オリジナルBL小説を扱ってます。
メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
- 11/27 [PR]
- 11/11 fragile (21) Side: 聖人
- 11/10 初夏の嵐(2)
- 10/21 初夏の嵐(1)
- 10/09 fragile (20) Side: 俊
- 09/30 ひかり(キリリク№13,500・篤直)
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あの頃、世の中の全てがモノクロに染まっていた。
呼吸しているのか止まっているのか、それすら曖昧に感じて。
このまま露と消えてしまっても構わない――否、そうなればいいと思っていた。
だって、誰も悲しまないから。
オレを愛してくれる人は、この世界にはもう…いないから。
中学2年生の秋、オレは最後の家族だった母を失った。
裕福な家庭に生まれた所謂お嬢様の母さんと、貧乏ながらも猛勉強の末弁護士になった父さん。
2人は格差なんて関係なく恋に落ちたけれど、両家からは強固に反対された。
そんな彼らは駆落ち同然で結婚したから、オレは祖母達の顔も知らずに育った。
けれども両親の仲は円満で、優しくて、暖かくて。
毎日が、とても幸せだった。
けれど、それは突然終りを告げる。
オレが小学校低学年のとき、父さんが重たい病気に掛かり治療の甲斐なく死んでしまった。
それからは母さんとオレ、2人だけの暮らしが始まった。
仕事をしたことがなかった母さんはそれでも昼夜問わず懸命に働いて、オレが中学生になるまで育ててくれた。
でもそのせいで白魚のように綺麗だった手はぼろぼろになり、疲れから身体も崩しがちになってしまって。
そして、あの日……
カーテンからの眩しい光に、オレは顔を顰めた。
どんな心持でいるかは関係なく、朝は訪れる。
漆黒の闇の中にいるオレにとっては鬱陶しいだけで、うんざりしながら身体を起こした。
小さなアパートの部屋は、それでもオレ一人だとがらんとしていた。
見遣ると、オレは制服のままだった。
昨日の告別式の後、ベッドに転がっていたら寝てしまったらしい。
(母さんがいたら、怒られただろうな…)
もう、と肩を上げながら可愛く怒ってみせるその表情が容易に思い出されて、小さく笑う。
しかしそれは直ぐに涙声に変わり、オレは膝を抱いて嗚咽をあげる。
母さんは死んだ。
オレのせいで。
オレが、殺してしまったから。
呼吸しているのか止まっているのか、それすら曖昧に感じて。
このまま露と消えてしまっても構わない――否、そうなればいいと思っていた。
だって、誰も悲しまないから。
オレを愛してくれる人は、この世界にはもう…いないから。
中学2年生の秋、オレは最後の家族だった母を失った。
裕福な家庭に生まれた所謂お嬢様の母さんと、貧乏ながらも猛勉強の末弁護士になった父さん。
2人は格差なんて関係なく恋に落ちたけれど、両家からは強固に反対された。
そんな彼らは駆落ち同然で結婚したから、オレは祖母達の顔も知らずに育った。
けれども両親の仲は円満で、優しくて、暖かくて。
毎日が、とても幸せだった。
けれど、それは突然終りを告げる。
オレが小学校低学年のとき、父さんが重たい病気に掛かり治療の甲斐なく死んでしまった。
それからは母さんとオレ、2人だけの暮らしが始まった。
仕事をしたことがなかった母さんはそれでも昼夜問わず懸命に働いて、オレが中学生になるまで育ててくれた。
でもそのせいで白魚のように綺麗だった手はぼろぼろになり、疲れから身体も崩しがちになってしまって。
そして、あの日……
カーテンからの眩しい光に、オレは顔を顰めた。
どんな心持でいるかは関係なく、朝は訪れる。
漆黒の闇の中にいるオレにとっては鬱陶しいだけで、うんざりしながら身体を起こした。
小さなアパートの部屋は、それでもオレ一人だとがらんとしていた。
見遣ると、オレは制服のままだった。
昨日の告別式の後、ベッドに転がっていたら寝てしまったらしい。
(母さんがいたら、怒られただろうな…)
もう、と肩を上げながら可愛く怒ってみせるその表情が容易に思い出されて、小さく笑う。
