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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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中間テストの返却も終わってしまえば、生徒達の間には早くも夏の開放感が訪れる。
長い夏休み明けまで、次のテストはないからだ。

そして文武両道をモットーにしている広海高校では、この時期体育祭とは別のスポーツイベントが待っている。
それが球技大会だ。
男女混合の10人のチームを作り、サッカー、バスケ、ドッチボール、バレーボールの4種目を競う。

ただでさえ体育祭が憂鬱な僕にしてみれば、追い討ち以外の何者でもないのだけれど…テスト勉強で疲れていた大多数の生徒にしてみればいい息抜きになるのだろう。
クラス編成後大きなイベントということもあって、日々の練習で生徒達もまとまりが出来つつあった。
それに夏休み前に修学旅行もあるから、ここで仲良くなって欲しいという先生方の配慮もあるのだろう。

…なんてつらつら考えてみたけれど…個人的には早く過ぎ去ってくれないかな、と願わずにはいられないのだった。


今日も今日とて球技大会の練習で体育の時間を費やし、男子更衣室と化している教室で学生服に着替える。
背も低いのに人数合わせでバスケにされてしまった僕は嫌で仕方なくて、やっと終わったことに安堵の溜息が漏れる。
しかし、隣にいる彼は鼻歌交じりで実に上機嫌だ。

「聖人くん、楽しそうだねえ…」
「お?そりゃ勿論!オレ勉強より身体動かしてるほうが断然好きだし!」
屈託のない笑顔が眩しい。
その言葉の通り、聖人くんは練習というのにとても生き生きとしていた。
他クラスとのチームバランスも考慮し、バスケ部の選手はチームに2人までとされている。
そのなかで貴重な戦力ともいえる彼は今日も絶好調で、一人で何点も入れていた。

「はあ…羨ましいよ。僕にも同じだけの身体能力があればなあ…」
「いいんだって、こんなのは個人で得意不得意があんだからさ!オレは頼まれたって科学部には入りたくないし」
先日僕が科学部に正式に入部したことを思い出したのか、途端に渋い顔になる聖人くんに笑う。
励ましてくれている、その優しさにほっこりした。

中学のときの話を聞いてしまったと謝罪したときも、僕だからいいよと笑って赦してくれた。
勿論僕も他言するつもりはない。信頼しているからこそ、教えてくれたのだから。

他の生徒達は各々喋っていて、誰もこちらを気にしてはいない。
素早く辺りを確認した僕は、そっと音量を下げて話題を切り替えた。

「あの…ちょっと変なこと聞いてもいい?」
「ん?なになに?」
「聖人くんにとっての翼って…どんなイメージ?」
「え?翼?」

あまりに飛んだ話題に、ブラウンの瞳が大きく見開かれる。
彼が日直で後片付けのためまだ来ていないからこそ聞いてみたのだけれど、やっぱり急すぎたかな、と内心冷や汗を掻く。
翼から二人の過去の話を訊いてから、ずっと確かめてみたいことが、あったんだ。

「んーそうだな~」

シャツのボタンを締め終ってから、聖人くんは首を捻りながら答えてくれた。

「一言で言うなら…鬼だな」
「へっ?」
「スパルタの鬼。もうな、怒るとすっげえ恐えんだから」
「……ぷっ」
そんな回答が出てくるとは予想外で、つい噴出してしまった。
確かに二人のやり取りは名物だけれど…思わず思い出してしまった。
僕につられて笑みを浮かべながら、でも、と聖人くんが続ける。

ふと真顔になれば、そこにはいつもの聖人くんはいなかった。

「オレに真正面でぶつかってきてくれたのはあいつだけだから……厳しいとこもあるけど、ちゃんと受け止めなきゃって思えるんだ」
「聖人くん…」

(やっぱり…)
内心である想いが確信へと変わる。
堂本翼という人の印象と聞くと、多くの人が優しくて勉強も出来て…とまさに模範的な優等生だというだろう。
けれど、聖人くんだけは違う。
僕達が雲の上のような存在に思っている彼のことを、友達として…否、大切な親友として、本来の姿を見つめているんだ。
だから――彼らの間には、他の誰も踏み込めない絆が、あるのだろう。


