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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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砂埃が舞う。
廃工場の扉がまるでスローモーションのようにゆっくりと剥がれていく。
重たい鉄のそれが地面にめり込んで、また巻き上げられて。

「な、なんだ…!?」
煙幕のようにもうもうと立ち上がるせいで、不良達は状況が掴めずパニックになっているようだ。
オレは願うような想いで、一点に集中する。

(も…もしかして…)

その扉の向こう、近付いてくるシルエットに、オレは息を呑んだ。

きらりと光る金髪。紅いピアスと右側だけつけられた、銀のループピアス。
今日の朝に見たばかりだというのに、もう遠い昔のように懐かしかった、そのひと。

「か…」

不良達が一斉に色めき立つ。

「嘉堵川…篤也…っ!?」

来た。
来てくれた。

(篤也先輩…っ)

先輩の顔を見たら緊張の糸が切れたのか、堪えていた雫が頬を伝った。


篤也先輩は工場内をサッと見渡した。そしてオレと目が合うと、見開く。

「!直…っ」
「んー!」
オレも必死に、布の下から先輩の名前を叫ぶ。


「…テメエら……」

先輩が拳を硬く握り締める。
震えているのは、憤怒故だろうか。

鋭く尖った金属のような瞳が、不良達に向けられる。



「…全員、ぶっ殺す…!」
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(く…苦し…っ)
ぎりぎりと締められ、うっすら意識が遠のいていく。

「おいおい、ユキ…その辺で止めとけって」
ユキさんの激高に戸惑ったらしい。不良の一人が止めに入る。
「そーそー。その為にオレらが居るんだろ?」
「――…そうね…」

彼らの言葉に、ふっと力が緩んだ。
やっと酸素が吸えて、盛大に咳き込む。

すくっと立ち上がったユキさんは、埃でも払うかのように両手を叩く。
「それもどうせ、今日で終わり…」
数歩下がったところで勝ち誇った様子で笑われるが、息をすることに気を取られて何を言っているか理解できない。

「アンタはもう二度と、篤也の隣を歩けなくなるんだから」
「……?」

涙で滲んだ眼前のユキさんの後ろにいた不良達が、ぞろぞろと集まってくる。
「え…何…っ」
これ以上何が起こるというのだろう。
まだ整っていない呼吸は上手く言葉が紡げない。

そんなオレにはお構いなしに、数人の不良がしゃがんでオレに手を伸ばす。
そして、勢い良く学ランの下のシャツ掴んだかと思うと――乱暴に、引き寄せた。

強い力に無理に開かれ、ボタンが飛び散る。

「え…」

小さなボタンはコロコロと転がり、すぐ近くのドラム缶にぶつかった。
屈んだ男達は、後ろのリーダーを見遣る。

「なあ、本当にやっちまっていいのか?」
「あの嘉堵川篤也がまだ手ェ出してないんだろ?」
「うわーバレたら殺されるな…」

(なんのこと…?)
混乱するオレを悠然と見下ろしながら、リーダーはポケットに忍ばせていたものを掲げた。

「山田直なんて、名前まで平凡じゃん」

己の名前を鼻で軽くあしらわれた。その剥き出しの敵意に目を見開く。
まあ確かに初対面で先輩と一緒にいるところを見られた訳だし、オレなんかにいい感情は持たないだろう。
瞬時にそう納得した思いを裏付けるように、ユキさんが続ける。


「アンタさあ、ウザイから消えてよ」
「…えっ」
直球ストレートなその台詞に、思わず間抜けな声が漏れた。


周囲にいた不良達が、どっと笑い声をあげる。
「うっわ!ユキちょーヒデエ!」
「山田くん固まってるし!」
「ハッキリ言いすぎだろー!」
ゲラゲラと遠慮も気遣いも無いそれらが余計に心を冷やす。
ユキさんはうざったそうに髪を掻き揚げながら、「つーかさあ」と 指差した。