しかしそれは直ぐに涙声に変わり、オレは膝を抱いて嗚咽をあげる。
母さんは死んだ。
オレのせいで。
オレが、殺してしまったから。
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視線が、オレを捉える。
途端、無表情だった顔が綻び、色が生まれる。
まるで陶磁器のような、どこか芸術品に似た美しさの近寄りがたい空気から一転、いい意味で隙のあるそれに周囲の生徒達がざわめき出す。
(ああ…もう…)
予想していた通りの一連の騒ぎに、オレは軽く眩暈がしていた。
引力のようなオーラを生まれながらにしてもつ人間は、やはりいるもので。
こういうのをカリスマというのだろうか…生憎自分には、とても縁遠い話だけれど。
ついつい皮肉めいた愚痴を脳内で溢しているうちに、男性は真っ直ぐにこちらへと歩みを進める。
「お、おい、直。なんかこっち来るけど…」
それはそうだろう。
しかしここで迂闊なことを言えば一気に注目を集めそうで嫌なのだ…もう遅いかもしれないけれど。
まるでモーゼの十戒のようにサッと分かれた群衆の間を抜け、ついに彼は目の前に立った。
影になってしまうほどの、いやになるくらいの身長差。
見上げると天に登った夏の太陽が眩しくて、オレは目を細めた。
と、彼が動く。
視界一杯に、近付いて。
「直~!!」
大声でそう叫びながら、オレを力強く抱き締めた。
一気に黙り込んでいた生徒達が色めき出す。先ほどとは違った意味で。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる力がこの人の気持ちを表しているのだろう。
そう思うと強く反発も出来なくて、オレはとりあえず呼吸だけは確保しようと頭だけ動かした。
「久しぶりだなあ、直!オレはもう淋しくて淋しくてっ…!」
ああ、だからそういう言い方は誤解を招くんだって!
オレの不安通り、皆は「どういう関係?」とヒソヒソ話している。
隣に立っていた順平は、すっかり固まってしまった。
それでもはた、と我に返ったようで、慌てて彼に声を上げた。
「って…!アンタ、いきなりなんなんです!?」
「ん?」
「そ、そうだよ…っ」
順平に気を取られ腕の力が緩んだところで、オレもハアと大きく息を吸って抗議する。
もうこんなぐちゃぐちゃになった状況では誤魔化すことは不可能だろうから、オレも腹を括る。
「そうだよ、吃驚したよっ!」
きっとこの場が固まるであろう――オレ達2人にとっては当たり前の、その言葉を音に乗せる。
「兄さん!」
途端、無表情だった顔が綻び、色が生まれる。
まるで陶磁器のような、どこか芸術品に似た美しさの近寄りがたい空気から一転、いい意味で隙のあるそれに周囲の生徒達がざわめき出す。
(ああ…もう…)
予想していた通りの一連の騒ぎに、オレは軽く眩暈がしていた。
引力のようなオーラを生まれながらにしてもつ人間は、やはりいるもので。
こういうのをカリスマというのだろうか…生憎自分には、とても縁遠い話だけれど。
ついつい皮肉めいた愚痴を脳内で溢しているうちに、男性は真っ直ぐにこちらへと歩みを進める。
「お、おい、直。なんかこっち来るけど…」
それはそうだろう。
しかしここで迂闊なことを言えば一気に注目を集めそうで嫌なのだ…もう遅いかもしれないけれど。
まるでモーゼの十戒のようにサッと分かれた群衆の間を抜け、ついに彼は目の前に立った。
影になってしまうほどの、いやになるくらいの身長差。
見上げると天に登った夏の太陽が眩しくて、オレは目を細めた。
と、彼が動く。
視界一杯に、近付いて。
「直~!!」
大声でそう叫びながら、オレを力強く抱き締めた。
一気に黙り込んでいた生徒達が色めき出す。先ほどとは違った意味で。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる力がこの人の気持ちを表しているのだろう。
そう思うと強く反発も出来なくて、オレはとりあえず呼吸だけは確保しようと頭だけ動かした。
「久しぶりだなあ、直!オレはもう淋しくて淋しくてっ…!」
ああ、だからそういう言い方は誤解を招くんだって!
