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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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結局オレは次の日も休み、学校へ行けるようになったのは翌々日のことだった。

オレは教室の前で何度か深呼吸をする。
たった2日来てないだけで、なんでこのドアを開け難く感じるのだろう。
中2の頃なんてサボってばっかりいたのに、へらへらしながら入っていたものだ。
(まあ、あの時のオレは参考にしちゃいけないんだけどさ…)
苦い思い出を自分で掘り起こしてしまったことに呆れつつも、いつまでも突っ立っているわけにもいかないので思い切って手をかけた。

「お、おっす…」
始業前で大多数の生徒が好き勝手に喋っている教室内が、何故かぴたりと静まり返る。

(え、なにこれ居た堪れない!)
つ、と背中に嫌な汗が流れる。

この妙な空気を壊してくれたのは天使…もとい俊だった。
「聖人くん!もう大丈夫なの?」
「お、おお!すっかり!メールくれてありがとな!」
笑顔で近寄ってくる彼にホッとしながら頷くと、他の生徒達も一斉に近寄ってくる。

「よかったー心配したんだよ」
「お前が風邪引くなんてあんだなー」
「ちょっと、それどういう意味!?」
男子生徒の発言に大袈裟に反応してみせると、どっと笑い声が起きる。

(よかった…)
無意識のうちにオレは緊張していたらしい、身体がほっと解れる。


彼らと休んでいた間に起こったことや熱がどうだとか、そんな他愛もない話をしているとふと視線を感じた。
見上げると数メートル先、翼の穏やかな眼差しがあった。
(あ、そうだ…オレまだお礼も言ってないし)

翼は昨日も看病に来てくれて、あれこれと世話を焼いてくれていた。
微熱まで下がっていたから本当は学校へ行きたかったのだが、駄目だと彼に却下されていた。
まあ、そのおかげで今こうしてすっかり治ったのだろうけど。

オレは適当に話を切り上げると、彼の元へと向かった。


「翼!」
「よ。もう大分平気そうだな」
「おう、お前のおかげだよ。サンキュー」
にへら、と笑って見せると右手が伸びてきてぐしゃぐしゃと髪をかき回す。
いつもならセットが、と怒ってみせるところだが、素直に嬉しかったのでされるがままだ。

「ああそうだ、休んでた分のノートあるから」
「えっ!そこまでしてくれたの!優しー!」
元々世話焼きな奴だとは思っていたけれど、至れり尽くせりではないか。
オレが驚いていると、にっこりと翼が微笑んでみせる。

「ああ。だからこれで次のテストで点が悪くても、授業の遅れなんて理由には出来ないからな?」
「……」
それはつまり、その内容を完全に頭に入れろということですね…
流石翼…手放しの優しさのわけがなかった。


やっぱり鬼だ、と呟くと、すかさずデコピンをかまされた。


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『今日は迎えに行けなくて悪かった。こっちは今、終わったところだ』
相変わらず短くて絵文字もない文章だけど、そこには不器用な先輩の優しさが詰まっている。
メールを見て思わずにやけていたところに突如声を掛けられ、身体が跳ねた。


「えっ、あ、ああ!ぶ、部活の先輩だよ!ちょっと連絡網が回ってきてさ!」

横目でこちらを窺う兄さんに、オレはなんとか詰まりながらも適当に嘘を紡いでいた。
ここでするりと言葉が出たのは我ながら上出来だと思う。
というのも、大事なことを思い出したからだ。

兄さんはずっとアメリカにいて、連絡を取り合っていたときだって、話題にしたことはない。
誰のことかって、勿論そう――篤也先輩のことだ。


(…ま、まずい…)

品行方正を絵に描いたような兄さんは、(オレがよく絡まれていたこともあるのだろうが)昔から不良達が大嫌いだった。
だから、ただでさえブラコンな兄さんと総長で恋人の篤也先輩が出会ったら…
(仲良くなったり…なんてことは…)

無理。絶対無理だ。
想像しようとしたけれど、無言で睨みあう構図しか浮かばない。
早くもきりきりと胃まで痛くなってきた。

(兎に角先輩のことは、兄さんにバレないようにしないと…!)


