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オリジナルBL小説を扱ってます。 メインはLiebeシリーズ(不良×平凡)サブでCuadradoシリーズ(生徒会長×お調子者と親友たちの4角関係)も。pixivで漫画連載してます。更新情報はツイッターでどうぞ。
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相手は振り向かなくても分かっていた。
オレよりも幾分か背の高いその人物は、呆れ顔でこちらを見下ろしていることだろう。
ゆっくりと首を捻ると、予想通りの鋭い目線にかち合う。

「あ、巧!」

オレがやっぱり、と思うのと同時に、聖人の能天気な声が上がる。
普通の人ならこの眼差しだけでたじろぐものだが、こいつにはそんなものは通用しないらしい。

「えっと…?」
城ヶ崎も御多分に漏れず、高校生らしからぬ雰囲気を醸し出す男に動揺してしまったようだ。
おろおろとオレ達を見比べる彼に、聖人がすかさずフォローを入れた。
「あ、こいつは西園寺巧!我が高校フェンシング部の期待のエースなんだぜ!」
な、と言いながら、聖人は男の…巧の肩をバシバシと叩く。

「へえ…凄いんだね」
「だろ~?」
「なんでお前がそんなに得意そうなんだよ」
「え、だって自慢じゃん!なあ?」
本人に確認するように言っても、困らせるだけだろうに。
オレが内心そう突っ込みを入れるも、巧は柳眉を僅かに吊り上げただけだった。

「全く…お前は本当に元気が良すぎるな」
「ごめんごめん」
「……」
仕方ない、と一見呆れた様なその仕草はごく自然なものだ。
だからだろう、聖人の奴も少しも疑問に持たず、笑いかけながら再び歩き出した。

それに続く形で、城ヶ崎も着いていく。

「……」
「あれ、堂本くん?」
「あ、ああ…今行くよ」

幾分ぎこちないながらも、反射的に浮かぶ笑顔を向けた。


傍から見れば、極々一般的な、友人同士の会話なのだろう。
分かっている。そうでなければ。

歩きながらふと、ポケットに入れたままの掌を握り締めていたことに気づく。
力を緩めると、そこはすぐに血の気を取り戻した。
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「ぼくって…ことは…男…?」
「見れば分かるだろ」

たっぷり数秒間を空けて反応した間抜け面を、オレは苦笑しながら小突いた。
まあ、聖人がすぐに理解出来ないのも無理は無い。
オレも数十分前までは、女性だと思いこんでいたのだから。

「よろしくね、えっと…進藤くん?」
しかし彼は失礼な聖人の言葉に気分を害することもなく、にこりと笑みを浮かべて小首を傾げる。
それは同性からみてもどきりとする仕草だろう。
現に隣の男は、さっと耳まで赤くなった。

「あ、オレは聖人でいいから!よろしくな、俊!」
「うん、こちらこそ」
そしてオレの腕から抜け出すと、満面の笑みで転校生と握手なんてしている。
すぐに状況に対応できるのがこいつの長所でもあるとは分かっているのだが…如何せん、変わり身が早い気もする。

「でもお前、どうやって俊と知り合いになったんだよー?ナンパでもしたのか?」
む、と眉を寄せたオレを急に振り返り、聖人がぴっと人差し指を突き立てる。
人を指すな、と釘を刺しつつ、少し濁して応えた。

「するかよ。…まあ、ちょっと…電車の中でな」
「そ、そうなんだ。僕が迷っているときに助けてくれて…」
「ふうん?」
曖昧なオレの言葉を、城ヶ崎が慌ててフォローする。
聖人は疑問が残るようだったが、それ以上は追求してこなかった。

誰よりも当人が一番知られたくないだろう。
オレと知り合ったきっかけが…痴漢だなんて。
「…嘘だろ……」

麗らかな春の日差しが照らす、朝の通学路。

爽やかな空気とは対照的に、オレは先ほどから何度もその言葉を繰り返していた。
頭を抱えてしまいたくなるくらいに衝撃的だった、朝見た夢のせいだ。

オレ――進藤聖人が見たのは、堂本翼という男に抱かれている夢。

勿論オレはアイツとそんな関係でもなければ、そういう意味で好きなわけでもない。
中学生のときに出会ったあいつは――オレの人生を変えてくれた、謂わば恩人なのだ。
あいつを夢とはいえ汚してしまったようで、オレはぐるぐると罪悪感に苛まれていた。

(潜在意識で好き…とか?いやいやいや、それはないって!)

