オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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- 10/13 初夏の嵐(5)
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- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
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これ以上、翼の人生にとってお荷物になりたくなかった。
だから依存しないと決めたのは、離れようと決めたのは――二人にとって最良の選択だった。
それなのに、心は軋むような痛みを訴え続ける。
たったひとりの傍にいないだけで、ぽっかりと大きな穴が空いたような喪失感。
それだけ自分が寄り掛かりすぎていたのだと言われているようで、同時に苦しくもあるのだけれど。
(…オレって最低だな)
巧は、こんなオレを受け入れてくれると言った。
返事すらまともにしていないというのに、彼は手を差し伸べてくれている。
いつまでもこのままでいい訳はない。
けれど、オレはずるずると曖昧なままでやり過ごしている。
簡単なことだ。
巧の手を取ればいい。
同じような気持ちを抱けるかはまだ判らないけれど――彼の傍にいれば、これ以上傷つくことはない。
(…本当、最低だ…)
まるで逃げ道のように考えている自分に嫌気が差して、朝を迎えたベッドの中で酷く暗鬱とした気分になった。
静かな廊下を、怪我した左足を庇いながら歩く。
体育館で午後練を見ていたオレだが、今日は病院に顔を出さないといけないことを思い出した。
さっさと行けとシバっちに追い出され渋々と下駄箱まで行ったはいいが、財布に入れたはずの診察券が見つからなかった。
となると考えられるのは昼飯のときに財布を出した机の中だろう。
オレは仕方なく、教室まで戻る羽目になった。
しかし、怪我をしてみて通常の生活がどんなに楽だったかと思い知る。
体育館から教室までがこんなに遠かったなんて。
オレは休憩を挟みつつ、いつもなら数段飛ばしの階段をゆっくりと上っていた。
結局、今日も一日翼とまともに話すこともないまま終わった。
怪我を理由に隣に居ればまた甘えてしまいそうで、近くにいないように心がけていた。
翼もオレがいないことで余計な気を回さなくて済むのだろう。
俊に向けて微笑んでいる顔が穏やかで、オレといるときとは大違いだった。
(…これで、いいんだよな)
あの二人の姿を見ると、どうしてもモヤモヤした気分になる。
友人に嫉妬するなんてやっぱり面倒くさい奴だなと自己嫌悪は酷くなるばかりで、なるべく視界に入れないようにしていた。
でも、それでも気持ちは落ち込む一方だ。
だから依存しないと決めたのは、離れようと決めたのは――二人にとって最良の選択だった。
それなのに、心は軋むような痛みを訴え続ける。
たったひとりの傍にいないだけで、ぽっかりと大きな穴が空いたような喪失感。
それだけ自分が寄り掛かりすぎていたのだと言われているようで、同時に苦しくもあるのだけれど。
(…オレって最低だな)
巧は、こんなオレを受け入れてくれると言った。
返事すらまともにしていないというのに、彼は手を差し伸べてくれている。
いつまでもこのままでいい訳はない。
けれど、オレはずるずると曖昧なままでやり過ごしている。
簡単なことだ。
巧の手を取ればいい。
同じような気持ちを抱けるかはまだ判らないけれど――彼の傍にいれば、これ以上傷つくことはない。
(…本当、最低だ…)
まるで逃げ道のように考えている自分に嫌気が差して、朝を迎えたベッドの中で酷く暗鬱とした気分になった。
静かな廊下を、怪我した左足を庇いながら歩く。
体育館で午後練を見ていたオレだが、今日は病院に顔を出さないといけないことを思い出した。
さっさと行けとシバっちに追い出され渋々と下駄箱まで行ったはいいが、財布に入れたはずの診察券が見つからなかった。
となると考えられるのは昼飯のときに財布を出した机の中だろう。