『気にしないでください。今はちょっと立て込んでいるので、夜にまたメールします』
愛想も無い素っ気無い文章だが、長々と連絡しているのも怪しまれるかもしれない。
先輩にはあとで謝ろうと思いつつメールを打っていたオレは、その横顔を兄さんがじっと見つめていたことなんて気付くはずもないのだった。



オレ達は帰る前に、地元の中型スーパーへ立ち寄ることにした。
今日の夕飯の材料を買うためだ。

「何作るんだ?」
「兄さんの好きなものにするよ?」
「じゃあ、鯖の味噌煮で!」
「うん、了解」
久しぶりの日本食にうきうきと嬉しそうな兄さんに笑いながら、オレは待ち受け画面のままの携帯に視線を落す。
(さっきのメール、ちょっとよそよそしかったかなあ…)

いくら急いでいたからといっても、もう少しなにか加えればよかったかも。
最後の語尾に絵文字の汗をつけたところで変わらないよなあ…などと考えたらキリがない。
先輩がそんなことで怒るような人でないことは十分判ってはいるのだ。
(判ってはいるのだけど…)

返事の無い携帯に、ふと不安に駆られてしまう。


「おーい、直?魚はこっちだろ?」
「へ?あ…ごめん!」
気付くと曲がるはずの通路を通り過ぎていた。

(駄目だ、今はこっちに集中しないと…っ)

こちらにも鋭い人がいるのだ。
迂闊にボロを出さないようにしないと、と顔を引き締め、オレは踵を返した。
球技大会の翌日、聖人が休んだ。

高校で皆勤を狙っていたあいつの欠席の連絡は朝の教室をどよめかせるのには充分で、本人からメールを貰ったオレでさえ驚きを隠せなかった。


「聖人くん大丈夫かな…いないと寂しいね…」
「……ああ」
お昼休み。
箸を持つ手を止め、俊が溜息交じり呟いた。
オレも空席になっている一箇所を見つめながら頷く。

昨日のバスケの部優勝の立役者がいないことで、今日の放課後行う筈だった打ち上げは延期になった。
あいつ一人いないだけで、うちのクラスは灯りが消えたようだ。

(…なにかあったのか)

メールには熱が出たと書いてあったが、その原因が引っかかっていた。
昨日の聖人は明らかに様子がおかしかったからだ。
あいつのことは他の誰より判っているつもりだ。
昨日、あれから聖人がいつも以上にテンションが高かったのは優勝の喜びからではなく、何かしら抱えていることを隠すためだった筈だ。

オレに、悟られないように。

(…なんでだよ…)

面白くない。
自身でよく理解しているが、オレはかなり嫉妬深い。
巧がジャージを貸していたことさえ気に食わないくらいだ。
オレの試合中に、2人に何かあったんだろうか。

最初は直ぐにでも、巧に直接聞き出してやろうかと思った。
だが、お互い今まで口に出していなかった話題を持ち出すのは躊躇われた。
ぐらぐらと揺れる危ういバランスで成り立っているオレ達の関係を壊し、水面下で行われていた戦いを鮮明にしてしまうことになるからだ。

それは時期尚早だ。確信を持ってからでも遅くない。
どちらにせよ、いつかはぶつかる運命なのだから。
同じ人間を好きになってしまった者同士、必ず。


「…どうしたの?ボーッとして」
「ん、ああ…何でもないよ」
不思議そうな俊の声に笑いかけながら、殆ど味を感じないおかずを口に突っ込んだ。
「お前のことが、好きなんだ」

静かに、それでいて心の奥まで貫くような強さを持った声が響く。


暫くは、言われた意味が分からなかった。

オレを好きなことと、翼の話をして欲しくないということが結びつかなかったからだ。
分からないながらも取り敢えず場を繕うと、しどろもどろに口を開く。

「え、えっと…オレもす」
「そうじゃない。お前と俺の好きは、種類が違うんだ」
バサリと切り捨てられ、言葉に詰まる。
巧はいつもより更に声のトーンを落とし、囁くように続けた。

「…お前にキスしたいし、お前を抱きたい。そういう意味で、好きなんだ」
「…っ」
あまりに直截的に告げられ、耳朶までかあと熱くなる。

「…だから、聖人が翼のことばかり話す度に、俺は嫉妬してる」
「で、でも、翼はただの…!」
慌てて言い掛け、はた、と我に気付く。
(ただの…?)