オレの不安通り、皆は「どういう関係?」とヒソヒソ話している。
隣に立っていた順平は、すっかり固まってしまった。
それでもはた、と我に返ったようで、慌てて彼に声を上げた。
「って…!アンタ、いきなりなんなんです!?」
「ん?」
「そ、そうだよ…っ」
順平に気を取られ腕の力が緩んだところで、オレもハアと大きく息を吸って抗議する。
もうこんなぐちゃぐちゃになった状況では誤魔化すことは不可能だろうから、オレも腹を括る。
「そうだよ、吃驚したよっ!」
きっとこの場が固まるであろう――オレ達2人にとっては当たり前の、その言葉を音に乗せる。
「兄さん!」
平凡なことだけが取り柄のオレ、山田直が、不良でしかも総長な嘉堵川篤也先輩と付き合うようになって、一ヶ月が経ちました。
他の先輩達も、グループの皆さんも良くしてくれるし、先輩はとても優しくて。
こんな幸せでいいのかな、と思ってしまうくらい、何ごともなく平穏な毎日…
でした…あの日までは。
街路樹の緑も濃くなり、陽気も少しずつ夏の色を纏い始める。
薄くなった制服でも汗ばむ程の空気にふうと溜息を吐いたのは、ホームルーム終了のチャイムが鳴り終わるのと同時だった。
「直~帰れるか?」
教科書を鞄に詰めているところに話しかけてきたのは親友の森永順平だった。
「うん、今日は大丈夫」
オレも頷きながら、鞄を肩に掛ける。
先程携帯を確認したけれど、何の新着も知らせてはいなかった。
きっとまだ終わっていないんだろうな…と恋人を思う。
まさか顔に出ていた訳ではないだろうけれど、タイミング良く順平が尋ねた。
「そいや、今日先輩は?」
「今日お休みなんだ。なんでも、グループの集会だって」
それを聞いた途端、彼の口端が引くついた。色々想像したらしい。
「へ、へえ…」
「行くか、とは聞かれたんだけどね…」
オレの言葉尻に含める気持ちは推して知るべし、といったところで。
ぶる、と身震いをした順平が、首を真横に振った。
「…それは、丁重にお断りだよな…」
…その通り。
グループの皆さんは話してみると存外に優しい人達ばかりで(まあオレが総長の恋人だからというのもあるんだろうけれど)、幾分か打ち解けることが出来ている、と思う。
けれどやっぱり、そういう場にオレが居たら気絶してしまいそうな気がするのだ。
「じゃ、今日はどっか寄って行こうぜ!」
最近先輩と一緒に登下校していたし、順平もサッカー部で忙しくなかなか時間も合わなかった。
先輩との時間も勿論大切にしたいけれど、友達同士の繋がりも疎かにしたくない。
だからその提案には大賛成で、オレもいつもの寄り道候補を脳裏に描く。
「先ずはファーストフードでなんか食べて、本屋でも行こうか」
「お、いいな!あとちょっと服みたいんだよな~」
夏服買わないとなあ、と思案する順平の視線が、ふと前方に泳いで止まった。
なんだろうとその先を追うと、オレ達と同じように帰宅しようと昇降口から出ていた生徒達が前方で立ち止まっている。
わらわらと人が群がっているため、ここからでは奥を窺うことが出来ない。
他の先輩達も、グループの皆さんも良くしてくれるし、先輩はとても優しくて。
こんな幸せでいいのかな、と思ってしまうくらい、何ごともなく平穏な毎日…
でした…あの日までは。
街路樹の緑も濃くなり、陽気も少しずつ夏の色を纏い始める。
薄くなった制服でも汗ばむ程の空気にふうと溜息を吐いたのは、ホームルーム終了のチャイムが鳴り終わるのと同時だった。
「直~帰れるか?」
