オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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ひたすら黙って歩き続けたオレの一メートルほど前で、呆れたように溜息が落ちる。
「…なんで、落ち込んでんだよ」
露骨に態度に出てしまっていたのだろう、先輩は僅かに苛立っているようだ。
勿論恐いし、そんなことないですよと誤魔化してしまえばいいのだけれど…どうにも胸に重い石のようなものが乗っかったまますっきりしない。
逡巡のあと、勇気を振り絞ってオレはそれをぶつけることにした。
「…あの、さっきの女の人って…」
「あ?ああ…覚えてねえ。何回かヤッたのかも知んねえけど、女の顔なんて見ねえし」
先輩はそこで一度区切ると、小首を傾げた。
「それが、何」
「…な、何って…」
なんて、さらっと言うのだろう。
先輩にとっては、本当にどうでもいいことなんだ。
あの女の人の目を見れば、第三者のオレだって分かるのに…
「…そういうの、良くないと思います」
気がついたら、オレは本心を口にしていた。
はっと遅れてそれに気付き、急いで手を振る。
「あ、あの、ごめんなさい。オレなんかが差し出がましく…」
「…もう、しねえよ」
え?
ハッとして顔を上げると、真摯な瞳とかち合った。
「他の奴なんてどうでもいい。――…お前がいれば、何もいらねえ」
オレは今度こそ、言葉にならなかった。
一点の曇りも無く、迷いも無く、なんでそんなことを、言うのだろう。
頬が、かあっと熱くなった。
「…ほら、帰んぞ」
「わっ…」
そんなオレに微笑った先輩が、右手を掴んで歩き出す。
先程よりも距離が縮まった2人の間。
繋がれた手を振り解くこともできずに、オレはぼんやりと大きな背中を見遣った。
(…嘉堵川先輩は……)
嘉堵川先輩は、どうしてそこまでオレのことを想ってくれるのだろう?
こんな平凡だし、いいところなんてひとつもないのに…
考えたところで答えなんて出る筈もなくて、包まれた手はいつまでも熱を帯びていた。
「…なんで、落ち込んでんだよ」
露骨に態度に出てしまっていたのだろう、先輩は僅かに苛立っているようだ。
勿論恐いし、そんなことないですよと誤魔化してしまえばいいのだけれど…どうにも胸に重い石のようなものが乗っかったまますっきりしない。
逡巡のあと、勇気を振り絞ってオレはそれをぶつけることにした。
「…あの、さっきの女の人って…」
「あ?ああ…覚えてねえ。何回かヤッたのかも知んねえけど、女の顔なんて見ねえし」
先輩はそこで一度区切ると、小首を傾げた。
「それが、何」
「…な、何って…」
なんて、さらっと言うのだろう。
先輩にとっては、本当にどうでもいいことなんだ。
あの女の人の目を見れば、第三者のオレだって分かるのに…
「…そういうの、良くないと思います」
気がついたら、オレは本心を口にしていた。
はっと遅れてそれに気付き、急いで手を振る。
「あ、あの、ごめんなさい。オレなんかが差し出がましく…」
「…もう、しねえよ」
え?
ハッとして顔を上げると、真摯な瞳とかち合った。
「他の奴なんてどうでもいい。――…お前がいれば、何もいらねえ」
オレは今度こそ、言葉にならなかった。
一点の曇りも無く、迷いも無く、なんでそんなことを、言うのだろう。
頬が、かあっと熱くなった。
「…ほら、帰んぞ」
「わっ…」
そんなオレに微笑った先輩が、右手を掴んで歩き出す。
先程よりも距離が縮まった2人の間。
繋がれた手を振り解くこともできずに、オレはぼんやりと大きな背中を見遣った。
(…嘉堵川先輩は……)
嘉堵川先輩は、どうしてそこまでオレのことを想ってくれるのだろう?
こんな平凡だし、いいところなんてひとつもないのに…
考えたところで答えなんて出る筈もなくて、包まれた手はいつまでも熱を帯びていた。
オレは携帯を持ったまま硬直していた。
ディスプレイには、別れ際にアドレスを交換した人からの早速のメール。
『明日、朝迎えに行く』
タイトルもなければ、必要最低限のことしか書いていない文章。絵文字なんてもってのほかだ。
「か、嘉堵川先輩とメアド交換までしちゃったよ…!」
この事実が信じられずに、つい何度も確認してしまう。
「しかも明日朝一で会うなんて…心臓持つかな…」
はあ、と溜息を吐いて、ベッドに寝転がる。
(ドキドキするのは…)
シーツに顔を押し付けて思い出すのは、端正なあの顔。
(…っ、こ、恐いから…だよな、うん)
跳ねた鼓動の意味を推し量ろうとして、オレは急いでそう言い聞かせた。
それに、先輩を見たら男だってカッコいいと思ってしまうのは仕方ない。
芸能人だといっても通用するくらいに整っていて、嫉妬するのも馬鹿馬鹿しくなるくらいなのだから。
「……そんな先輩と付き合うことになったオレって…一体…」
なんて濃い一日だったのだろうか。
振り返ってみるとあまりに非現実的で、なんだか少し笑えてくる。
ついでに頬を抓ってみたけれど、痛いしメールの受信記録も変わらなかった。
「にゃあ?」
「あ、モモ」
飼い主の奇行が気になったのだろうか、赤い首輪をつけた黒猫が擦り寄ってきた。
「お前すっかり怪我も治ったなー!よかった、見つけたときはどうしようかと思ったよ~」
この猫を飼うことになったきっかけは、かれこれ一ヶ月前だろうか。
裏路地で怪我をしているところを見かけて、急いで連れ帰ったのだ。
一時はかなり危ないところだったけれど、寝ずに看病した甲斐もあって今では後遺症もなく元気に歩き回っている。
よしよし、と頭を撫でてやると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「…そういえば…」
『知ってる』
先輩が言った言葉がリフレインする。
あれは一体どういう意味だったのだろう?
オレは先輩に会ったのは、今日が初めてなのだけれど…
「直ーご飯よー」
「あ、はーい!」
(…ま、いっか)
階下から母親の声が聞こえて、空腹に意識が奪われたオレはそこで考えることを放棄した。
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