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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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「聖人くん…大丈夫かな」

練習試合の話を聞いたときは応援に行くとあんなに張り切っていた俊が、今は消え入りそうな声で呟く。
こんな重たい空気になるだなんて、朝までは思わなかった筈だ。
彼も、勿論オレも。

オレは上手く宥める言葉さえ浮かばず、歩を進める自分の革靴にじっと視線を落していた。


聖人が倒れこんだとき、全身から血の気が引いた。

本人はバスケには怪我がつきものだとよく話していたが、一向に起き上がることが出来ない状況に最悪のことまでもが頭を過ぎった。
コートに飛び出していきたかったところをギリギリのところで堪える。
同じように隣で心配そうに見守っていた俊も、祈るように両手を握り締めていた。

聖人が交代してからの展開は酷いもので、試合途中だというのに体育館の生徒達は一人二人と消えていった。
勝手なものだ。
試合前は圧勝すると浮かれていたのに、劣勢になるとみるやさっさと見限ってしまうなんて。


試合終了後にすぐに様子を観に行こうと思ったオレは、一緒に行くという俊を連れて部室へと急いだ。
しかしタイミング悪く、そこに生徒会の顧問と鉢合わせた。
『堂本。いいところにいたな。休みの日に悪いんだがちょっと頼みたい仕事があるんだ』
悪い、と断っておきながらも断られるとは思っていない教師は一方的に仕事を押し付けてくる。
一人では無理だと断ろうとしたが、これまたタイミング悪く二人だったものだからそれ以上抵抗も出来なくて。

結局遅れて部室に向かうも、すでに皆が帰ったあとだった。


駅までの道を俊と二人で歩く。
しかし、足取りは重く会話も途切れがちだった。

オレはずっと――聖人のことで頭が一杯だった。
ちゃんと病院に行ったのだろうか。
あいつのことだから、皆に悪いと無理して一人で行くか…否、そもそも行かないかもしれない。
誰よりも判っているからこそ、無茶をしでかさないか心配なのだ。


(…それに…)

もうひとつ、気になっていることがあった。
巧の姿が、いつからか見えなくなっていた。

(まさか…)
あいつが、傍に居たのかもしれない。
嫌な予感に心がざわついて仕方なかった。


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「…もう、いいから」

優しすぎる声色に、堪えていたものが零れた。


今日は絶対に結果を残さなきゃいけなかった。
そう気負いすぎていたのかもしれない。

オレはドリブルの最中に激しいブロックに遭い、結果接触して転倒してしまった。
ここ数日の考え事なんて関係ない。
焦るあまりオレのプレーが乱雑になっていたことと、相手のタイミングが悪かったことが重なって起こった事故だった。
シバっちに交代するかと尋ねられて「いけます」と即答したものの、段々と足の痛みは酷くなるばかりで。
結局オレはベンチに引っ込むことになってしまった。

(情けない…)

オレの沈んだ姿はチームにも悪影響だった。
流れはがらりと変わり、結局大差で負けてしまったのだ。

皆は口々に「気にするな」「本番で勝とうぜ」と言ってくれたけれど、それは罪悪感を募らせるばかりだった。

これ以上迷惑を掛けたくなくて、シバっちが病院まで車を出してくれると言うのを断った。


重たい身体はベンチに張り付いたまま動かなくて、オレはぼんやりと虚空を見つめたまま動けないで居た。
そんなときだ。来てくれたのは――巧だった。

抱き寄せられる形になって、オレの頭を大きな手が撫ぜていく。
「お前は本当に…感情を押し殺してまで笑おうとするんだな」
「…巧?」
「お願いだ…俺の前ではそんな顔をしないでくれ…」
「……」

そんな顔って。オレは今、どんな表情をしているのだろう。
(きっと情けないんだろうなあ…)
その証拠にすでに涙でぐちゃぐちゃで、彼のワイシャツを濡らしている。
悪いから身体を起こそうと思ったのに、いいからと更に距離を縮められた。