一瞬思いついたそれを、即効で打ち消す。
確かに高校生になった今でも付き合いがあるほどに好きだけど、それは当然友人のそれであって恋愛対象ではない。
オレも健全な男子高校生なのだ。ゴツイ男より、可愛い女の子が大好きに決まってる。
(そりゃ彼女が出来たことはないけどさ。それは只オレにチャンスが無かっただけで…)
いつの間にか思考は、翼から己の経験の無さに向いていく。


アイツと同じ、進学校である広海高校へと入学して2年目の春。
今年こそは彼女を作って花の青春を謳歌するのだ、とオレは息巻いていた。
そんな矢先、新学期一日目の朝にあんな夢を見てしまったのだ。
悲しくもなるというものだろう。

(翼は…彼女とか作る気ねえのかなー)
完璧なルックスにモデル並みにすらりと長い足、それに帰国子女というおまけつき。
いつだって女子生徒から熱い視線を集めているアイツはそれこそ不自由しないだろうに、中学のときから告白を了承したことが殆どないらしい。
付き合ってもすぐに別れてしまうのだと聞かされた時は嫌味かと腹も立ったものだが。

「全く…贅沢な奴だよなあ…」
ずり落ちそうになった鞄の肩紐を直して、オレは軽く溜息を吐いた。
オレなんていっつも面白い人やいい人、で終わっちまうってのに…


考えているうちに段々とムカついてきて、朝見た夢のことは薄らいでくる。
それに少し安堵しながら、角を曲がったとき。
数メートル先を歩く、翼の背中を見つけた。

「あ、おーい、つば…」

名前を呼ぼうとしてそのまま固まる。
その隣を楽しげに歩く、女子高生を見つけてしまったからだ。
ぼんやりとした闇の中。

顔を上げると、いつになく余裕の無い顔があった。
普段憎たらしいくらいになんでもやってのけてしまうくせにと小さく笑ってしまうと、不機嫌そうに眉がつりあがった。

それも一瞬のことで、すぐに余裕がなくなったのはオレのほうだった。
主導権は今や完全に、目の前の人間に握られている。

激しくなる動きに声帯を震わすそれが女の子のようで、恥ずかしくなって指を噛んで耐えようとした。
しかしすぐにそれを取られてしまい、シーツの上に縫い付けられて。
声を聞かせろなんて、低音で耳元に囁かれる。
その声にどれだけオレが弱いかなんて、全部知ってやっているのだから、タチが悪い。

思い切り睨み返そうと思ったのに、涙が浮かんでいる状態ではまるで意味が無くて。
寧ろさらに煽っただけだと知ったのは、目尻の雫を舐め取られたあとだ。

急にラストスパートをかけられ、身体が魚のように跳ねる。
もはや言葉になんてならない。
呼吸をするので精一杯で、背中に必死にしがみ付く。

最後の瞬間、オレは叫ぶように紡いでいた。


「翼…っ」


大切な親友。
そして――オレを掻き抱く、その男の名前を。
息が止まるかと思った。

嬉しい。
嬉しくて、泣けてしまう。
そう思っているうちにみるみる先輩の顔が滲んでくる。

オレの目尻に優しくキスを落として、先輩が耳元で続ける。

「愛してる、直」
「…っ」

こんなに幸せな言葉って、あるだろうか。
オレも先輩が好きで、先輩もオレのことを、好きだと言ってくれて。

同じように言いたいのに嗚咽が出てしまいそうで、オレは先輩の手を握り返すことしか出来ない。
でもそれだけで伝わったようだ。先輩が、目をそっと細める。

ああ、こんな顔、するんだ。
いつも夜の海のように冷たかった瞳が、春の日差しのような優しさを宿して。
そしてそこに、オレを映してくれる。


愛撫は喉、鎖骨とゆっくり降りてくる。
「ひゃっ…!」
と同時に右手がシャツの下から素肌に触れて、吃驚して変な声が出てしまう。
も、もしかしなくても、これって…

「直…いいか?」
「…っ」

考えていると、先輩が確かめるように尋ねる。
短い言葉のなかにも滲む、切羽詰った声色。
理性で必死に抑えようとしているのは明白だった。

オレの迷いなど、一瞬だった。

嫌なんかじゃない。
だから、だから…


こくん、と一つ頷くと、先輩は唾を飲み込んだ。
そして、壊れ物を扱うようにそっと、長い指がシャツのボタンへと伸びる。

魅力的でもない、平凡で貧相な身体だけど。
先輩の手が触れてくれるだけで、こんなオレでもいいんだって、思えるから。


だから。
先輩に、抱いてほしい。
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