「それにほら、あいつってお節介だし」

急に恥ずかしくなったのか早口になる聖人くんに対し、僕も何か言わなきゃと思って口を開きかけると、そこへ被せるように当人の声が聞こえた。
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Side:巧

聖人の話が終わって暫く、俺は言葉も発することが出来なかった。
夕暮れのベンチに、長い陽が射す。
駅前の小さな公園のような広場で腰掛けて聖人が話してくれた過去はあまりにも過酷で、今までの彼の印象をまるきり変えるものだった。

(…いや、違うな)

ふと、心に思った感想を訂正する。
普段の明るい彼からしてみれば、想像がつかない程の悲しい話だ。
だが、時折驚くほど他人の機微に鋭いところも…これらの出来事が関係しているのだとすれば、納得できた。

全て乗り越えて今こうして笑っていられるまでに、どれほどの葛藤があったのだろうか。
推して測ることなど出来ないそれに、どんな台詞も薄っぺらく思えてしまう。

そんな俺に誤解したらしい。
聖人が困ったように、手元のジュースの缶をくるくると両手で回した。

「…ごめん、重かったよな?」
「そうじゃない…悪かったな、こんな話させて…」
「ううん、それはいいんだ。巧になら、話してもいいって思ったし」
「…っ」
本当はこちらが励まさなくてはいけない側なのに、却って気を使われてしまう。

その姿があまりに眩しくて…眩暈がしそうだ。

せめてもと腕を伸ばして、その癖のある髪を撫でた。
ブラウンの瞳に視線を絡めて、本心からの言葉を告げる。

「…お前は、強いな」
「そんな…こと、ないよ。翼にも一杯迷惑掛けちゃったし…」
「いや。強いよ…お前は」

重ねて続けると、瞳が揺らいだ。
泣くかと思ったが堪え、聖人は己の心臓を指して噛み締めるように続ける。

「…今でも母さんのことを思うと、ここが痛いよ。…でも、もう後悔だけを抱えて生きるのはやめたんだ。母さんに胸を張れるように生きようって…そう、決めたから」
そして顔を上げた彼は、笑顔さえ浮かべていた。

「それに、オレ…広海に入ってよかったって思ってる。翼や…巧達が、居てくれるから」
「……聖人…」

ああ。なんて気高いのだろう。
その心根が、言葉が、全てが澄んでいる。

苦難を経験したからこそ感じることの出来るその志の高さに、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

(護りたい)

心の底から、思った。
護りたい。この笑顔を――傍で、見ていたい。


やはり彼が好きなのだと、そう心が叫んでいた。
冬が来てまたぐるりと季節は一周し、同じように寒い2月の冬晴れのある日。

オレは口から出そうな心臓をなんとか抑えつつ、正門の前に立った。
奇跡が起きれば、3年間過ごすかもしれない――広海高校だ。

「ううう…やっぱりオレ、帰る」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くぞ」
デリケートなオレの心情をさくっと無視をしたのは、他の誰でもない翼だ。
腕を掴むと、無情にも中へと引っ張っていく。

「お前の合格の一報を、担任が今か今かと待ってるんだからな」

そう、今日は公立高校の合格発表の日。
先に推薦で入学を決めていた翼が、自由登校ということもあり一緒についてきてくれたのだ。
「だからさ、今から謝る言い訳をだな…」
「お前は受かってるに決まってるだろ。オレを信じろって」
「そんな無茶な…」

とも思うが、ここまでやれたのも総て翼のおかげだ。
そんなこいつがはっきりと断言してくれたのを頼もしく思いながら、オレは覚悟を決めて掲示板へと向かった。


すでに掲示板の前には多くの受験生が群がっていた。
歓声を上げる者や項垂れる者。まさに人生の縮図のような光景だ。
(き…緊張する…)
私立も取り敢えず合格はしているが、これからのことを考えると余計な金は掛けたくない。
それにここに入ることを目標としているのだ。今更他校に通う気にはなれそうにもなかった。


