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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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形のよい唇が、そっと離れる。
熱と感触だけが残って、今のが現実だとオレに教えていた。

(い、ま……)

確かに触れた、それ。

彼を見返すと、今度は目の際に降りてきた。
何度も慈しむように色んな箇所に口付けられて、くらくらする。

キス、されている。
翼に。


鈍い思考回路がやっと繋がって、耳までが熱くなる。
嫌とかそんな感情は一切湧かなくて――寧ろぞくぞくと、快感に背中が痺れた。

「…つば…さ…」
「聖人…お願いだ、オレを選んでくれ」
「…え…」
「巧じゃなくて…オレを…」
「……」

まるで祈るような響きだった。
オレの指をそっと握り、黒檀の瞳を向ける。

(…これ…朝にベッドから落ちて目が醒めたり…しないかな…)

それをぼんやり見つめながら、思わず真剣に考えてしまった。
だって、どう転んでも叶うことはないと……先程まではあんなに絶念のなかにいたというのに。
今では、その相手がこうしてオレを恋うている、なんて。

「…うん…」
「…聖人」
しっかりと頷いて、彼の手に己のそれを重ねた。


オレ達は、凄く凄く遠回りをしていたのかもしれない。
一杯苦しんで、悲しんで、嫌な気分にもなって。
でも、やっぱりこの人しかいないんだと、はっきり判ったから。

この痛みも全て丸ごと――彼を想った証なのだと、今なら胸を張って言える。


「オレも、好き…翼のこと…愛してるよ」
「……ありがとな…」

それは初めて見る、翼の顔だった。
心の底から笑って、泣いていた。




夕陽がすっかりビルの谷間に沈んだ、逢魔が時。
カーテンの隙間から覗いた気の早い月が、光源のない教室をほんの少しだけ照らす。

そのなかでオレ達は、何度も何度もキスをしていた。
向かい合って指を絡めて、隙間なんてないくらいに抱き合って。


「ふ…」
「聖人…」

漏れた小さな声さえ奪うように、翼が塞ぐ。
その仕草に独占欲を感じて、嬉しくて堪らない。
渇いた唇を舐めて、開いた隙間に歯列を撫でて。

余裕のない翼の掠れた声がいやに色っぽい。
こんなオレに欲情してくれているだと思うと、自然と口元が緩んでしまう。

「…好き…翼、大好き…」
「…あんま、煽んな…」
苦笑交じりに囁かれ、耳朶を甘噛みされる。

「あ…」
ぴく、と震えるオレに満足したのか、耳にキスを落して翼が身体を起こす。


「…さて、と。いい加減帰るか」
「…うん…そだね」
物足りなさを感じながらも曖昧に頷くと、くしゃりと頭を撫でられる。
久しぶりのその仕草に目を細めると、長い指が更に滑る。

「下校時刻過ぎてるからな。生徒会長が残ってたら、示しがつかないし。…それに」
「…それに?」
「このままお前と居たら…多分オレ、我慢出来ない」
「…っ!」

なにを、とは流石に聞かなくても理解した。
あの翼からそういう台詞を聞く日がくるなんて。
(いや、嬉しいけどさ…!)

「怪我してるお前に無理させたくないし、な。だからお預け」
「お、あずけって…っ」
に、と微笑む翼に、咄嗟に己の立場を理解した。
これはきっと…オレが負担を強いられる側、ということなのだろう。

「だから、早く怪我治せよ」
「ばっ…!大会のため、だろっ!ばかっ」
そしてオレが、翼にバカという日がくるなんて。

真っ赤になっているから効果などないに等しい。
半分冗談で振り上げた手をあっさりと取って、翼がオレを立たせる。


「やっぱり、お前は笑ってるのがいいな」
「…翼」
「…もう、二度と悲しませないから。誓うよ」

月明かりの下。
真っ直ぐにオレを見つめた彼はそう言いながら、唇を寄せた。


嬉しすぎても涙が出るんだということを、オレはしょっぱいキスの味と同時に知った。
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