教科書を鞄に詰めているところに話しかけてきたのは親友の森永順平だった。
「うん、今日は大丈夫」
オレも頷きながら、鞄を肩に掛ける。
先程携帯を確認したけれど、何の新着も知らせてはいなかった。
きっとまだ終わっていないんだろうな…と恋人を思う。
まさか顔に出ていた訳ではないだろうけれど、タイミング良く順平が尋ねた。
「そいや、今日先輩は?」
「今日お休みなんだ。なんでも、グループの集会だって」
それを聞いた途端、彼の口端が引くついた。色々想像したらしい。
「へ、へえ…」
「行くか、とは聞かれたんだけどね…」
オレの言葉尻に含める気持ちは推して知るべし、といったところで。
ぶる、と身震いをした順平が、首を真横に振った。
「…それは、丁重にお断りだよな…」
…その通り。
グループの皆さんは話してみると存外に優しい人達ばかりで(まあオレが総長の恋人だからというのもあるんだろうけれど)、幾分か打ち解けることが出来ている、と思う。
けれどやっぱり、そういう場にオレが居たら気絶してしまいそうな気がするのだ。
「じゃ、今日はどっか寄って行こうぜ!」
最近先輩と一緒に登下校していたし、順平もサッカー部で忙しくなかなか時間も合わなかった。
先輩との時間も勿論大切にしたいけれど、友達同士の繋がりも疎かにしたくない。
だからその提案には大賛成で、オレもいつもの寄り道候補を脳裏に描く。
「先ずはファーストフードでなんか食べて、本屋でも行こうか」
「お、いいな!あとちょっと服みたいんだよな~」
夏服買わないとなあ、と思案する順平の視線が、ふと前方に泳いで止まった。
なんだろうとその先を追うと、オレ達と同じように帰宅しようと昇降口から出ていた生徒達が前方で立ち止まっている。
わらわらと人が群がっているため、ここからでは奥を窺うことが出来ない。
チャイムの音ががらんとした室内に響いて、ハッと我に返った。
人気のない図書室は夢中で読書をするには最適すぎて、ついつい長居をしてしまったようだ。
最終下校時刻を告げるそれに慌てて鞄を掴み、読みかけだった本を借りようと受付へ急ぐ。
当番の生徒もさっさと帰りたいのか手早く済ませてくれ、数分もしないうちに外へ出ることができた。
(随分日が長くなったんだなあ…)
少し前まではこの時間ではもう暗くなっていた筈なのに。
夕陽が眩しくて目を細めながら歩き出す。
聖人くんや西園寺くんはそろそろ部活を終えた時刻だろうか。
2年生で転入したということもあり、部に入るタイミングを逃した僕にとっては2人が楽しそうに部活動に勤しんでいる姿は羨ましいものがあった。
尤も、運動神経の欠片もない僕だから、彼らと同じスポーツが出来るわけでもないのだけど。
それでも放課後は図書室へ寄るくらいしかやることがないので、何かしらやればよかったかな、とも思う。
(文科系ならいいかな。科学部とかいいかも…)
担任の先生が理系ということもあり、いつでも見学に来ていいと言われていた。
(聖人くんはオレなら絶対無理、って言ってたよね)
行くとしたら、でその部の名前を出したとき、理系の苦手な聖人くんが盛大に渋い顔をしていたことを思い出す。
くすり、と笑みを溢しながら昇降口の前を通りかかったとき、視界の端に動くものがあった。
誰だろうと振り返った先に、鼓動の速度を速めてしまうひとが、いた。
「翼!」
殆ど反射のように、大きな音量で声を掛ける。
それに顔を上げた生徒会長が、僕を見とめて、にこりと微笑んだ。
「俊」
形のいい唇から発せられる、名前。