「アンタってホモなの?男の、しかも平凡の分際で篤也にひっついてさあ…超キモイ!サイテー!」
「ち、違…っ」
「うるさい!」
あまりにあんまりな罵倒に咄嗟に反論しかけたオレを、一喝で黙らせる。
ここに居る不良達となんら変わらない。いや、それ以上に恐すぎる。
完全に怯んでしまったオレはぐ、と言葉を飲み込んでしまった。

ユキさんはそんなオレを侮蔑の眼差しで見下ろす。
「アンタの意見なんて聞いてないの。…兎に角、二度と篤也の前に現われないで!いいわね?」
尋ねていながら、それは否定を許さないものだった。

(…ウザイとか、サイテーとか…)

一方的な断罪を下され、恐怖を通り越してなんだか可笑しくなってきてしまった。
口端が緩むと、いつの間にか切れていたのだろう、ピリリと痛みが走る。


(酷いなあ…)
それは、毎朝の目覚めとは程遠い、酷く不快なものだった。

泥沼から身体を掬うように、思考を浮上させるのも重苦しい。
それに伴い痛みがはっきりと輪郭を現してきて、顔を顰める。
(あれ…?オレ、どうして……)

「…っ」

酸素を取り入れようとした口の中に広がる、鉄分の味。
それだけではない。腹もジンジンと痺れている。
何故だろうとぼんやり原因を考えながら身体を動かそうとして、は、と気付く。
己の両腕は真上に束ねられ、動きを封じられている。

(え…何これ…縛られて…?)


そこまで現状を把握できたオレの頭上から、楽しそうな声が降りてきた。


「お、オヒメサマがお目覚めだぜ」
弾かれるように顔を上げると、そんなオレの表情が愉快だったのか男達の笑みが深まる。
「あ…貴方達は…」

思い出した。
オレは校門の前でこいつらに会って、突然殴られ――拉致されたのだ。

連れてこられた場所はもう長いこと使用されていない、工場のようだ。
壁にはヒビが入り、窓ガラスは割れている。
隅に置かれたままの鋼材やタイヤに腰掛けている男達はきっと仲間なのだろう。
先程よりも人数はずっと増えて、見たところ30人はいるだろうか。

オレはというと、天井から下がっているチェーンに繋いだロープに両腕を縛られ、壁際に座り込んでいる状態だ。
そして彼らは皆、一様に下卑た笑みを浮かべている。
どうやらここに、オレの味方はいないようだった。
「あーつまんなーい!」

吐き捨てるように言うと、前園は地面の小石を蹴飛ばした。
両腕を頭の後ろで組みながら溜息を吐く。
「なにアイツらー超激弱だったんですけどー」
相変わらず間延びしたような言い方だが、その中に隠せない苛立ちが紛れていた。

それを汲み取った桜橋が、引き継ぐように口を開く。
「粗方片付けたけど、肝心のリーダーが見つからないね」
「ええ。この近くにいるのは確かなんですが…」
二階堂が携帯を操作しながら頷く。

彼らRed Scorpionは、数日前から最近縄張り内を荒らしているグループの退治に乗り出していた。
本来ならば部下たちに任してもいいような仕事だったが、総長自身がやると言い出したために幹部も続いている。
それというのも、一抹の不安が胸を過ぎっていたからだった。

(…まだ、知られてねえみたいだけどな…)
一人先頭を歩きながら、眉間の皺を刻む。
参謀が齎した情報はいつでも確実だ。だからこそ、急がねばならない。
最悪の事態を避けるためにも。


目を瞑ると直ぐに浮かぶのは――心配そうにこちらを見上げた、その顔。
『怪我、しないでくださいね』

(―――…直…)

柔らかい声色が紡ぐのは、いつだって誰かを気遣う言葉で。


こんな不良に向かってそんな優しいこと言うのは――…お前だけだ。




暫く歩いていると、やがて月峰高校の正門が見えてきた。

自然と歩調が速くなるのは、一刻も早くその姿を視界に収めて安心したいから。
今日は部活と言っていたが、徐々に薄暗くなってきたこの時間ではもうそれも終わっているだろう。
待たせているかもしれないと思うと、余計に焦りが生まれた。


だが、そこに彼の姿はなかった。
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