虚勢はとうに見抜かれている。
だから嗚咽があがるだけで、言葉が上手く出てこない。
けれど巧は構うことなく、あやすように撫で続けてくれた。


試合開始前は期待にざわついていた会場は一転、水を打ったように静まり返っていた。
ブザーの音が無情にも終りを告げる。
生徒達は信じられない思いでスコアボードを見つめていた。

90-65。
同じような実力を持つ相手との試合とは思えないほどの点差をつけられて負けたのは――広海高校だった。

俺はただ一点を注視する。
タオルを頭から被り、ベンチに座っているキャプテンの顔は、応援席となっている2階から窺うことは出来ない。
泣いているようにも見えて、走り寄りたい衝動に駆られる。

どうしてこんなことになったのか。
それは他の誰よりも、本人が一番強く思っていることだろう。

巻かれた包帯。氷の袋。
きっと腫れているであろう左足――その怪我さえ、なければ。


試合はリードしていた広海が常にボールを支配する有利な展開だった。
事故は、そんな第二クオーターが終わりかけていたときに起こった。

ボールを持った聖人が、相手と接触してしまったのだ。

悲鳴が上がるコート。
変な態勢で転んでしまった聖人は暫く起き上がることが出来ず、蹲っていた。
監督に起こされた彼は2,3言話したあと試合に戻ったが、動きが明らかに可笑しかった。
すぐに止められた彼はそのまま交代を余儀なくされることとなり、キャプテンを欠いたチームは動揺もあったのだろう、急に動きが悪くなってしまった。

それからは圧倒されるばかりで、試合は一方的なものとなってしまったのだった。


ばらばらと生徒達が体育館から出て行くなか、俺は手摺を強く握り締める。

(聖人…)
彼は接触してしまった対戦相手に声を掛けられ、何か話していた。
頭を振っているところをみると、なんでもないと笑みさえ浮かべているのだろう。
心の中は痛いくらい、後悔の念に締め付けられている筈なのに。

そんな彼を見ていることしか出来ない自分が――歯痒かった。


「なんだよ、うち強いんじゃねえの?」
「これじゃ、今度の大会も望み薄だなー」
「…っ」

俺の後ろを通った男子生徒の酷薄な言葉にカッとなる。
(何も知らないくせに…!)

とても黙っていることなんて出来なかった。
声を張り上げようと、顔を上げる。


「必死に戦った奴らの試合見て、よくそんなことが言えるな」
深呼吸する。
その瞬間、敵も味方も関係なく――すべての存在は己の意識から消え失せる。
そして短く息を吐き、神経を集中させていく。

見据えた先には、直径45cmの輪。
感覚を研ぎ澄まして、指先が思い通りの軌道を描く。

何度も繰り返したその動きは、いつだって正確だった。



けれど今のオレが投げるそれはリングに弾かれ、嫌な音を立てて揺れていた。
バウンドしたボールが間抜けに転がって、静まり返った体育館に響く。

肩で息をするなんて情けない。
両膝に手をついて中腰になると、汗が鼻筋を伝って地面へと落ちた。


「最終下校時刻過ぎてるぞ」

突然降ってきた声に驚き、入り口を振り返る。
扉に背中を預け、呆れ顔の生徒会長がそこに立っていた。

「翼!吃驚した~なに、こんなところまで来るなんて珍しくない?」
「生徒会の仕事が長引いたんだよ。お前にメールしたんだけど返事来ないから、まだ練習してんのかと思ってさ」
「マジ?あー携帯まだ部室だから…」

謝罪の気持ちを織り交ぜながら眉を下げる。
「ま、会えたからもういいんだけとな」
言いながら翼が長い足でこちらへと近寄り、傍に落ちていたボールを拾った。

「来週練習試合だっけか?」
「そ。今度の大会でも確実に当たる、強豪校な」
よくこの時期に試合を引き受けてくれたと思う。
当然向こうも大会を見据えているのだろうが、ここで何かしらの収穫をしないと意味が無い。

翼は数回手元でボールをバウンドさせ、そのあとリングへと投げた。
まるで糸で引っ張られているかのようにリングの真ん中へすっと入るそれに、感心を通り越して少し呆れてしまった。