何度も聞いている筈なのに、きゅうと胸が苦しくなった。
「生徒会?大変だね」
「ああ。テスト中に仕事が出来なかった分、色々溜まっちまってさ」
肩を竦めるその動作さえカッコいい。
何度か一緒に帰ったことはあるけれど、2人きりというのは初めてのことで。
自然並ぶ形になって歩き出したけれど、心はどうしたって舞い上がってしまう。
人気のない図書室は夢中で読書をするには最適すぎて、ついつい長居をしてしまったようだ。
最終下校時刻を告げるそれに慌てて鞄を掴み、読みかけだった本を借りようと受付へ急ぐ。
当番の生徒もさっさと帰りたいのか手早く済ませてくれ、数分もしないうちに外へ出ることができた。
(随分日が長くなったんだなあ…)
少し前まではこの時間ではもう暗くなっていた筈なのに。
夕陽が眩しくて目を細めながら歩き出す。
聖人くんや西園寺くんはそろそろ部活を終えた時刻だろうか。
2年生で転入したということもあり、部に入るタイミングを逃した僕にとっては2人が楽しそうに部活動に勤しんでいる姿は羨ましいものがあった。
尤も、運動神経の欠片もない僕だから、彼らと同じスポーツが出来るわけでもないのだけど。
それでも放課後は図書室へ寄るくらいしかやることがないので、何かしらやればよかったかな、とも思う。
(文科系ならいいかな。科学部とかいいかも…)
担任の先生が理系ということもあり、いつでも見学に来ていいと言われていた。
(聖人くんはオレなら絶対無理、って言ってたよね)
行くとしたら、でその部の名前を出したとき、理系の苦手な聖人くんが盛大に渋い顔をしていたことを思い出す。
くすり、と笑みを溢しながら昇降口の前を通りかかったとき、視界の端に動くものがあった。
誰だろうと振り返った先に、鼓動の速度を速めてしまうひとが、いた。
「翼!」
殆ど反射のように、大きな音量で声を掛ける。
それに顔を上げた生徒会長が、僕を見とめて、にこりと微笑んだ。
「俊」
形のいい唇から発せられる、名前。
何度も聞いている筈なのに、きゅうと胸が苦しくなった。
「生徒会?大変だね」
「ああ。テスト中に仕事が出来なかった分、色々溜まっちまってさ」
肩を竦めるその動作さえカッコいい。
何度か一緒に帰ったことはあるけれど、2人きりというのは初めてのことで。
自然並ぶ形になって歩き出したけれど、心はどうしたって舞い上がってしまう。
VIP専用ルームは、幹部だけが踏み入れることが出来る領域だ。
ここではいつも他のグループの動向やら、オレ達に喧嘩を吹っ掛けてきた奴らの詳細やらが伝えられる。
Red Scorpionの幹部…龍人や優士、真とする”話”は、大抵が愉快なものとは程遠い。
毎日が暴力と血で塗られた汚い世界だ。
元々オレ自身、このグループで頂点を目指そうという気持ちは微塵もなかった。
ただ絡んでくる奴らを倒していたら、必然的にこの地位までのし上がってしまっただけだ。
しかし、オレ達を…オレを倒すことで名実ともにNO,1になろうと尽きることの無い欲を持つ奴らは、吐いて捨てるほどいる。
少し前までのオレなら、挑んでくる奴らをただ厭い、殴って気を紛らわし、高まった熱を適当な女で発散させていた。
それしか他に知らなくて、益々酷くなる渇きに苛立ちだけが募って。
本当に殴りたいのは誰でもなく己自身だと気付いていながら、もがき苦しんでいた。
――だが、今は違う。
護りたいものができた。
それは、オレの人生を変えるには十分過ぎるほど。
「わあ、流石ッスね!!」
