オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 12/02 初夏の嵐(6)
- 10/13 初夏の嵐(5)
- 10/09 【お知らせ】コメント欄について。
- 09/16 fragile (51) Side: 翼 最終回
- 09/08 fragile (50) Side: 俊&巧
This is new entry
形のよい唇が、そっと離れる。
熱と感触だけが残って、今のが現実だとオレに教えていた。
(い、ま……)
確かに触れた、それ。
彼を見返すと、今度は目の際に降りてきた。
何度も慈しむように色んな箇所に口付けられて、くらくらする。
キス、されている。
翼に。
鈍い思考回路がやっと繋がって、耳までが熱くなる。
嫌とかそんな感情は一切湧かなくて――寧ろぞくぞくと、快感に背中が痺れた。
「…つば…さ…」
「聖人…お願いだ、オレを選んでくれ」
「…え…」
「巧じゃなくて…オレを…」
「……」
まるで祈るような響きだった。
オレの指をそっと握り、黒檀の瞳を向ける。
(…これ…朝にベッドから落ちて目が醒めたり…しないかな…)
それをぼんやり見つめながら、思わず真剣に考えてしまった。
だって、どう転んでも叶うことはないと……先程まではあんなに絶念のなかにいたというのに。
今では、その相手がこうしてオレを恋うている、なんて。
「…うん…」
「…聖人」
しっかりと頷いて、彼の手に己のそれを重ねた。
オレ達は、凄く凄く遠回りをしていたのかもしれない。
一杯苦しんで、悲しんで、嫌な気分にもなって。
でも、やっぱりこの人しかいないんだと、はっきり判ったから。
この痛みも全て丸ごと――彼を想った証なのだと、今なら胸を張って言える。
「オレも、好き…翼のこと…愛してるよ」
「……ありがとな…」
それは初めて見る、翼の顔だった。
心の底から笑って、泣いていた。
夕陽がすっかりビルの谷間に沈んだ、逢魔が時。
カーテンの隙間から覗いた気の早い月が、光源のない教室をほんの少しだけ照らす。
そのなかでオレ達は、何度も何度もキスをしていた。
向かい合って指を絡めて、隙間なんてないくらいに抱き合って。
「ふ…」
「聖人…」
漏れた小さな声さえ奪うように、翼が塞ぐ。
その仕草に独占欲を感じて、嬉しくて堪らない。
渇いた唇を舐めて、開いた隙間に歯列を撫でて。
余裕のない翼の掠れた声がいやに色っぽい。
こんなオレに欲情してくれているだと思うと、自然と口元が緩んでしまう。
「…好き…翼、大好き…」
「…あんま、煽んな…」
苦笑交じりに囁かれ、耳朶を甘噛みされる。
「あ…」
ぴく、と震えるオレに満足したのか、耳にキスを落して翼が身体を起こす。
「…さて、と。いい加減帰るか」
「…うん…そだね」
物足りなさを感じながらも曖昧に頷くと、くしゃりと頭を撫でられる。
久しぶりのその仕草に目を細めると、長い指が更に滑る。
「下校時刻過ぎてるからな。生徒会長が残ってたら、示しがつかないし。…それに」
「…それに?」
「このままお前と居たら…多分オレ、我慢出来ない」
「…っ!」
なにを、とは流石に聞かなくても理解した。
あの翼からそういう台詞を聞く日がくるなんて。
(いや、嬉しいけどさ…!)
「怪我してるお前に無理させたくないし、な。だからお預け」
「お、あずけって…っ」
に、と微笑む翼に、咄嗟に己の立場を理解した。
これはきっと…オレが負担を強いられる側、ということなのだろう。
「だから、早く怪我治せよ」
「ばっ…!大会のため、だろっ!ばかっ」
そしてオレが、翼にバカという日がくるなんて。
真っ赤になっているから効果などないに等しい。
半分冗談で振り上げた手をあっさりと取って、翼がオレを立たせる。
「やっぱり、お前は笑ってるのがいいな」
「…翼」
「…もう、二度と悲しませないから。誓うよ」
月明かりの下。
真っ直ぐにオレを見つめた彼はそう言いながら、唇を寄せた。
嬉しすぎても涙が出るんだということを、オレはしょっぱいキスの味と同時に知った。
PR