「…ずっるいなあ。生徒会長サマは苦手なこととかないわけ?」
「偶々だろ」
「あーあ。お前に今度の試合出てもらおうかなあ」
「馬鹿言うなよ。素人が助っ人出来るような戦力じゃないだろ」
広海高校バスケ部は大会で毎度上位の成績を納めている常勝校だ。
2年でキャプテンを務めるようになってから責任感は増す一方だし練習は相変わらずキツイけど、今が一番充実しているといえる。

そう、だから…うじうじといつまでも悩んでいるわけにはいかないんだ。
そんなことは判りきっているんだ。だけど。


「兎も角、もう帰んぞ。ほら、早く着替えて来い」
「え?…待っててくれんの?」
「そのつもりがないならここまで来ねえよ」
「…俊は?待ってないの?」
反射的にそう尋ねると、端正な顔の眉間に皺が寄る。

「俊ならとっくに帰ったんじゃないか?知らないけど」
「…そ、そう」
あまりにもさらりと言われて、何故か安堵している自分がいた。

「本当俊くんて可愛いよね!」
「髪サラッサラだし肌白いし華奢だし!」
「は、はあ…」

そんなことを言われて喜ぶ男子生徒がいるだろうか。
僕はそりゃあもうベコベコに凹まされながら、女生徒数人にいいように髪を弄られている。

…事の発端は、弁当も食べ終わった昼休みに彼女達にお願いされたことに始まる。
一度俊くんの髪触ってみたかったの!というその勢いたるや、普段聖人くんがこのクラスのマドンナだとべた褒めしていた可愛らしさも引っ込んでしまうような迫力で。
思わずたじろいでしまったのは、翼達も同様だった。

(こういうときの女性には逆らわないほうが身のためなんだよね…)

経験上嫌と言うほど知っている僕は泣く泣く了承して、彼女達に囲まれながら椅子に座らせられているのだ。
この状況は罰ゲームに近いというのに、周囲の男子生徒はいいなあだとか能天気に呟いている。
そう思うのなら、喜んでこの席を譲るんだけど。今すぐにでも。

「でーきた!」
「え…」

遠い目でそんなことを考えている間に、女子の一人が声を上げた。
「見てみて!」
「え…!ちょ、ちょっと!」
手鏡を渡され確認をしてみると…髪に可愛いクマのピン留めをつけられていた。
おまけにちょっと三つ編みをした上に、だ。
男子の格好としては、どう考えても異様だろう。

「きゃー可愛いっ」
「…確かに、そうしてると本当女の子みたいだよなあ」

僕の心境なんて知らず、男子の中でもそんな感想が漏れる。
だから、そんなことを言われて、喜ぶ人なんて…!
「ちょっと、いい加減に…!」

大人しく従っていたけれどそろそろ我慢の限界で、僕は声を荒げようとした。


「ね、堂本くんもそう思うでしょ?」
「!」

それに被せるように、彼女達のひとりが不意に翼に感想を求める。
彼は輪が開けて漸く僕の姿が目に入ったようで、目を見開いてこちらを凝視していた。

(う…こ、こんな格好見られるなんて…)

泣きたい。
でも、こんなにじっと見つめられるなんて今まで無くて。
こんな状況下だというのに、心臓が馬鹿みたいに跳ねる。


やがて彼はふっと、相好を崩した。
緩やかに口端がカーブを描くと、うっとりするような優しい顔になる。

「…うん、確かに可愛いな」
「…っ!!」

彼女達を同じ、一言だというのに。
衝撃波が体中に、電気のように走り抜けた。


彼女達もそんな翼に見惚れたらしい。
暫く、しんと場が静まり返った。
「…ねえ、思ったんだけど。今年の文化祭は、この二人で劇やらない?」
「え…?」

ぽかん、と口を開いた僕を余所に、わあ、と女性陣が一斉に歓声をあげる。
「ありあり!それ超いいアイディアじゃん!!」
「題材はなんにする?白雪姫?それともシンデレラ?」
「学年一のイケメンと美少女が同クラだもん!やらなきゃ駄目でしょ!!」

今美少女とか言わなかったかな。
そんな細かいことに突っ込んだところで…最早誰も聞いていないだろう。


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