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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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どうやらずっと弟が欲しかったらしい兄の溺愛っぷりは半端なく、オレは幼い頃から物凄く甘やかされて育ってきた。
両親が止めてくれればよかったのかもしれないけれど…ちょっと天然な母とちょっと存在感の薄い父ではそれもなくて。
(まあ…これで我侭にならずに済んだのは、この平凡顔のおかげかもしれないけど…)
家と世間のギャップといったら…悲しくなるので思い出すのはやめておこう。

(…そういえば、兄さんがアメリカ留学したときも大変だったなあ…)
兄さんは空港で出発直前まで別れを惜しみ、毎日メールするから、休みには必ず帰るから、と繰り返し縋るように言っていた。
その約束に違わず、社会人となり忙しい今でも、兄さんからのメールは頻繁に届く位なのだ。

流れる景色を見ながら当時を思い返していると、ゆっくりと車が止まった。
赤信号だ。

そこでふと、兄さんの近況が知りたくなって顔を上げた。
「そういえば兄さんは?向こうでいい人とか出来た?」
「いや、全然。オレモテないからさ」
ははは、と軽く流すように兄さんがオーバー気味に手を振る。
しかし今の言葉を信じる人はいないだろう。ましてや弟だ。
じと、と自然に呆れるような目になってしまう。

「またそんなこと言って…嫌味にしか聞こえないよー」
直接聞いたことはないけれど、沢山の…それこそ両手両足の指の数を全部足したって足りないくらいに告白をされたことは、兄さんの友人伝てから聞いている。
それに家のポストには毎日のようにファンレターとラブレターが入っていたし、バレンタインのときには家にまで女の子が押しかけてきたことだってあるのだ。
あのときの血走った目をした彼女達は…本当に恐かった。

オレの言葉に、兄さんがふと笑いを引っ込めた。
「んー…まあ、彼女みたいなのは昔から出来るんだけどな…」
「ほらー」
だからアメリカでだってきっとモテているはず。
そう続けようとしたオレの頬を、兄さんの大きな手がそっと触れた。

「でもな」
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一緒に帰らないか、と言うつもりだった。


「進…」
「じゃあな、堂本」

けれどオレの言葉は空回りする。
終業のチャイムが鳴ると同時に立ち上がった進藤が、一度も振り返ることなく教室を出て行ったから、だ。

「……」

言葉は軽いがそこに強い拒絶の響きを感じて、追いかけることも引き止めることも出来なくて。
ただただ、オレはもどかしい思いでその後姿を見送っていた。


進藤の様子が可笑しくなったのは3日前…好物の食べ方の癖を指摘した翌日だった。
図星で顔を真っ赤にする彼に、オレの中で無性にある衝動が沸き起こっていた。
しかしそれをおくびにも出さず、声帯はするりと驚くほど滑らかに言葉を紡いでいた。

『いいんじゃないか?オレは嬉しいけどな、お前のクセとか知れて』
『…は、』

彼の瞳がこれ以上無いくらいに大きく見開いて、オレを凝視する。
さり気無い仕草で視線を外すと、なんてことの無いように立ち上がった。
『さーてと、オレちょっとトイレ行ってくるかな』


教室の扉を閉めたところで、オレは堪えきれなくなって口元を手で覆っていた。

(うわ…何なんだよ、今のは)

判ってる。正常な判断能力はあるつもりだ。
だから――流石にない、と首を振る。
先程のオレの言い方は、まるで――…恋人に囁くかのように、甘い声色だった。

(どうかしてる)

戒めてみても、動揺は隠せない。
オレはヨロヨロと歩きながら、早く冷静さを取り戻そうと努力するしかなかった。

けれどオレが一番困っているのは、今の行為に嫌悪感を抱けない自分がいることで。
他人には深入りするなんて面倒なことはしたくない、そう訴える理性とは対照的に…もっと彼のことを知りたいと思う本能が疼く。

