄のそれかもしれない。
「うわああごめんなさい翼様!大好き!お願いします!!」
「…ったく…」
一気に真っ青になった聖人くんが、がばりと抱きつく。
ぶんぶんと両肩を振られた翼は、またしても呆れた溜息を落とす。
けれど次にはすぐ優しい笑みに変わって、その頭を小突いた。
「お前はやれば出来るんだからさ、次はちゃんと頑張れよ?」
「お、おう…頑張る…」
「70点以上取ったらなんか奢ってやるからさ」
「マジで!!じゃあ絶対頑張る!」
「…現金な奴」
落ち込んだり怒ったり、元気になったり。
くるくる変わる表情は見ていて飽きないなあ、なんて、言ったら聖人くんに失礼だろうか。
(尻尾があったらぶんぶん振れてるよね…)
思わず想像してしまって笑みを溢すと、翼がふと笑いを引っ込めて、僕を見た。
「ああ、ごめんな、勉強の邪魔して。オレ達もう帰るから」
「あ…っ!あの、よかったら2人も一緒に勉強しない?」
いっちゃう、そう思ったら咄嗟に声を掛けていた。
2人が…翼が残っていることを知っていたから、僕も教室で自習していたんだ。
(なんてことは、言えないけれど)
僕の提案に彼が些か驚く。
「いいのか?」
「うん、僕こそ翼に色々分からないところ聞きたいし…」
「そっか…じゃ、そうするか?」
「オレは大賛成!可愛い俊と一緒に勉強出来たら成績上がりそうだし!」
聖人くんからも賛同を得られて安堵する。
(よかった…)
もう少し一緒に居られるんだ。
まるで女の子みたいだと思いつつも、そう思うだけで嬉しくて堪らなかった。
「さってと…どこからやるかな…」
近くの席から椅子を引っ張ってきて、彼らが僕の席の周りに集まる。
鞄を探りながら眼鏡を取り出した翼に、思わず視線が向いてしまう。
勉強するときだけ掛けるそれはとても似合っていて、これを見る為に授業中ちらちらと彼を見ている生徒も少なくない。
僕は彼よりも後ろの席だからなかなかそれは叶わないのだけれど…今此処で見られてラッキーだ。
「あ、お前眼鏡変えた?」
「ああ…この前までの度が合わなくなってきてさ」
聖人くんは当たり前のようにそれを眺めると、僕の気づかない指摘をする。
(そうなんだ…)
「ふーん…それってあそこの店で買ったやつ?」
「そうそう…駅前のな」
2人はそれだけで会話が成立してしまう。
それを羨ましく思いながら、それだからこそ知れる彼の新しい一面を心に留めておくことにした。
「…ったく…」
一気に真っ青になった聖人くんが、がばりと抱きつく。
ぶんぶんと両肩を振られた翼は、またしても呆れた溜息を落とす。
けれど次にはすぐ優しい笑みに変わって、その頭を小突いた。
「お前はやれば出来るんだからさ、次はちゃんと頑張れよ?」
「お、おう…頑張る…」
「70点以上取ったらなんか奢ってやるからさ」
「マジで!!じゃあ絶対頑張る!」
「…現金な奴」
落ち込んだり怒ったり、元気になったり。
くるくる変わる表情は見ていて飽きないなあ、なんて、言ったら聖人くんに失礼だろうか。
(尻尾があったらぶんぶん振れてるよね…)
思わず想像してしまって笑みを溢すと、翼がふと笑いを引っ込めて、僕を見た。
「ああ、ごめんな、勉強の邪魔して。オレ達もう帰るから」
「あ…っ!あの、よかったら2人も一緒に勉強しない?」
いっちゃう、そう思ったら咄嗟に声を掛けていた。
2人が…翼が残っていることを知っていたから、僕も教室で自習していたんだ。
(なんてことは、言えないけれど)
僕の提案に彼が些か驚く。
「いいのか?」
「うん、僕こそ翼に色々分からないところ聞きたいし…」
「そっか…じゃ、そうするか?」
「オレは大賛成!可愛い俊と一緒に勉強出来たら成績上がりそうだし!」
聖人くんからも賛同を得られて安堵する。
(よかった…)
もう少し一緒に居られるんだ。
まるで女の子みたいだと思いつつも、そう思うだけで嬉しくて堪らなかった。
「さってと…どこからやるかな…」
近くの席から椅子を引っ張ってきて、彼らが僕の席の周りに集まる。
鞄を探りながら眼鏡を取り出した翼に、思わず視線が向いてしまう。
勉強するときだけ掛けるそれはとても似合っていて、これを見る為に授業中ちらちらと彼を見ている生徒も少なくない。
僕は彼よりも後ろの席だからなかなかそれは叶わないのだけれど…今此処で見られてラッキーだ。
「あ、お前眼鏡変えた?」
「ああ…この前までの度が合わなくなってきてさ」
聖人くんは当たり前のようにそれを眺めると、僕の気づかない指摘をする。
(そうなんだ…)
「ふーん…それってあそこの店で買ったやつ?」
「そうそう…駅前のな」
2人はそれだけで会話が成立してしまう。
それを羨ましく思いながら、それだからこそ知れる彼の新しい一面を心に留めておくことにした。
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