真の理路整然とした説明が済み、話し合いは終了した。
と、VIPルームを一歩出たところで、大きな歓声が飛び込んできた。
何事かと思い見渡すと、主因はすぐに判明した。
うちの不良連中が囲んでいるその中心には、照れくさそうに笑う恋人がいたからだ。
「これで又着れます!俺これすっげえ気に入ってたんで、マジで助かりました!」
「あ、あの!次オレも頼んじまってもいいですか?」
「あ、はい。オレでよければ」
あいつらが手に持っているのは自分達の洋服で、そして彼が持っているのは針と糸。
オレが考えるよりも先に、横に居た優士が微笑んだ。
「ああ…また直くんに破れた服を縫ってもらってたんだね」
「いーな!オレも今度やってもらっていいー?」
それを聞いた龍人がすかさず手を上げて直に頼む。
「はい、勿論いいですよ」
正直言って面白くは無いが、直が本当に明るい顔で頷くから文句は口の中だけで消えた。
直がここにやってきて、雰囲気が一変した。
最初彼は強面の連中にかなりビビッていたようだが、数週間もしないうちに大分打ち解けたようだ。
そして不良連中もすっかり気に入ったらしい。最近では直がこのバーにやってくるや否や、皆して声を掛けようとしている。
ここではいつも他のグループの動向やら、オレ達に喧嘩を吹っ掛けてきた奴らの詳細やらが伝えられる。
Red Scorpionの幹部…龍人や優士、真とする”話”は、大抵が愉快なものとは程遠い。
毎日が暴力と血で塗られた汚い世界だ。
元々オレ自身、このグループで頂点を目指そうという気持ちは微塵もなかった。
ただ絡んでくる奴らを倒していたら、必然的にこの地位までのし上がってしまっただけだ。
しかし、オレ達を…オレを倒すことで名実ともにNO,1になろうと尽きることの無い欲を持つ奴らは、吐いて捨てるほどいる。
少し前までのオレなら、挑んでくる奴らをただ厭い、殴って気を紛らわし、高まった熱を適当な女で発散させていた。
それしか他に知らなくて、益々酷くなる渇きに苛立ちだけが募って。
本当に殴りたいのは誰でもなく己自身だと気付いていながら、もがき苦しんでいた。
――だが、今は違う。
護りたいものができた。
それは、オレの人生を変えるには十分過ぎるほど。
「わあ、流石ッスね!!」
真の理路整然とした説明が済み、話し合いは終了した。
と、VIPルームを一歩出たところで、大きな歓声が飛び込んできた。
何事かと思い見渡すと、主因はすぐに判明した。
うちの不良連中が囲んでいるその中心には、照れくさそうに笑う恋人がいたからだ。
「これで又着れます!俺これすっげえ気に入ってたんで、マジで助かりました!」
「あ、あの!次オレも頼んじまってもいいですか?」
「あ、はい。オレでよければ」
あいつらが手に持っているのは自分達の洋服で、そして彼が持っているのは針と糸。
オレが考えるよりも先に、横に居た優士が微笑んだ。
「ああ…また直くんに破れた服を縫ってもらってたんだね」
「いーな!オレも今度やってもらっていいー?」
それを聞いた龍人がすかさず手を上げて直に頼む。
「はい、勿論いいですよ」
正直言って面白くは無いが、直が本当に明るい顔で頷くから文句は口の中だけで消えた。
直がここにやってきて、雰囲気が一変した。
最初彼は強面の連中にかなりビビッていたようだが、数週間もしないうちに大分打ち解けたようだ。
そして不良連中もすっかり気に入ったらしい。最近では直がこのバーにやってくるや否や、皆して声を掛けようとしている。