だから、オレは一晩迷い抜いた挙句――下校の際に彼を誘うことを、決めたのだった。



けれど彼はその翌日、昼休みももう終りだという時間に現われた。
クラスメートに適当な挨拶を交わすとのろのろとした歩みで自席へと着く。

そしてオレの顔を見ると、へらりと笑った。
堂本翼は本当に変な奴だ。

オレにいきなりおかずを食わせた次の日から、毎日弁当を作ってくるようになった。
別に頼んでる訳でもなければ、使ってる訳でもないというのに、だ。
流石にこうも毎日だと周囲の目にも奇妙に映るのだろう、チラチラとぶつけられる無遠慮な視線が煩わしくなってきた。
特に女子のは嫉妬や羨望まで混じるものだから、面倒なことこの上ない。

ただでさえ、オレは浮いてるようなモンなんだ。だからそっとしておいてほしい。
オレのことなんて気にしたところで、堂本にはなんの得もないはずだ。
毎日弁当をくれる前にそう言ってやろうと――勿論いつもの通りの笑顔で、やんわりとだが――決意するのに、あいつをいざ前にすると言葉が出なかった。

(…クソ、何でなんだよ…)


内心そう毒づきながらも、理由は薄々気付いていた。

それで本当に、ぱったりと途絶えてしまったら。向こうが突然オレに興味を無くして、もうやめるからと言われたら。
ほんの僅かに生まれた他人との繋がりなんてものは、ぱったりと途絶えてしまうだろう。
今度こそ本当に、孤立してしまうに違いない。
一人で生きるだなんて息巻いていたのに、少し緩めばその程度の覚悟なのか、なんて…自分自身で気付くのが、怖い。

己の弱さを知るのが堪らなくて、オレは拒絶することも甘えることも出来ず、ただ弁当を受け取っているんだ。



「…何?」

オレは残りのウインナーを口にしながら、我慢出来なくなって視線を上げた。
どんな顔をしたらいいか分からなくてずっと下を向いて食べていたのだけど、先に食べ終えた堂本があまりにじっとこちらを見ているので気になっていた。

いつも食事中に、会話らしい会話はない。
それでもたまに目が合うとにこり、とそこら辺の女子が卒倒しそうな笑みを向けてくるから困る。

オレがこいつを誑かしてるだとか、そんな失礼な噂まで出てるらしい。
それを言うならオレの方だ、とも思ったが、変に刺激したくないので無言を貫いている。

(…ていうか、微笑む相手が間違ってる気がするけど)


頭も顔もいい堂本は、男女問わずあっという間に人気者になった。
絶えず色んな奴らから声を掛けられており、勉強なんかも見てやってるみたいだ。
オレは授業も殆ど聞いてないし勉強する意味もないから、どうでもいいんだけど。

そんな堂本に見つめられたら…そりゃ、居心地も悪くなるってモンだろう。
「ん?いやさ、お前ウインナー好きだよなって思って」
「まあ、好きな方だけど…」

ウインナーだけではなく、最近の弁当はオレの好物ばかりが入っている。
オレってそんなに分かりやすいのか、と小首を傾げていると、堂本は笑みを讃えたまま続けた。
「いつも一番最後に食べるから。進藤て、好物は残しておくタイプだろ?」
「……」
笑っていながら、笑っていない。
その深く沈んだ昏い瞳が強く印象付けられて、つい声を掛けていた。
他人と関わりあうなんて殆どしなかったはずなのに、と驚いたのは誰よりもオレ自身だった。

『昨日から転入してきた、堂本翼だ。宜しくな』
『お、おお…オレは進藤聖人…宜しく』

目の前の男子生徒はオレに対して不信感ありありで、まるで手負いの獣のようにこちらを警戒していた。
しかし表面上はそれをおくびにも出さず、へらりと笑っている。
きっと誰もが、この一面を見ただけでお調子者だと思うだろう。
何重にも重ねられた鎧のように分厚い心の壁のうちなんて、容易には見抜けないからだ。