「お前の番号、102だよな?」
「お、おお…」

隣に立った翼が、素早く文字の羅列に目を走らせる。
オレは生唾を飲み込み、それに続いた。

数字は90から続いたり途切れたり、段々と大きくなっていく。
そして100番台へと突入し…

予鈴が鳴る数十分も前。
まだ来ない隣の席を見遣りながら、オレはそわそわしていた。

昨日心を開いてくれたことが嬉しくて、まだどこかで夢だったんじゃないかとか色々考えたら眠れなくて…挙句の果てには、こんな時間に登校してきてしまった。
(遠足前の小学生じゃあるまいし…)
そう己にツッコミを入れてみるが、浮かれるのもそれも仕方ないことだろう。

まだクラスに他の生徒は居ない。
今日からはきちんと遅刻もしないと誓ってくれたから心配はしていないが…早く顔が見たくなる。

(…こんなの、完全に友達相手の感情じゃねえよな…)


薄々感付き始めていた、彼への気持ち。
これはもう…


そのときだ。
ガラッと勢い良くドアが開いたかと思うと…そこに、今まさに考えていた人物が息を切らして立っていた。

「あ、よかった~!堂本いた!」
「進藤?お早う、随分早いんだな」
「はよ!そうなんだよ、実は昨日中々寝付けなくてさ…」
「え…」

まさか彼も同じ理由で?

どきりと心臓が跳ねる。
席に荷物を置いた進藤は、椅子に座るなりこちらに身を乗り出した。


「実はさ……」


それから進藤が話してくれたのは――昨日、絶縁状態だった祖母と話ができたこと。
まだ完全に蟠りがなくなったわけではないけれど、保証人となってくれたおかげでアパートにも住み続けられるし、父親の友人である弁護士がこれからも力になってくれると約束してくれたらしい。

己と違う寝付けない理由にほんの少しだけ落胆する気持ちと――それとは比べ物にならないほどに強く感じたのは、彼の前途が開けたことに対する、純粋な喜びで。
よかったな、と心からの言葉を贈ると、進藤は笑みをふと引っ込めて、こう繋げた。
あんなところでは悪目立ちするからと、オレは仕方なく二人を家に上げた。
一人対二人、テーブルを挟んで向かいあう。

「……」
「……」
雰囲気は恐ろしく最悪だ。
それもそうだろう。
幾ら先ほどのことで力が抜けたとはいえ、オレにとってはまだ顔も見たくない存在だった。

父さんの母は、確か遠い地方でスナックやらの店をやっているらしい。
白髪交じりの茶髪と年に似合わない派手な赤い口紅のその人は、葬式で会った時よりも随分憔悴している様子だ。
その右隣に座っているのは、銀縁のフレームの眼鏡を掛けたいかにもやり手、といった中年の男性だった。
と、その胸元のバッチに自然と目いく。
(…あれ、この向日葵の形って…確か父さんと同じ…)

「…突然押しかけてきて、驚かせてしまいましたね」
写真とおぼろげな記憶から引っ張ってこようと頭の端で懸命に考えていると、沈黙を破るように男性が口を切った。


「私は柳生と言います。君のお父さんと同じ弁護士で、一緒の事務所に勤めていました」
「父さんの…?」

道理で雰囲気が知的だと思ったわけだ。
納得していると、柳生さんは祖母の背中に手をあて、続けた。

「今回、君がお父さんに続きお母さんまでも亡くされたことをおばあさんから聞いて…心配になってやってきました」
「弁護士さんに立ち会って貰ったほうがいいと思ったんだよ。…お前のこれからのことでね」
「!」


それはつまり…

(オレ…養護施設に入れられるのか…?)



身を硬くしたオレの様子に、考えていることが分かったのだろう。
柳生さんは微笑して、首を横に振った。

「大丈夫。君はこれからも、ここで暮らせますよ」
「えっ…!?」
「私がね…保証人になろうと思うんだ」
「…アンタが…?」

急な展開に頭が付いていかない。
葬式ではあんなに嫌がっていたじゃないか。

「…なんで、急に?」

オレの至極真っ当であろうその質問に、祖母の身体が動いた。
そのままの姿勢で後ろにずり下がり、勢い良く頭を下げる。


「本当に…ごめんなさい…!!」
「…!」

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