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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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「あ…あのときの…」

案の定、直は黒目がちの瞳を零れんばかりに見開いていた。
予想通りの吃驚した顔がなんだか可愛くて、小さく微笑ってしまう。

ああ、と頷きながら、オレは話を続けた。


「…けれど、お前に見惚れていて、その場では声も掛けられなかった…」


子猫を抱いた直が路地裏から去るまで、オレはただ見送っていた。
そのあとどうやって家に帰ったのかも記憶がない。

ただ、ふわふわとした妙な感覚に襲われていた。
しかしそれは、決して嫌なものではなくて――寧ろ、やっと落ち着くべきところを見つけたような、そんな安心感で。
それは表情にも出ていたらしい。
オレの変化に龍人達は目敏く気がついたようで、翌日直ぐに事の次第は露見することとなった。

ただこいつらは話をしてもいいと思えるほどに信頼していたから、オレは昨日のことを話すことにした。
2人は一様に驚いた様子だったが、話を聞き終わると考え深げに頷いた。

『そっかそっかー。あの篤也が恋しちゃうとはねえー』
『それも真実の恋、ってところかな』
『…恋…?』

言葉にされた単語をぼんやり鸚鵡返しするオレに、龍人が苦笑する。
『え、ちょっと篤也、無自覚だったの?』
『……』
確かに自覚はしていなかった。
が、考えれば確かにこの感覚は、慕情よりも恋情…に近いのかもしれない。

オレはどうしても忘れられないでいる。
否、それどころではない。

あの笑顔が、見たい。傍に居て欲しい。
あれから、それだけを考えるようになっているのだから。
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(…なんだ?あのガキ…)

見たところ1、2歳…いや、もっと年下だろうか。
随分と幼い印象を与えるのは、大きな瞳と少年特有の丸い輪郭のせいだろう。
ソバカスのある顔を悲しげに歪めて、そいつは黒猫に話しかけている。

『お前…捨てられたのか?怪我までしてるのに…』
そう呟くと、そいつは荷物を地面に置き――怪我ひとつない綺麗な手で、迷わず抱き上げた。

『ごめんな…っ』
そのまま暖めるように背中をさすってやりながら、堰を切ったように続ける。
声が揺らぐ。
嗚咽を噛み殺しながら、雨に塗れた頬に違う雫が伝った。

『こんなところに捨てられて…痛かったよな?寂しかったよな?…本当に…ごめんな…』
猫を真っ直ぐ見つめ、何度も何度も謝罪の言葉を口にする。


その光景を、オレはぼんやりと見つめていた。
このまま行ってしまえばいいと思うのに、足が動かない。
それだけ、あのガキの行動が不可解に映っているからだろう。

変な奴だ。

自分が捨てた訳でもないし、そもそも関係も無い筈だ。
なのに何故、あそこまで苦しそうな顔をするのだろうか?

可哀想だからと、上っ面の気持ちで手を差し伸べるのならば。
それならば、あんなふうに泣いて謝ったり…するだろうか。


(…分かんねえ)

傘も投げ捨て抱きしめるそいつの身体は、既にズブ濡れだ。
足元も跳ね返るドロのせいで汚れている。
それなのに、一向に構わずに抱きしめ続けている。


こいつは、一体なにをしているのだろう。
オレには理解出来ない。

でも、目が離せなかった。
冷たい雨が降りしきる路地裏。

重なるように倒れている人間達を見ても、なんの感情も動かなかった。
3対10でやった喧嘩は不意打ちで襲われたということもあり、こちら側も多少の傷を負っていた。
オレも久々に頬を殴られた。それだけで苛立ちを募らせるには充分すぎた。
手加減なんてものは知らない。骨を折っている奴もいるだろう。
まあ、オレに喧嘩を吹っ掛けてきたのだから、それぐらいは覚悟しているだろうが。

『も、もう…許し…』

よろよろと顔を上げた一人が、命乞いをしてくる。
頼むくらいなら仕掛けてこなければいいだけの話だ。
虫のいい哀願にまた機嫌が悪くなって、オレはその頭を思い切り踏みつけた。

『…うぜえ…』

『なあ、篤也ー』
オレの後ろで最後の一人をのした龍人が間延びした声で話しかけてくる。
『オレ達このあとアジト戻るけど、どうするー?』
『…行かねえ』

一瞬考え、呟くように断る。
今日は酒を飲んでも女を抱いても、気分が晴れそうにもない。
右手に残る殴った感触だけが鮮明で、それがまた無性にムカついて。

なんにも考えずに、ふらりと歩き出した。
優士と龍人の視線を背中に感じたが、アイツ等は無駄なことは言わない。
そのまま見送るのだろうと判っていたから、オレも黙って歩き出した。


地面に打ち付けては跳ねる雫。
制服はすっかり濡れて、随分と重くなっている。
雨に打たれれば少しは綺麗になるかと思ったが、状況は何も変わらない。
オレは天を仰ぎ、舌打ちをした。

駄目だ。
全然、満たされない。
心が、渇きが、癒されない―――


そのとき、不意に声がした。
か細い、今にも消えそうな声だった。
ガキの頃からずっと、心が渇いていた。


一流企業に勤めるキャリアウーマンの母と、資産家の父。
家も広く使用人も数人いて、暮らしとしては上流階級だったのだろう。

けれど、己の境遇を幸福だと思ったことは一度もなかった。

両親が仕事のことしか頭になく、その邪魔になる子供のオレを疎ましく思っている――
そんなことは、物心ついたころには既に理解していたからだ。

彼らは家に帰ることも殆どなく、オレはいつも一人ぼっちだった。
寂しさから泣いて我侭を言ったこともあったけれど、その度に両親が浮かべる表情は迷惑そうなもので。
そこに一握りの愛情でもと縋ったことにすら傷ついて、いつしか2人に期待することがなくなった。

どんなに金があろうと、どんなにモノを与えられようと――温かみのないあの家は、牢獄と同じだった。


けれど、周りは違った。
あれは、中学生のときだ。

『嘉堵川君』
呼び止められ振り向くと、クラスメートの数人がやけにニコニコしながら近寄ってくる。
『君のお父様の話を聞いたよ。また事業に成功したそうじゃないか』
『…は?』
いきなり何を言い出すのかと思ったら。
名前も覚えていない奴の口から出てきた親の話に、眉間に皺が寄る。

中学校は親の勝手な方針により、金持ちばかりが通う私立に入れられていた。
どこの家が名門だとか、どこの親が成功しているだとか、そういう話にばかり感心を持っている奴らばかりだった。
こいつも例外ではないらしい。
不機嫌そうに聞き返したオレにはお構いなしで、横にいた生徒も口を揃える。

『お母様も相変わらず大活躍だし…本当に君の家は素晴らしいね』
『うんうん…君が羨ましいよ』
まるで首振り人形のように同調する奴らに、益々機嫌が降下していく。
ここに入ってから、何度この手の話をされたことだろう。

『……そんなに欲しいならくれてやる』

無性に苛立ちが募って、舌打ちと共に小さく吐き出した。


ああ、こいつらみんな同じだ。
キリ番4500を踏んで下さった方へのお返事ですv(以下反転どうぞー)

>伊東さま
コメント有難うございます!そしてキリ番おめでとうございますー!
いえいえ、こちらこそ更新の遅いサイトに来てくださって有難う御座います…!
それでは、リクエストは今後の甘い展開、ということで(笑)…が、頑張ります…!
いよいよ山田くん~編も佳境ですので、お付き合いいただけると嬉しいです。
それでは、コメント有難う御座いました!
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