同じように、人をどこかで拒絶しているところのある…オレのような人間以外は。


そう思うと途端に、オレは隣の存在が気になるようになっていた。
なんでだろうと考えても、漠然としたまま一向に答えは出なかった。
同情?憐れみ?そんな安っぽいものではなくて。

今日だって、こんなことをしている。


「ほら」
「え……?」

ずい、と目の前に出されたものに、男子生徒――進藤聖人は、間抜けにぽかんと口を開ける。
気を緩めた顔は珍しいな、と思うからか、ついつい口端が緩む。
「弁当。今日も持ってきてないんだろ?」
ずばりと指摘してやったら、肩が跳ねる。
「…なん、で」
(そりゃ分かるさ)

昨日だって、購買に行くと言ったまま帰ってこなかった。
予鈴が鳴ってから戻ってきたところを見ると、そのままどこかで適当に時間を潰していたことも、なにも食べてこなかったことも容易に想像がついた。

進藤の事情については、オレが弁当を無理矢理食べさせていたことに興味を抱いたのか知らないが、彼の居ないときに周りの生徒から教えられた。
たった一人の肉親を亡くしたこと。
両親の結婚が駆落ちの末だったために、親族同士で彼の親権について揉めていること。

『進藤くん、どうなっちゃうんだろうね?独りぼっちで可愛そうだね…』
『盥回しなんて、ヒデエ話だよな』
皆口々にそう言ってはいるが、目を見れば残酷な好奇心に駆られているのがよく分かる。

(酷いのは、どっちだよ)
クラスメートにそこまで漏れてしまっているなら余計に辛いだろう。
だからきっと、あんなに傷ついている。今だって。
彼の心情を推し量ると堪らなくて、気がついたらオレは2人分の弁当をこさえていた。
「あれ」


昨日のことを思い出してはイライラしていたオレの右隣で、不意に声が上がった。

首を捻って確かめたオレの視界にまず入ったのは、艶やかな黒髪。
オレ自身生まれながら色素が薄く、毛先だけ色が濃いという稀な髪質なだけに、それはいやに鮮やかに見えた。
そしてすっと通った鼻梁に涼しげな眼差しは、同じ学年とは思えないほど大人びている。
要約するに、かなりのイケメンだ。

オレが馬鹿みたいにぼんやり見返していると、相手も視線を絡めたまま小さく口端を上げた。

「君とは初めまして、だよな?」
「お、おう…?」
そう言われてみれば、こいつの顔は初めて見た。
小首を傾げながら曖昧に返事をすれば、隣の席に腰を降ろしたこいつは、右手を差し出してきた。


「昨日から転入してきた、堂本翼だ。宜しくな」
「お、おお…オレは進藤聖人…宜しく」
あまりに爽やかに挨拶され、ついついつられて握手を交わす。
どうやら、昨日一昨日と忌引で休んでいたから知らなかったようだ。

(…ま、関係ないか…)

転入生への興味は直ぐに失せる。

どんな奴だろうと、オレにとってはその他大勢に変わりはなかった。
親しげにするくせに、皆心の底ではオレのことを憐れんでいるのだろう。
それは彼等の余所余所しい態度を見れば明らかで、オレの不快感は強まるばかりだった。
そんな安っぽい優しさや同情なんて要らなかった。

いつも通りに、何かもなくす前と同じように、接して欲しかったのに。



そんな状態で授業など頭に入る筈もなく、昼休みに入る。

女子と違って男子は大体バラバラで昼食を取っている。
オレも決まった友人と食べることはしていなかったから、のそのそと緩慢な動きで鞄から弁当を出そうとして…そのまま固まってしまった。

(昼飯なんて…あるわけねえじゃん…)


いつも笑顔で弁当を持たせてくれた人はもう、いないのだ。
本当に一人ぼっちになってしまったのだと、言いようのない絶望感に襲われる。
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