そう言ってしまうのは可笑しいとどこかでストップが掛かる。
まるで巧に言い訳をしているみたいで、変だ。
何故そう感じるのかは、よく分からないけれど。

きっとショックが大き過ぎて、頭がよく回らないせいだろう。
内心で勝手に結論付けてはみたものの、真っ直ぐな瞳を見られない。
俯くと、髪をふわりと撫でられた。

「…悪い。いきなりこんなことを言って、困らせたかった訳じゃないんだ」
「…巧…あの…」
「答えは急がない。だから、考えてくれないか」

考えるって。
ハッと顔をあげると、予想以上に熱っぽい視線とぶつかる。
がつん、と衝撃が襲った気がした。


「…俺と、付き合うこと」
「…っ」

今のオレは唾さえ上手に飲み込めない。
無言で見つめあった2人の間に、涼しい風が通り抜ける。
汗の引いた肌が冷えたせいか、空気を読まずに出たくしゃみに、巧が小さく笑った。
(恥ずかし…)

それにしたって、巧はなんでこんなに落ち着いていられるんだ。
それ程、覚悟を決めていたということなのか。
オレのことを、そこまで。

「やっぱり寒いんじゃないか?ほら」
「あ…」
言うなり、巧は自分の上着を脱ぐとふわりとオレの肩に掛けた。
「え、いいって悪いし…」
「遠慮するな。それにもうすぐオレも試合だし、預かっておいてくれないか?」
「お、おう…それなら借りとく…」

そう言われては他に返す言葉もない。
頷くと満足そうに微笑み、オレの頬をひと撫でした。
今まで何にも感じなかったその仕草さえ、想いが込められていたのかと思うと――途端、ぞくりと背中が波打つ。

「さて、と。それじゃあ行ってくる」
「お、おお…」
間抜けな返事しか出来ないオレに苦笑して、巧は踵を返した。
遠くても人目を惹くその長身が体育館へと戻っていくのを、ぼんやりと眺めることしか出来なかった。

(…どうしよう…)

残されたオレは借りたジャージを引き寄せる。
巧の匂いがするそれは胸を酷く締め付けて、思考は益々混乱するばかりだ。

散々彼女が欲しいなどと口癖のように言っていたオレが、まさか同性の友達から告白されるなんて。
でも不思議と、それに対する嫌悪感は沸かなかった。
それ以上に、彼の熱に惹き寄せられたからかもしれない。


(…巧…)
彼が放ったボールが、まるで引き寄せられているようにリングの輪の中を通る。
周囲の落胆とは正反対に、俺はその光景に感嘆の溜息を吐いた。

綺麗なフォームはひとつの絵画のようで、彼が投げるときには時間が止まってしまったような感覚に陥る。
そんな俺の時間を動かすかのように、試合終了のブザーが鳴り響いた。

ふっと彼の真剣な表情が緩み、次には駆け寄ってきたチームメイト達と笑顔でハイタッチを交わしていた。
クラスメート達が諦めてぞろぞろと離れていく中――俺は輪の中心で輝いているそんな唯一人からずっと、視線が放せなかった。

じっと見つめていたからだろうか。
同じチームだった城ヶ崎と2、3言会話を交わしたあと、彼の視線がこちらへと動いた。

「巧っ!」
「お疲れ、聖人」
俺を見つけるなり、こちらへと駆け寄ってきてくれた。
試合後ということもあり薄っすら掻いている汗の色香に、どきりとする。


「へへ、観たかー今の…って、やば」
しかし傍に居たクラスメートに気付いたのだろう、途端にしまったというように口を押さえた。
聖人が気にするのも無理はない。
彼の対戦チームはうちのクラスだったのだ。

だが俺は首を振り、周りの奴らに聞こえないように小声で続けた。

「気にしなくていい。…実は俺は、クラスよりお前達を応援していたからな」
「…巧…お前っていいやつ…!」
本当に感動したらしい彼のリアクションは大袈裟だったが、それがらしくて口元が緩む。

「今の聞いた、俊!」
「うん、有難う。西園寺くん」
隣に来ていた城ヶ崎が控えめに微笑む。
接点の少ない彼にとっては、まだ自分は恐い印象なのだろう。
頭の端で漠然と思いつつ、聖人と会話を続ける。

「大差だったな」
「いやーちょっと動きすぎたかも。もう体力残ってないや」
謙遜してみせる聖人だが、息が切れている様子はない。
今回の球技大会の種目である、バスケ部やサッカー部等の部員達は判る様にユニフォームを着るのが決まりになっているから当然なのだが、素肌を晒すその格好についつい目線がいってしまう。
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