オレは仕方なく、教室まで戻る羽目になった。
しかし、怪我をしてみて通常の生活がどんなに楽だったかと思い知る。
体育館から教室までがこんなに遠かったなんて。
オレは休憩を挟みつつ、いつもなら数段飛ばしの階段をゆっくりと上っていた。
結局、今日も一日翼とまともに話すこともないまま終わった。
怪我を理由に隣に居ればまた甘えてしまいそうで、近くにいないように心がけていた。
翼もオレがいないことで余計な気を回さなくて済むのだろう。
俊に向けて微笑んでいる顔が穏やかで、オレといるときとは大違いだった。
(…これで、いいんだよな)
あの二人の姿を見ると、どうしてもモヤモヤした気分になる。
友人に嫉妬するなんてやっぱり面倒くさい奴だなと自己嫌悪は酷くなるばかりで、なるべく視界に入れないようにしていた。
でも、それでも気持ちは落ち込む一方だ。
金属バットが球を弾く。ホイッスルが長く伸びる。
皆が熱心に部活動に勤しむ声が、夕陽が差す廊下に聞こえる。
それに対して、オレはただ突っ立っていることしかできない。
なんにもできない己が、滑稽に思えてならなかった。
独りぼっちだ。
まるで中学生のときに戻ってしまったようだ。
翼がいないだけで、世界はモノクロになる。
「…翼…」
なんでオレ、こんなに女々しいんだ。
他にも友達は沢山いる。巧だっている。
それなのに、なんで。どうして。
名前を呟いただけで、込み上げてくる何かに蓋をするように、オレは唇を噛み締めると振り切るように先を急いだ。
教室に手をかけたところで、話し声が聞こえた。
まだ誰かが残っているのか。
5月のある日、翼と俊が二人で残っていたことがあった。
そのときの痛みを思い出して、ドアへと伸びた手が止まる。
(馬鹿だな…あいつらならもうとっくに帰ってるっての)
小さく笑って、オレは呼吸を整えた。
他の奴らに決まってるじゃないか。
翼がオレを待っていてくれるなんてことは――もうないんだから。
「よおーなんだ残ってんのオレだけじゃなかった…」
そっとドアを開けるのも気まずいので、大きな声を出しながら入ることにした。
笑顔を貼り付けたまま一歩踏み出して…オレはそのまま奈落に落ちたのかと錯覚した。
そこに、翼と俊が居た。
オレンジ色の教室で俊は背中を向けていた。
そして翼は其処に屈むようにして――キス、していた。
「………」
人間、本当に驚きすぎると言葉なんて出ないのだ。
ただ、力が抜けて、肩から鞄がずり落ちる。
どさ、という音に、二人が振り返る。
「聖人…」
ハッとこちらを振り返る翼の顔が影になってよく見えない。
けれどそれで良かったのかもしれない。
まともに見てしまったら、きっとオレは。
「ご、めん…二人がそんな関係だったなんて、オレ、知らなくて」
「は…?」
「あ、オレお邪魔だよな。ごめん、すぐ帰るから」
「何言ってるんだ、お前」
何って。
こんなにはっきりと目撃してしまったのに、惚けようというのか。
(今まで黙っていたのも、オレなんかには言う必要もなかったからってことか?)
じわじわと感情が後から追いついてきた。
動揺と憤りと――激しい、絶望感。
「ふざ…けんな!いいよそういうの、お前ら付きあってんだろ!?」
「は…」
翼が息を呑んだ。
バレたって今頃解ったのか。もう遅いんだ。
「やっぱりお前から離れることにして正解だったんだな…オレなんかがいちゃ、俊といちゃつけないもんな」
「おい聖人」
「…ごめんな」
それが限界だった。
にっこりと笑ってみたつもりだったのに、頬が濡れていた。
鞄も診察券もなにもかも置いて、オレは走り出した。
足がずきずきと痛かったけれど、それすら忘れて駆けていた。
馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ。
なんでこんなことになるまで、気付かなかったんだ。
(友達なんかじゃ、なかった……)
ああ、自分が本当に馬鹿で最低で、心底嫌になる。
翼のことが好きだって。
こんなことになって漸く、自覚するだなんて。
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